レイテ・学校の建て直しが完了しました! ~多種多様な専門家が赤十字の人道支援を支えています~

2013年11月、猛烈な台風「ハイエン」(台風30号)がフィリピン中部を直撃し、とくにレイテ島に壊滅的な被害をもたらしました。日本赤十字社(以下、日赤)は、フィリピン赤十字社(以下、フィリピン赤)と協力しながら、レイテ州都タクロバン市とその周辺の学校施設の復興工事を実施し、第一期工事が昨年2015年11月に完了、第二期工事も今年7月末までに無事故で完了しました。日赤が修復・再建に協力した学校は合計9校、96教室にのぼります。

今回のニュースは、レイテ島タクロバン市で修復・再建の管理にあたった建設担当要員 藤井稔がお伝えします。

工事中に重視したこと

21.jpg

児童と竣工した小学校にて(右端は藤井要員)

この修復・再建工事の期間を通して、わたしが重点を置いたのは、おろそかになりがちな、品質管理と施工監理でした。工事関係者と定期的な現場の見回りや、立ち合い検査などの機会を設け、何度も現場に足を運びました。そして問題がある個所は作業に携わる人びとと一緒に解決していくように心がけました。

工事現場では安全衛生管理も大切です。工事が始まった頃、日本では当たり前の、ヘルメットや安全靴の着用は、ほとんどなされていませんでした。安全面では、例え基礎工事のように平地での作業であっても、現場内では安全ヘルメット着用は厳守するように指導しました。工事現場内は足元が悪い場所も多く、サンダル履きの禁止も徹底しました。

衛生面では、廃材、残材などで、工事現場内はとても汚れやすい環境になりがちです。そのため、毎週金曜日午後に一斉清掃する時間を設けました。材料工具の整理整頓が、結果的には作業の効率化に結びつくことも、繰り返し工事関係者に説明しました。

現場の作業員の目線は、自分の日々の作業に集中しています。しかも常夏のフィリピン、タクロバンの年間通しての日中平均気温は26.8℃。工事現場は炎天下の作業です。そのため、ヘルメットを脱いでサンダル履きになり、少しでもラクなスタイルで作業をしたい、という作業員の気持ちはわかります。さらに、かれらは作業だけで体力を消耗してしまい、どうしても片付けや清掃は後回しになりがちです。

毎日がその繰り返しで、気になった時にヘルメットの着用や廃材の片づけを口うるさく指導したところで、それが例え作業員の安全への配慮であっても、言われた相手には意図は伝わらないものです。

そこで、午前10時と午後3時の休憩時の落ち着いたときに作業職長に少し時間を作ってもらい、話をするように心がけました。冷たい飲み物を持って行き世間話も交えて話をすると、更に落ち着いて話を聞いてもらえます。現場内では指揮系統をはっきりさせるため上下関係は必須です。しかし、休憩時間中には同じものを飲み、火照った体を冷やしながら話をすると、業務上の立場の違いはありますが、現場では一緒になってやっていくという気持ちが表れてきます。

工事関係者泣かせの雨

2.jpg

現場での技術指導の様子

常夏のフィリピンの中でも、タクロバン周辺は一年を通じて多雨の気候です。加えて今年(2016年)1月-2月は例年にも増して雨天が続き、基礎土工事の工程に悪影響を及ぼすようになりました。

そんな時は、ひたすら耐えることも必要です。日中は晴天で順調に掘削を行っても、夜間には予期せぬ大雨になり、翌朝掘削個所が崩れているのを発見する。急いでポンプで泥排水をし、再度掘削、掘削の連続。

あるいは、鉄筋配筋の作業が完了しても突如強いスコールのために泥田のようになってしまい、恨めしく雨を見ながら、コンクリート打設を延期せざるを得ないことも多々ありました。そのように天候不順の続く時には現場作業をいったん停止し、その間に鉄筋加工や型枠材の先行加工などできることを進めて、工事工程の準備段取りを変えることにより、ある程度の工事遅延を吸収しました。

しかし、一度遅れが生じると、完全に遅延解消するのは難しいものです。そんな時に限って、焦って足元が悪い工事現場内では転落転倒事故が起きてしまいます。このような時は決して焦らず、工事現場関係者と今後の作業段取りや細部納め方法の再確認など、屋内でできる作業を行うこととしました。その結果、遅延は最小限に留めることができました。

地元に残せるものは建物に限らない

5.jpg

落成後の小学校。学校長と職員に給水設備の取扱い方法を説明している。学校職員(左端)は、説明内容をスマートフォンでまとめている

この事業における最も重要なことは、修復・再建工事を無事故で無事に完了させ、児童・生徒が速やかに学校に戻れる環境にすることでした。それと同時に、今回工事作業に携わった現地の人たちが、工事作業中のヘルメット着用など安全衛生管理の意識や、工事現場に必要な論理的な思考を持ってもらうことも重視していました。

作業員たちが次の工事現場で、今回の現場のことを思い出し、彼らが考えて応用させてくれれば、現地駐在した一建築技師の私にとっても嬉しい限りです。

それらも今回の学校修復・再建事業から生まれた、適正技術移転と呼べるものであり、日赤がフィリピンに残す、ひとつの成果となるでしょう。

この記事のPDF版は(PDF:726.1KB)