フィリピン・離島の人びとの心を動かしたひとこと

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丸囲みがカルナザ島。フィリピンには7千を超える島があり、そのうち人が常住するのは4500余り。

「こんにちは。私はフィリピン赤十字職員のランスです。今日はお集まりいただき、有難うございます。」


 日本赤十字社はフィリピン赤十字社とともに、フィリピン・セブ北部地域において地域保健衛生事業に取り組んでいます。
 本事業では、5月から活動の中心となるボランティアを募集するため、事業対象のバランガイ(村落)を訪問し、「事業説明会」を行っています。そこで各自治体やバランガイとの調整を行い、赤十字や事業の概要などを説明するのが、現地事業職員のリーダーである、ランスです。

 今日は、事業地の一つカルナザ島の事業説明会が、冒頭のランスの挨拶から始まりました。
島の人びとにとっては、見慣れない人間がなにを話すのか、興味津々です。

■ 町から離れた小さな島で

 カルナザ島は、セブ州ダアンバンタヤン郡に含まれますが、セブ本島の北端の港からバンカー船**で片道およそ3時間かかる、小さな島です。

人口およそ3600人、600世帯余り(2017年4月現在)、小学校が1校あります。飲み水は井戸水を使っていますが、海水が出てしまう井戸も多く、良質な飲料水を手に入れるのは困難です。今年の3月にもコレラが発生し、患者数が一時100人を超えたことがあるほど、水には悩まされてきました。

ランスの挨拶から始まった説明会は、水由来の感染症を予防し、健康な生活を送るために、赤十字はバランガイごとに保健にかかわるボランティアを募集する、という説明まで進みました。ところが、人びとは怪訝な様子で、反応はあまりよくありません。


 その雰囲気を代弁するかのように、一人の女性が少し尖った声で尋ねました。
「あなたたちの活動はわかったし、それはカルナザにとってもいいことなのだろうけど、赤十字のボランティアになったら、セッションやワークショップに参加するのにセブ本島やマニラにまでいかなければならないのでしょ」 
村役場の職員であるその女性は、村の人びとがランスのいうボランティア活動に参加したら、セブ本島まで毎回出向かなければならないと思ったのだそうです。家事や仕事を続けながらボランティアなんてできない、と考えたようでした。セブ本島まで3時間船に揺られ、さらにセブシティまでまた3時間車に乗って・・・、そんなカルナザの交通事情を懸念するのも無理はありません。

 やや険悪な雰囲気になりかけましたが、けれどもランスは臆せず、穏やかに答えました。
「心配はごもっともです。でも、この活動では私たちがカルナザに来ますから。必要な時には私たちがこの島へ来て、ボランティアさんと一緒に働きます」

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朝、事業地へ出かける前に事務所玄関に集合。左から2人目がランス(左端は間由佳要員)。ランスは最近お父さんになりました!

「まさか、こんなに離れた島に本島の人は来ないだろう、そう思われるような地域にこそ、この事業を行う理由があります。行政の手が届きにくい地域で赤十字の活動を行うことにより、保健衛生の面で都市部と農漁村との格差(ギャップ)を埋めていきたいのです」

 驚いたような声が人びとのあいだから洩れました。 場の空気が少し和んだようでした。

 ランスは今年25歳、西隣のネグロス島で生まれ育ち、地元の大学を卒業し、結婚して妻の実家のあるボゴ市に移り住みました。台風ハイヤンの復興支援に参加したことをきっかけに、ずっと赤十字で働いています。

 赤十字のことも、地域のこともよく知る彼ですが、フィリピンでは長幼の序が尊ばれるため、冒頭の説明会のような場では若さは不利になることがあります。こうした場の対応で気を付けていることを尋ねると、
「最初は誤解させてしまったのではないかと不安になったけど、分かってもらうには
とにかく落ち着いて、ゆっくり話すようにしようと思ったんだ」

■ 理解してもらうための努力

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カルナザでの事業説明会を無事終えて、船着き場に向かう。

 各事業対象地で行っている事業説明会では、「今度は何をくれるんだ」「医薬品が足りない。くれないのか」などと訴えられることも一度や二度ではありません。

 その都度、ランスは落ち着いた、穏やかな口調で答えます。
「私たち赤十字の事業は、モノを与えるために行うのではありません。皆さんの生活がより健康的なものとなるよう、皆さん自身が行動する、その手助けをします」

 赤十字活動が地域に根付いていくためには、自治体や地域住民の理解が欠かせません。本事業では、「(人びとが欲しがる)モノを与えること」ではなく、開発支援として「人びとの意識や行動に働きかける啓発活動」を重視しています。ランスだけでなくチームの全員が、地域住民の理解を得るために、どんな小さな疑問や質問にも真摯に答え、理解を得られるよう努力しています。

** バンカー船(Banker Boat) フィリピンはじめ東南アジア地域でよく使われる小型船。かつては太平洋の島々を渡る丸木舟でした。カゲロウの脚のようなアウトリガーで波を操るのが大きな特徴です。

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日本赤十字社組織推進部海外救援金担当 TEL 03-3437-7081 FAX 03-3432-5507

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