世界の被災地:人びとの復興と心を支える故郷の味

10月16日は「世界食料デー」。国連世界食糧計画(WFP)が今年のノーベル平和賞を受賞し、紛争や自然災害、気候変動などで世界中で飢餓に苦しんでいる人びとの現状、そして人びとが安心して平和に暮らす上での食の大切さに、改めて注目が集まっています。国連の報告では、緊急支援の必要な極めて深刻な飢餓状態にある人びとは世界中で1億3千万人以上、慢性的な栄養不足に苦しむ人は6億9千万人(世界人口の約1割)に及びます。加えて、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響により、2020年末までにさらに1億3千万人以上が慢性的な飢餓状態に陥る可能性が危惧されています。

赤十字が支援活動を続ける世界各地の被災地においても、苦境に立たされた地元の人びとを結びつけ復興へと歩んでいく糧として「食」は欠かせません。今回は、地域社会や人びとがもつ底力である回復力・立ち上がる力(レジリエンス)を支える、被災地のふるさとの味・おふくろの味をご紹介します。※本稿はRCRC magazine(英語)の記事を編集・翻訳しています。

バハマ:ハリケーン被災地で皆を元気づけるソウルフード

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(写真:地元で大人気、ラブリーさん自慢の魚フライと豆ごはん ©Zyandric Jones/IFRC ※レシピ動画[英語]はこちら

2019年9月1日、カリブ海に浮かぶバハマ諸島を巨大ハリケーン「ドリアン」が直撃、人口約39万人の小さな国で死者74人、行方不明者282人、9000世帯2万9000人以上の人びとの住む家が被災しました。約700もの島々からなるバハマ国内で、特に壊滅的な被害を受けたのがアバコ諸島とグランドバハマ島。特にアバコ諸島では、停電に加えて、7割以上の井戸が被災し、6割近くの住居が深刻な被害に遭うなど、1年が経った今も、復興へ向けた取り組みが続いています。

そんなアバコ諸島の小さな漁師町で、地元の人びとに愛される食堂を長年営んできたラブリーさん。実は、ハリケーン直撃の前日に夫が突然倒れ、子どもたちや孫たちを島に残して、夫の治療のために島を離れなければなりませんでした。「ハリケーンが最大のカテゴリー5だと聞いて、自分たちではもうどうすることもできないと愕然としたわ。」「子どもたちとその後何日間も連絡がとれなくて本当に心配したの。」と当時の恐怖を語ります。

ようやく島に戻った彼女は、変わり果てた町の姿に言葉を失います。「たくさんの人の命が奪われて、たくさんの家が破壊されていたわ。私たちの住んでいた家も、家の中にあったすべてのものも、車も、何もかも失っていたの。本当に皆でもとの暮らしに戻れるのかしらという大きな不安にまず襲われたのを覚えているわ。」

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被災直後のアバコ諸島の町の様子 ©John Engedal Nissen/IFRC

被災した自宅跡で当時の様子を語るラブリーさん ©Zyandric Jones/IFRC

多くの人たちがテントで不自由な生活を続けている状況を目にして、ラブリーさんと家族は決意します。「家や家族を失って、ガスコンロもない、冷蔵庫もない、そんな生活を強いられている人たちを見て、皆を助けたい、皆のために食堂を早く再開しなくちゃ、と思ったのよ。」

赤十字やその他の援助団体の支援を受けて、ラブリーさんは家族総出で食堂を再開。アバコで最も早く再開した店の一つとして、ハリケーンで被災した地元の人びとに温かい食事を提供する場所となり、被災直後から人びとの気持ちと空腹を和らげる拠り所となっています。店には、地元のバハマ赤十字社のスタッフやボランティアたちも、多忙な支援活動の合間に彼女の自慢の料理をおなかいっぱい食べに来ています。

「昔から料理は大好き。料理上手の母を見て育ったからね。」ラブリーさんの食堂では、近くの魚市場で仕入れた魚やロブスター、チキンを使った、安くて美味しいバハマの地元料理(ソウルフード)を味わうことができます。「海のそばで育った私たちにとってシーフードは元気の源よね。これからも料理を通じて、皆に笑顔と幸せを届けていきたいわ。」孫娘2人も忙しい店の手伝いに加わり、ラブリーさんの食堂はこれからも被災地の人びとを元気づけていきます。

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(左上)再開した食堂の前に立つラブリーさん    (左下) 地元では新鮮な魚が豊富にとれる      ©Zyandric Jones/IFRC

