インドネシア・コミュニティ防災事業:4年間の活動がもたらした効果

インドネシア・コミュニティ防災事業:4年間の活動がもたらした効果

日本赤十字社(以下、「日赤」)は、インドネシア赤十字社とともに、2016年4月からスマトラ島ベンクル州の3つの地域(ベンクル市、セルマ県、カウル県)でコミュニティ防災事業を実施してきました。

この事業の目的は、住民が主体的に身の回りのリスクを洗い出し、解決策の計画に取り組み、災害に対応できる知識と能力を身に着けること。そして、一連の活動を通して、災害に強い地域づくり(レジリエンス)を目指すことです。事業の開始から4年が経過し、計画した活動を終えた今、地元の人々がこの事業をどのように思い、どのような変化を地域にもたらしたかをご報告します。

ぺナゴバル村:「自分たちの行動が村を変えることになるなんて!」

ペニーさん

マングローブ植林に取り組むペニーさん©JRCS

セルマ県ぺナゴバル村のペニーさん(78歳)は4年間、インドネシア赤十社の活動に積極的に取り組んできた地元の防災ボランティアリーダーの一人です。この村では、住民が主導して災害リスクの調査を行った結果、地震や津波の他にも、より頻度の多い洪水や交通事故など様々なリスクに地元で対処することが住民の共通の願いであることが判りました。

ペニーさんは自らの活動を、次のように振り返ります。「日赤の支援を受ける前は私たちの村に災害に備える仕組みは無く、地元をより良くしようと立ち上がるボランティアメンバーもいませんでした。まして私の知識や経験で人の命や健康を守る手助けを出来るなんて想像もしたことがありませんでした。私たちが活動から学んだ一番大切なことは、自分たちの行動が村を変えていくということです。」

全世帯を訪問して行う防災意識の啓発や、地元住民が皆で取り組むマングローブ植林などを実践してきたペニーさんのもとには、たくさんのボランティアメンバーが集まります。今では、村でペニーさんの役割を知らない人はひとりもいません。自然災害に限らず、村の中で交通事故や怪我等があればまずペニーさんに第一報が届き、すぐにボランティアメンバーが現場に駆け付ける仕組みが出来ました。ペニーさんは実際に、ベッドから転落して怪我を負った高齢者や、竜巻に煽られて衝突した車両事故の救援現場にいち早く駆けつけ、他のボランティアとともに応急手当や搬送手段の確保など、事業から学んだ知識をフル活用して対応し、村人の厚い信頼を得ています。

そんなペニーさんに今後の目標を聞いてみると、「日赤の支援が終わっても村の若者や住民と引き続き交流し、ボランティア仲間を増やしていくこと、そして私が学んだことをたくさんの人々に伝えていくことです。」と明るく答えてくれました。

ラワンアグン村:「災害から村民を守るため、予算を確保しました!」

シスワント村長とアリフィン氏

予算を確保したシスワント村長(中央)とインドネシア赤十字社本社災害対策部長アリフィン氏(奥)©JRCS

この事業では地元ボランティアの協力に加えて、地元行政と地元ボランティアの連携や、行政の理解の向上にも力を入れ、地域一丸となった防災強化を目指しました。セルマ県ラワンアグン村は2つの大きな河川に挟まれ、毎年のように洪水に見舞われます。しかし、「事業が開始される以前にはインドネシア赤十字社とこの村の関りは少なく、村行政も災害対応に関する知見が限られたため、村の中で防災の取り組みは行われていませんでした。」と村行政書記長のジョコハルマントさんは言います。

地元のボランティアらとともに防災に関する知見を深めたラワンアグン村では、村の災害対策方針を策定し、必要な対策が行政予算で賄われるようになりました。ラワンアグン村長のシスワントさんは、「私たちの村では中長期予算計画(2019‐2025)の中で、捜索・救援に用いる照明器具や救急車、洪水対策のための水路の補修、早期警戒のためのマイクセット、地元ボランティアの活動拠点の拡充など、防災に必要な予算を確保することを決めました。」と語ります。

このような動きに対して、インドネシア赤十字社本社災害対策部長のアリフィン氏は指摘します。「日赤の支援の効果は目に見えるものばかりではなく、地元ボランティアの協力やインドネシア赤十字社スタッフの働きにより、村行政の公文書や予算書の中にも十分に現れています。地元行政の関与は、持続可能なコミュニティでの防災の実践につながる最大の成果でしょう。ラワンアグン村の成功例はこの付近一帯の村々にもすでに知られるところとなっており、この地域でこのような成果を積み重ねていくことが、日赤からの支援が終了した後も地元に寄り添い続ける私たちインドネシア赤十字社の役割です。」

ベンクル市:「地元行政にも防災のパートナーと認められました!」

ベンクル市

インドネシア赤十字社が地元の協力を得て吸い上げた情報は地方行政と共有される©JRCS

この事業では、防災訓練や防災資機材の整備といった目に見える活動の一方で、インドネシア赤十字社が自立的・継続的に人道支援活動を提供できるよう、人材育成や計画策定、地方行政との連携強化など、組織力を高める取り組みが活動に盛り込まれました。

インドネシア赤十字社ベンクル市支部の連絡調整員として本事業に携わったアコンさんは「ここベンクル市支部では地域防災に焦点を当てた赤十字事業は日赤の支援が初めてでした。しかし、地域防災事業の目的やプログラム全体の流れを関係者全員で理解し、コミュニティとの実践経験を積み重ねてきたことで、ベンクル市支部は地方行政の重要なパートナーとして認識されるようになりました。また、支部が行政の予算編成会議や災害対策連携会議にも出席して、地方行政に不足する知見を補うことが出来るようになりました。」と振り返ります。

防災を地域に根付かせることは、一朝一夕にはできません。ペナゴバル村のペニーさんのように、最初はまさか自分が手助けできるなんて思ってもみなかった!」というボランティアから、防災計画策定から予算確保まで進めたラワンアグン村のシスワント村長まで、地域の多くの関係者がそれぞれの立場で役割を担い、地域全体で防災に取り組んでいます。事業の取り組みで培った学びは、別の事業でも生かせるようにしていきたいと考えています。

最後になりましたが、日本赤十字社の人道支援に対する温かい支援に厚く御礼申し上げます。

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