シリーズ「気候変動の影響と人道」 

第2回 赤十字と気候変動:人道の切り口から

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国際赤十字は気候変動の影響による人体への健康被害は避け難いと警鐘を鳴らす(カンヌ国際会議にて) ©IFRC

本シリーズでは、複数回にわたり、「気候変動×人道」をテーマとして読者の皆様とともに内容を深めていきます。前回配信では、「気候変動とは何か」と題し、気候変動に関する一般的な知見を取り上げました(前回記事はこちら)。

第2回目の本稿では、赤十字と気候変動の関係を掘り下げ、人道の切り口から国際赤十字の調整のもと、各国赤十字・赤新月社の果たす役割やその根底にある考え方をご紹介します。

歴史を訪ねて:世界的(グローバル)に考え、地域(ローカル)で動く

国際赤十字は、他の人道問題と同じく、気候変動が人々にもたらす影響についても、「世界的(グローバル)に考え、地域(ローカル)で動く」が一貫したアプローチです。日本赤十字社を含む国際赤十字は従来から被災地における救援事業や平時からの防災・減災事業、医療・保健事業等を通じて、気候変動の影響や異常気象による被害を受ける可能性の高い人々に対するリスク削減や、被災地域での救援活動を行ってきました。

常に最も弱い立場に置かれた人々に対する支援に取り組んできた赤十字にとってこれらの活動は、決して新しいものではありません。その上で、今日に至るまで赤十字が気候変動の問題をどのように捉え、考えてきたのか、その歴史背景も踏まえながらご紹介します。

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2017年6月、43℃の熱波を記録したインド首都のデリーにて、赤十字ボランティアが参集し、フラッシュモブと呼ばれる路上パフォーマンスで十分な水分補給や休息を呼びかけた ©IFRC

1990年代:国際赤十字・赤新月社会議における、気候変動に絡む人道問題への言及は1999年にまで溯ります。

当時、国際社会は大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目標とする「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」を採択し、地球温暖化対策に世界全体で貢献していくことに合意しました。この気候変動枠組条約に基づき、1995年から毎年、気候変動枠組条約締約国会議(COP)が開催されています。1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)では、日本が議長国を務め、京都議定書の合意を取り付けたことは記憶にも新しいかもしれません。

この頃はまだ、国際赤十字としても人道機関として気候変動問題をどのように捉え、何を具体化していくのか、可能性を模索していた段階でした。

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ロンドン気候行動週間(2019年7月1日~8日)にて、議論を交わす国際赤十字・赤新月社連盟のAs Sy事務総長(中央左)と国連国際防災戦略事務局の水鳥代表(中央)。「もはや気候変動という段階ではなく、気候クライシスや気候の緊急事態という言葉の方が現状によりふさわしい」と語る。 ©IFRC

2000年代:2002年、国際赤十字は気候変動問題について、人道的な観点から必要となる事業を実施するための歩みを始めます。気候変動の影響や異常気象の脅威にさらされた「最も弱い立場に置かれた人々」のリスク削減のために、各国赤十字・赤新月社の事業内容の改善や国際赤十字・赤新月社連盟(以下、「連盟」という)への政策提言等を目的として、オランダ赤十字社と連盟によって、国際赤十字気候センター(在ハーグ)が設立されました。

2007年、第30回赤十字国際会議(於ジュネーブ)の中で、国際赤十字は環境破壊と気候変動のもたらす人道的に看過できない重大な結果から目をそらさず、気候変動によってもたらされる人道的課題に対処するための8つの公約を決議しました。

具体的には、国際赤十字は「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」を、国際社会が一体となって気候変動問題に取り組むための核となる組織であると正式に承認し、赤十字がUNFCCCの構成を支援し、補完することを明示したほか、最も弱い立場に置かれた人々に対する人道援助の提供や災害に対する「事前の備え」を通じた気候変動のもたらす影響への対策の重要性を確認するなどしました。

2010年代:2010年、国際赤十字は「連盟2020年戦略」を発表し、その中で第30回赤十字国際会議(2007年)の決議を尊重しつつ、2020年に向けた赤十字全体における気候変動問題に対する取り組み姿勢にかかる言及が盛り込まれました。以下、関係する部分の一部抜粋です。

“気候変動は赤十字の在り方やさらなる経済成長を享受するための方途を大きく変えようとしている。移民や都市化、環境悪化やそれに付随する疾病リスクの増加などの脅威と相まって、これらの問題はより複雑化し、社会から取り残される人々や貧困、社会不安に新しいパターンを生み出したり、それを助長することで人々の置かれた脆弱性をさらに増長している”

“こうした複合化し、相互に影響を与え合う人道的課題に対処するためには、赤十字としての在り方や相互に絡み合う人道課題それぞれの関連付け、人類が分かち合う地球そのものに関連づける方途を模索することにおいて、私たち自身の心構えや姿勢をより一層変えていく必要がある”

“連盟は、こうした背景を踏まえ、変わりゆく地域・コミュニティの性質やそこに存在する人道ニーズ、ボランティアの新しいあり方に引き続き寄り添いつつ、新しい能力開発やイノベーションの促進を行っていくことで人道機関として広域化あるいは甚大化する人道ニーズへの対応を図っていく”

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2015年にフランスを襲った熱波で、最も影響を受けやすい人々に対し、フランス赤十字社のボランティアが飲料水を配布。今年6月もフランス気象局は「前例のない熱波」だとして警戒を強めている。 ©IFRC

また、2015年のパリ協定を受け、国際赤十字は2017年に「2020年に向けた赤十字の気候行動枠組」を発表しました。この中で、国際赤十字は気候変動の絡む問題に対するビジョンとして、以下を掲げています。

“赤十字は、先進国を含む世界中の地域・コミュニティがより災害に強くなること(リスクを予期し、それに対処し、早期に復興するしなやかさを持つこと)を目指し、現在から将来にわたって気候変動のもたらす影響へのより良い事前の備えを行う。そして、国際赤十字及び各国赤十字・赤新月社は気候変動と異常気象が最も弱い立場に置かれた人々にもたらす影響について、様々なレベル(地域・コミュニティ・組織・地方行政・政府等)での協働を通じ、軽減することを追求する”

本稿では人道の切り口から赤十字と気候変動の問題を捉え、現在に至る赤十字の歩みをご紹介しました。次回は8月の発行を予定しており、複合化する人道課題や具体的な取り組みの事例をご紹介したいと思います。

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