南スーダン:今を生きる人びとのために

長期にわたる内戦を経て2011年7月に独立した南スーダン共和国。その二年後に自国内で勃発した紛争の犠牲となっている人びとを支援するため、日本赤十字社は医師や看護師を派遣しています。現地で活動した要員が二回にわたり、支援の現場の様子をお伝えします。今回は、2015年10月から約10カ月間、首都ジュバから北東に約500km離れたマイウート(人口約8万人)にひとつしかない病院で、赤十字国際委員会(ICRC)病院事業管理者として活動した吉田千有紀看護師(日本赤十字社和歌山医療センター)からのレポートです。

紛争により傷ついた人びとを支える

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銃で撃たれて右腕の切断を余儀なくされた子ども 笑顔が戻るまで回復した ©ICRC

私は、病院事業管理者として、マイウートの病院と一次保健施設(プライマリーヘルスケアユニット)の事業管理を行ってきました。今年に入って、約100人の武器外傷患者さんが、私たちの病院で治療を受けています。紛争の犠牲になった人びとの多くは、心にも大きな傷を負っています。来院した当初、誰とも話すことのできなかった患者さんが、少しずつ私たち医療従事者を信頼し、心を開いて会話できるようになってくれることを日々、嬉しく感じることもありました。一般外科に加え、熱帯地域特有の疾患(マラリア、急性呼吸器感染症、リューシュマニア、寄生虫症)や重度の栄養失調に罹患した患者さんも私たちは治療しています。特に、5歳未満児の栄養失調と重症マラリアにより来院を余儀なくされた患者さんも多くいました。多くの患者さんは、マイウート周辺の地域、もしくはエチオピア国境沿いにある難民キャンプから来ます。というのも、マイウートはエチオピア国境から20キロ程しか離れていない地域に位置しているからです。道路や公共交通機関が十分に整備されておらず、4月から10月の雨季には、道路は川のような状態になり、四輪駆動車もぬかるみにはまってしまうほど移動が困難になります。その中を、患者さんたちは何日もかけて歩いて病院にやってきます。

病院や一次保健施設で働く医療従事者を支える

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雨が降ると水浸しだったキッチンを、小石を敷き詰めて何とか調理できるようにした ©ICRC

2014年12月以来、ICRCはマイウートの病院と一次保健施設を支援しています。ここでは100名の医療従事者が働いています。紛争によって通学を断念し資格の取得ができず、働きながら勉学を再開するスタッフも多くいました。そのスタッフたちに、確かな医療技術と知識を習得してもらうため、私たち医療要員が日々、現場での医療技術や看護技術の訓練を行っています。スタッフたちは、学べること、そして、赤十字の支援する病院で働けることに大変な誇りとやる気を持っています。しかし、困難なこともたくさんあります。電気もないところで、発電機を使って一日12時間電力を供給しています。使える医療器具や医薬品も限られています。そのため、太陽電池を使った冷蔵庫、照明器具を使用しています。病院の施設整備も問題で、キッチンには屋根もなく、雨が降ると水浸しになっていました。地面に小石を敷き詰め、トタン屋根で雨水が入らないように工夫しています。私たちは入院患者さんへの食事の提供も始めました。現地では、薪や水、食材の確保など食事の準備には大変な労力を要します。しかし、武器外傷や栄養失調の患者の回復には、栄養価の高い食事が必要です。朝食は、砂糖と油を足したトウモロコシのお粥、昼食は豆類のスープとご飯、夕食はパンと肉のシチューなど、重症度に合わせて、成人一日2400〜2800キロカロリーを摂取できるよう工夫を凝らしています。これも、大変な環境の中で、調理を担当してくれるスタッフのおかげです。今年7月には、一次保健施設の建設も終了し、外来機能を病院から移しました。来年度に向けて新病院の建設計画も進み、建設が完成すれば、より衛生的で安全な環境で医療従事者が患者さんをケアできます。誰もが、その日を待ち望んでいます。

地域住民参加型医療の実現を目指す

南スーダンの女性は、妊婦検診を受ける機会もなく、ほとんどが自宅で出産します。そのため、妊婦さんや赤ちゃんが危険な状態でも医療を施すことができません。私たちは、52名の伝統的産婆と呼ばれる出産介助者たちを各村から集め、妊産婦検診の必要性を説いたり、緊急搬送のための講義を始めました。また、出産に立ち会う度に塗りつぶせるような丸が描かれた紙を渡し、それを施設へ提出してもらうことで、村でどれくらいの赤ちゃんが生まれているかを把握します。妊産婦栄養の講義では、実際に町中の市場で買ってきた地元の緑黄色野菜を使いながら、栄養バランスに配慮した食事の大切さを伝える活動も行っています。講義に参加した出産介助者たちは、自分たちが母親と赤ちゃんの命を守る大切な役割を持つことや、病院への搬送手段の工夫など、地域全体で考えなければならない課題に気づき始めています。このようにして、身近なところから、地域住民が命や健康を考えるきっかけを作るお手伝いをしています。

2015年、ICRCは南スーダンの救援に1億3000万スイスフラン以上(約135億円)を投入しました。1980年以来、35年間、私たちは人種や宗教に関わりなく地元の人びとに寄り添い続けてきました。この10カ月の派遣の間、多くの死を含め厳しい現実を目の当たりにした一方で、懸命に生きよう、そしてそれを支えようとする人びとの強さに私は何度も心を打たれました。今この瞬間を、紛争の最前線で生きる人々とともに、これからも国際赤十字の人道支援活動に取り組んでいきたいと思います。ご支援をよろしくお願いいたします。

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