フィリピン中部台風復興、生計支援の5年間

スーパー台風と言われた2013年11月の台風30号(英語名:Haiyan、フィリピン名:Yolanda)から今年で丸6年になります。日本赤十字社(以下、日赤)はフィリピン赤十字社と共にセブ北部の一部の地域を受け持ち3年間に渡り包括的な復興支援を行って参りました。その中の生計支援について2016年に2回に渡りご報告させていただきました(通巻第1175号1195号)。1万ペソ(約2万円)の現金支給による生計再建支援を行い、あの支援は被災者の生計を支援することができたのかという視点で、2015年にサンプルとして訪ねた同じ25家族のその後を追いました。今回で3度目の訪問です。この地域の一般的な家族にとって、1万ペソは約2月分の生活費に当たります。現地日赤代表の森本真理からの報告です。

家畜を買った人

赤十字からの支援で、豚、山羊、牛、鶏も含め、家畜を買った人は全体の65%になりました。嬉しいことに、この人たちの殆どが利益を上げ、5年たった今でも家畜を飼っていました。飼い続けているだけではなく、大抵の家庭は増やしていました。養豚は餌代がかかるため、大抵は母豚になるまで育てきれず、生後一か月の仔豚を買い、3,4か月育てて売るというのが一般的です。しかし、母豚にまで育てて大きな利益を得るようになった家族も目立ちました。また山羊を飼っていた家庭が、飼料会社の指導を受けて養豚も始めたケースもありました。概して家畜を買った人は確実に収入の向上を図っていました。

家畜を買った人

フェデラ・オランオランさん(写真左)は赤十字の支援で豚を買ったあと、その利益で思い切って牛に買い替えました。牛は草を食べさせておけばよいので、豚のように餌代があまりかからないからです。しかし私たちが2度目に訪ねた4か月後、2016年に夫が病気で亡くなりました。その薬代などのために牛を売り、残金で仔豚を買いました。以来、生後1か月の仔豚を買い、3,4か月育てて売るというサイクルを繰り返しています。以前から養豚の経験はあり、うまくいっているようです。「豚のおかげで、夫亡き後も暮らせています」と話していました。

三輪タクシーを買った人

トライシクル(三輪タクシー)のディプシオさんを訪ねるとき、「重いローンのため多分、トライシクルは売り払っているだろう」と私たちは思っていました。赤十字からの資金に貯金をはたいて中古のサイドカー(客を乗せる部分)を買い、さらに新車のオートバイを3年ローンで買ったのです。

三輪タクシーを買った人

人もあまり行き来のない田舎ですので、学校が休みの時などは一日200ペソ(400円)の時もあると言っていました。それで、毎月のローン3800ペソを払わなければなりません。

そんなことを思い出していると、彼の家にもうトライシクルがないことは確信に変わっていました。しかし、彼の家の庭にいくと、5年たって古ぼけたトライシクルがあったのです。

頭痛がすると言って休んでいたディプシオさん(写真右)が家から出てきた時には、目頭が熱くなりました。とうとう辛いローンも払い終わり、利益を得られるようになっていたのです。大抵のトライシクルの運転手は車両を借りて仕事をしています。人の多いボゴ市の運転手でさえ、ガソリンと借り賃を払うと、手元には平均で300ペソ(約600円。この地域の最低賃金でもあります)ぐらいしか残らないそうです。しかし、彼はトライシクルを自ら所有しています。彼と家族のつらい3年間が報われたなあ、と感慨深いものがありました。

サリサリショップ

サリサリ・ショップ

サリサリ・ショップと呼ばれる売店(窓など自宅の一部を店にしている人が多い)は赤十字の支援を受けた最初の1年弱だけ、豊富な商品を置いていましたが、今は商売が成り立つのか、と心配になるような品ぞろえになっている店がほとんどでした。

ただ一軒、支援を受けてすぐ、だれもが食べられる米やコーンライス(トウモロコシを砕いたもの)の50kg袋を買い、小売りをしているエルビラ・フォルティズエラさんは今でも安定した商売をしているようでした。赤十字の支援を受けるまでは、50kgの米を買うことができませんでした。面倒を見ている孫も今は大きくなっていました(写真左)。

あれから5年

今回、フィリピン中部台風復興支援で5年前に始めた生計支援の1万ペソは有効に使われ、今でも何らかの形で殆どの受益者の生活を支えていることを見ることができました。しかし、残念ながら住居にまでは向上は見られませんでした。中には人が住めるとは思えないような小屋で何人もが寝起きしている家庭もありました。食べられる以上の生活向上はどうやったら実現できるのか、赤十字としてこれからも課題に取組んでいきたいと思います。

NHK海外たすけあい

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