職員インタビュー:ミャンマーで挑戦を続ける芳原職員

今号では、ミャンマー西部、ラカイン州にて赤十字国際委員会(ICRC)のマウンドー副代表部で保護要員として働いている、芳原職員へのインタビューをお届けします。

どのような職場ですか?

時にはボートでの移動もある

時にはボートでの移動もある ©ICRC

普段は、大都市ヤンゴンにある代表部やラカイン州にある他のICRC事務所と連携しながら活動を行っています。ヤンゴンから飛行機、ボート、車を乗り継ぎ6時間。ミャンマー西端に位置し、インド洋に接するマウンドーの街中の少し高い建物からは、対岸のバングラデシュを見ることもできます。ICRCは武力紛争およびその他暴力を伴う事態によって傷ついた人々の生命と尊厳を保護し、必要な支援を行うことを使命としていますが、ミャンマー国内ではラカイン州に加え、シャン州やカチン州といった紛争の影響を受けている州を中心に事務所を設置し、活動を展開しています。

どのような人たちと働いているのですか?

保護部門の職員たちと

保護部門の職員たちと ©ICRC

ミャンマーには135の民族がいますが、ここラカイン州では仏教徒のラカイン族とムスリム系住民が多数を占めています。職場には現地スタッフ約130人と、ヨーロッパやアフリカなど10カ国からの外国人スタッフ11人が働いています。現地スタッフもラカイン族、ムスリム系住民に加え、他の州から来ているシャン族、カチン族、チン族、ビルマ族といった多様なバックグラウンドを持った人たちがいます。私が所属する保護部門のみならず、支援部門には食糧・生計支援、給水・住居支援、医療・保健支援を担当する部門、ミャンマー赤十字社との連携調整を行う部門、広報部門、そして活動を支える人事・会計・ロジスティクス等の部門があり、それぞれの分野の専門家が活動しています。

どんな業務を担当しているのですか?

離れ離れになった家族からの赤十字通信を届けるICRC職員

離れ離れになった家族からの赤十字通信を
届けるICRC職員 ©ICRC

保護部門とは、他の支援団体にはないICRC独自の部門です。具体的には紛争や災害による避難で家族と離れ離れになってしまった人たちが、再び連絡を取り合えるよう支援をすることが保護活動の一つです。
 2017年8月にラカイン州で起きた衝突により、多くのムスリム系住民がバングラデシュに逃れました。このとき家族と離れ離れになってしまった人たち、今でも家族の行方を探している人たちがいます。赤十字の離散家族支援を通して、昨年1年間で1000を超える家族が赤十字通信によって再び連絡を取り合うことができました。

衝突を逃れてきた国内避難民へ冬に備えて毛布や冬物の服などを配布している ©ICRC

衝突を逃れてきた国内避難民へ冬に備えて
毛布や冬物の服などを配布している ©ICRC

また、2018年12月からは、政府軍とラカイン族武装勢力との間で新たな衝突が始まり、継続する衝突やいつ起こるか分からない衝突の不安、安全上の理由から元の村に戻れず、現在も国内避難民として先の見えない不安な生活を強いられている人々が約10万人います。これら国内避難民やホストコミュニティーへの食糧配布等の支援に加え、衝突に巻き込まれて銃や空爆、地雷などによって怪我をしたり家族を失ったりした人たちには少しでも早く元の生活に戻れるように現金支給や生計支援活動、体の一部を失ってしまった人には義足等の提供とリハビリテーションを受けられるよう担当部門と調整するなどの活動をしています。
 他にも、紛争当事者が戦争のルールである国際人道法を尊重し、人間の尊厳や生命を守り、一般市民の被害を最小限に留めるようはたらきかけたり、そのために国際人道法の普及を行ったりということも保護部門の業務の一つです。

やりがいやチャレンジは?

紛争に巻き込まれ家族を失った人、家族の行方が分からず何年も探し続けている人、いつ元の家に帰れるのかと先の見えない現状に不安を募らせる人など、辛い現実に向き合っている人たちに寄り添い話を聞くことは、辛い時もあります。私たちの力ではどうにもできないこともあります。それでも、暗闇の中にいた人たちが少しでも希望の光を見つけたとき、彼らの苦痛を少しでも軽減できたとき、離れ離れになっていた家族の行方が分かったことを報告し喜ぶ人たちの顔を見たとき、困難な状況にあっても、挑戦し続け、今私たちにできる最善を尽くそうという力をもらっています。
 終戦からまもなく75年、幸い日本は平和で、紛争を身近に感じることは少ないかもしれません。しかし、実は身近に紛争を経験した人、紛争から逃れてきた人はいるかもしれません。苦しんでいる人たちを救うため、すべての当事者からの信頼を得て活動するために、いかなる争いにも加わらない「中立」を原則の一つとする赤十字だからこそできること、一方、中立だからこそできないこともあります。それぞれの組織や人々が、それぞれの立場で苦しんでいる人々に寄り添い、思いを馳せ、一人でも、少しでもその苦しみを軽減できたらと願っています。

バングラデシュにおける日本赤十字社の支援活動

芳原職員の話の中にもあった通り、ミャンマーから隣国バングラデシュに70万人近くが流入し、以前からの避難民20万人と合わせ、90万人以上が厳しい環境のもとで避難生活を余儀なくされています。帰還に向けた兆しが見えない状況下、日本赤十字社はバングラデシュ赤新月社と共に、保健医療支援事業を継続して実施しています。とりわけ、バングラデシュ赤新月社が主体となって保健医療を提供し続けられるよう、現地の医療スタッフの育成を行いました。また、避難民自らが、いのちと健康を守るための保健衛生向上活動の担い手となれるよう、地域保健ボランティアの育成にも力を入れています。
・バングラデシュで活動する避難民ボランティアの想いはこちら:
 http://www.jrc.or.jp/international/news/190821_005829.html

私たち赤十字はこれからも人々に寄り添い、いのちと健康を守る活動を続けていきます。
皆様の継続したお力添えのほど、ぜひともよろしくお願いいたします。

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