(右上)食堂を手伝う孫娘 ©Zyandric Jones/IFRC   (右下)バハマ赤十字社は今年のハリケーンシーズンに備えより災害に強い地域づくりをめざす ©IFRC

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フィリピン:台風で被災した海辺の人びとの暮らしを支える海藻

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(写真:豊かな海で育った海藻はニンジン、玉ねぎ、酢、パイナップル果汁、唐辛子などと混ぜて海藻サラダに © Alecs Ongcal/IFRC ※レシピ動画[英語]はこちら

2019年12月24日から25日にかけて、人びとがクリスマスを迎える中、台風29号「ファンフォン」(フィリピン名:ウルスラ)がフィリピン中部を直撃しました。死者57人、行方不明者6人、負傷者369人に加えて、3000を超える村落の320万人以上が被災しました。フィリピンは毎年20以上の台風に襲われますが、近年、台風の発生する時期や進路が予測しづらく、勢力も強いものが増えており、温暖化による海面温度の上昇が原因の一つだとも言われています。

ミンドロ島の南にある小さな島に暮らすロニーさんとゲリンさん夫婦は、島の多くの人たちと同様に、海で様々な種類の海藻を養殖して生計を立てています。毎朝、2人は地元でバンカーと呼ばれる小さなボートを漕いで、海辺にある自宅から沖合いの浅瀬にある養殖場で海藻の世話をします。フィリピンで海藻は、地元の人びとが大好きな海藻サラダ「アチャラ」やスープといった料理の食材としてだけでなく、アイスクリームやシャンプーといった商品にも使われる大切な材料です。

photo1_philippines_Alecs Ongcal_IFRC.JPG(写真:手漕ぎの小さなボートで海藻を育てる沖合いの養殖場へ向かう © Alecs Ongcal/IFRC)

これまで何度も台風を何とかしのいできた2人でしたが、まもなく海藻の収穫時期を迎えようとしていたときに直撃した台風「ファンフォン」は、激しい暴風雨と荒波で、彼らの自宅もボートも破壊し、海藻を育てていた藻場もすべて押し流してしまいました。台風により、ロニーさんとゲリンさんだけでなく、村の多くの人びとが家を失い、海藻養殖という生計の主な収入源を失ってしまったのです。養殖業を行う人びとは、毎年、新たな海藻の種苗を仕入れるために資金を借り入れていたので、収穫がゼロとなった2019年、彼らの手元には負債だけが残ることとなってしまいました。

そこで、国際赤十字の支援を受けたフィリピン赤十字社は、復興支援の柱として、現金支給による生計支援を行うことを決定。一定の条件を満たした海藻養殖業を行う村落の住民に対して、前年の負債を解消して、海藻の種苗と壊れたボートやロープなど必要な資機材を購入するのに十分な資金を支援しました。支援対象となる住民は、赤十字の監督の下、地元の人びとで構成された地域復興委員会で慎重に選ばれました。

ロニーさんとゲリンさん夫婦にとっても、この現金支給はまさに命綱でした。支給された現金で、新しい海藻の種苗250kgに加えて、新型コロナウイルス感染拡大の影響で地元経済がさらに悪化している中、家族を養うのに必要なヤギやその他の生活必需品を買うことができました。「赤十字からもらった資金で買った海藻の種苗はしっかり育って収穫することができました。収穫した海藻を売ったお金で、もっとたくさんの海藻を養殖することができます。」

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(左上)赤十字の支援をうけ海藻の養殖を再開できたロニーさんとゲリンさん夫婦 © Alecs Ongcal/IFRC (左下)海藻サラダ「アチャラ」を作る地域復興委員会メンバーのローリンさん © Alecs Ongcal/IFRC

(右上)海藻の養殖に必要なロープなどの備品の手入れは欠かさない © Alecs Ongcal/IFRC           (右下)フィリピン赤十字社の地域ボランティアは住民を訪問して彼らの相談にのる © Alecs Ongcal/IFRC

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日本赤十字社は、今回ご紹介した2019年のバハマのハリケーン「ドリアン」とフィリピンの台風「ファンフォン」について、現地の赤十字社が中心となって実施する被災者支援のために国際赤十字が発出した緊急救援アピールに対して、資金援助を行っています。その他にも、毎年、世界各地で発生する災害や紛争に対する国際赤十字の緊急支援の要請すべてに、迅速に対応しています。日赤は、皆様からのご支援を賜りながら、世界中の支援を必要としている人びとに対して、これからも支援を続けています。赤十字活動への皆様のご支援とご理解を、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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