中東:市街地での紛争がもたらす代償

イラク、シリア、イエメン― 2010年から2015年の間、紛争による世界の死傷者の約半数がこれらの国に集中しています。なぜこの3カ国だけでここまでの割合を占める被害が出ているのでしょうか。その答えは、今日も戦闘が続いている「市街地」にあります。

時代とともに変化する戦場

古代より、人々が住む市街地への襲撃や略奪は大変な恐怖をもたらしてきました。防御する側の指揮官が降伏条件をのまないと、性暴力や殺害、強制的な肉体労働などに直面するのは住民でした。19世紀と20世紀初頭には、市街地での戦闘は過去のものとなり、広野での戦いが主流となりました。軍の司令官は、脱走や飲酒による酩酊などの規律に反する兵士の増加を恐れ、第一次世界大戦中も戦いのほとんどは市街地では行われませんでした。しかし、第二次世界大戦では日本やヨーロッパなど多くの市街地は空爆に晒され、荒廃しました。近年では、各国の政府軍そして武装勢力は、空爆のほかに、小銃戦闘、自爆、簡易爆弾などを使い、市街戦を繰り広げています。包囲という古くからの戦術が復活し、人々は市街地に閉じ込められ、人質、人間の盾となっています。紛争当事者は水や電気、学校、病院などの社会インフラや公共施設を破壊し、その恩恵を受ける人々を苦しめようとしているのです。また、ドローンなどの登場により、紛争の新たなかたちが生まれ始めています。

被害拡大の理由

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シリア・アレッポに残された子どもたち

©Sana Tarabishi/ICRC

なぜ市街戦では被害が甚大になるのでしょうか。その一つに、紛争の影響を最小限に抑えることを目的としている国際人道法の違反があります。紛争当事者には、敵対行為に参加していない全ての人を戦闘から保護することが求められています。しかし、戦闘の巻き添えになる人々や民間施設は後が絶えず、攻撃の対象となることさえあえります。特に、医療施設が攻撃されてしまうと、救える命も救えません。もう一つは、空爆や砲撃など広範囲に被害が及ぶ武器を人口密度の高い地域で使用することが主流になったことが挙げられます。また、命の危険を伴う戦闘を好まず包囲という手段に訴える武装勢力も台頭しています。街を包囲し、生命の維持に必要な食料、医薬品などヒトやモノの出入りを制限することで兵糧攻めのようにじわじわと人々を苦しめるのです。政治的解決策の糸口がなかなか見つからず紛争が長期化しているという背景もあります。特に、今日の中東での紛争の特徴の一つは、様々な国によって支援を受ける武装勢力が存在していることです。これは、平和構築や人々への支援を一層難しくします。

国連によると、世界で紛争や暴力により家を追われた人の数は2015年末に第二次世界大戦以降最多となりました。そのうちの約1/4がシリア、イラク、イエメンの出身者で、シリアでの紛争だけでも全体の1/6(約1100万人)を占めていると言われています。避難を強いられている約6500万人のほとんどは自国内に残っており、最も支援を必要としています。

究極の選択を迫られる人々

イスラム国(IS)の支配下にあったイラク第二の都市モスルにおいて政府軍による奪還作戦が始まってからは戦線が昼夜問わず変化し、残された住民が水や食料など生活に必要なものを調達することすら難しい状況が続いていました。特に、モスル東部地域での戦闘は激しく、戦闘員と市民は常に隣り合わせでした。

モスルの住民は究極の選択を迫られました。道すがら殺されるのを覚悟で逃げるのか、激しい攻撃に巻き込まれるのを覚悟で残るのか。モスルの場合、奪還作戦開始後3か月が経った時点で避難を選択した人々の割合は、当初想定されていた割合より大幅に小さい1/6以下でした。

また、このような状況において支援を届けるのに大変な苦労を強いられました。市街地での戦闘で市民と社会インフラをどのようにして守るのか、人道支援は新たな課題に直面しています。

武器として使われる水

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シリアでは水道施設の点検も赤十字の仕事

©Pawel Krzysiek/ICRC

シリア第二の都市アレッポも2016年12月のシリア政府軍による制圧に至るまで、政府と武装勢力との間で激しい戦闘が続きました。現代において最も壊滅的な戦闘の一つと言われ、人々の生活を支えるインフラも甚大な被害を受けました。給水に必要な施設が異なる紛争当事者の支配下にあり、彼らはそれらを攻撃、制限することで敵対する相手を困らせます。このような戦術によって犠牲を強いられるのは住民です。赤十字は、紛争当事者への働きかけのみならず、地元の水道当局と協働して、水道管の修理や井戸掘りなど様々な方法で水の供給を維持しています。「私たちの目標は、浄水施設を運転し続け、水を中立に保つことでした。二つの施設で働いていたので、紛争当事者や中立な立場にいる人道支援組織との対話を通して、戦線をくぐり抜けていました」とアレッポ郊外の浄水施設で働いていた専門技術者は話します。

赤十字の働きかけ

赤十字は、紛争当事者全てに国際人道法の尊重と順守を呼びかけ、同時に、紛争当事者を支援している各国に対しても同様に要請しています。また、紛争当事者には市民を包囲することなく、安全な避難を可能にすること、継続的で迅速かつ妨害のない支援の実現を可能にすることを強く迫っています。また、紛争当事者が人口密度の高い地域で爆発物の使用を回避することや、相互に連結している複雑な社会インフラを守ることも重要です。市街戦のもたらす苦しみを少しでも減らし、苦しんでいる人々への支援に赤十字はこれからも取り組みます。引き続きみなさまの温かいご支援をお願いします。

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