障害をもつ子どもたちへの希望 ~パレスチナ赤新月社ろう学校の活動~

日本赤十字社(以下、日赤)は、2016年3月よりパレスチナにてろう者をはじめとする要支援者の弱いグループへ質の高いリハビリテーションサービスを提供するため、ろう学校職員への技術研修の実施、機材・教育ツールの購入等の支援をパレスチナ赤新月社(以下、パレスチナ赤)を通じて始めました。これを受け、日赤中東地域事務所代表の五十嵐真希要員がパレスチナ赤を訪問し、同社が運営をおこなっているろう学校を視察したので、その報告をお届けします。

ろう学校設立からの経緯と問題点

テキスト ボックス: パレスチナの地図

パレスチナ赤は、1997年よりろう学校(1993年設立)の運営を行っています。パレスチナでは、ろう学校への政府からの支援は少なく、ヨルダン川西岸地区にある11の学校は、十分な数の先生や本の確保ができず、更には、多くの耳の不自由な子どもたちが通学費などを負担できず学校に通えないという、多くの課題を抱えています。このろう学校は、パレスチナ赤の支援が始まる前は、海外などからの支援で運営していましたが、1997年に支援が終了したことを受け、パレスチナ赤が引き受けることになりました。「当時は、教育システムも古く、生徒数も35人程度でした。パレスチナ赤の支援が始まったことで、多くの子どもたちが学校へ通えるようになり、教育方針を総合教育(手話、発音、読み書きなど)に変え、教育の質が変わりました」と校長先生は語ってくれました。2000年以降、イスラエルとパレスチナの関係が悪化し、当時在学していた20人の生徒たちは、ろう学校のあるラマラへのチェックポイントを通過することができず、自宅などで勉強せざるを得ない状況だったのです。これにより確実に教育の質が向上し、耳の不自由な子どもたちの勉強への意欲が上がっている中で、紛争により教育へのアクセスが閉ざされてしまったことになります。しかし、2003年から、学校へ通学できるようになり、現在は、幼稚園児から高校生(3才から18才)までの84人が本校にヨルダン川西岸地区から通学しています。耳の不自由な子どもたちが学校へ通えるチャンスは広がりましたが、子どもの数の多いパレスチナの家族は、現在も通学費などの負担に苦しんでいます。

ろう学校卒業生の進路

パレスチナ赤ろう学校は、現在まで40人が卒業し、そのうち、累計30人が大学に行っています。最初に大学へ進学した学生10人は、通信教育による大学教育を受けていましたが、数人の通訳に頼っての授業は、想像以上に困難が多く、生徒たちは非常に苦労をしました。この経験から大学などとの連携・十分な通訳・教授らの支援により現在6人が通っています。特に、過去、就職の難しかった耳の不自由な人たちへ手に職を付け、就職に有利になるように、ろう学校の卒業生は、テクニカルカレッジなどの技術が習得できる大学への入学を先生から推奨されています。

ろう学校卒業生の現在 ~母校をサポートできることの喜び(卒業生アスマさんの事例)~

五十嵐さん写真(R0036325.jpg)のサムネイル画像
テキスト ボックス: パレスチナ赤ろう学校の卒業生で同校の臨時教師をしているアスマさん(右)と五十嵐要員(左)

パレスチナ赤ろう学校で、産休中の先生の代わりに臨時教師をしているアスマ・アブダル・カビーン・アニャウィさん(27歳)は、パレスチナ赤ろう学校の卒業生です。アスマさんの家族11人のうち6人(お父さん、9人兄弟のうちの5人)は耳が聞こえません。耳の不自由な兄弟姉妹全員が、パレスチナ赤ろう学校に通いました。アスマさんと兄弟姉妹は、2001年から2年間、パレスチナ・イスラエル紛争の影響を受け、学校に通えず、自宅で勉強をしました。時々、先生が自宅を訪問してくれることもありましたが、兄弟姉妹とともに、非常に辛い2年間の経験だったと語ります。ろう学校を卒業後、大学に入学し、数学を専攻しましたが、通訳のサポートをうけられませんでした。そのため同級生のサポートをうけ、人一倍の努力をしましたが、やはり授業についていくのが難しく、専攻を数学から歴史に変更しました。2年目からは、大学からの通訳サポートがつき、すべての授業を確実に理解できるようになりました。更に、持ち前の努力により、無事に大学を卒業することができました。アスマさんは、「(大学を)卒業できて、すごく嬉しい。今は、仕事を探していることころです。臨時教師ではありますが、自分が通った学校をサポートできることは、非常に心地良いです。自分の大変だった経験を活かし、同じ問題をかかえる子どもたちへのサポートは、非常にやりやすいし、やりがいがあります」と、校長先生の前なので恥ずかしがりながら話してくれました。校長先生は、「アスマさんは、非常に努力家です。今は、臨時教師ですが、正規職員になるための申請を教育省へおこなっています。彼女は、子供たちの良いモデルとして、この学校に戻ってきてくれて非常に嬉しく、誇りに思っています。他の卒業生たちにも、彼女と同様に学校に戻り、学んだ事を、自信をもって次世代の子どもたちに伝えてくれることを期待しています」とコメントしてくれました

日本赤十字社の中東支援

日赤は、パレスチナをはじめ深刻な人道危機に陥っている中東地域を重点的・優先的に対応するため2015年3月に「中東地域紛争犠牲者支援3カ年計画」を策定しました。本年度は、本計画の中間年度であり、今回の報告にあるパレスチナのろう者、女性および子どもといった社会的要支援者に対し、赤十字の強みである「国内外ネットワーク」および日赤の強みを生かした「医療・保健分野」で今後中東支援のため一層の貢献をしたいと考えています。

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