紛争下のこころのケア~シリア赤新月社の取り組み

内戦が続くシリアでは、その周辺国も含めた死者が10万人を超え、およそ880万人が戦火を逃れて国内外に避難しています。赤十字はシリアの人びとのいのちと健康、尊厳を守るため、食糧・医療・避難民生活などのさまざまな面で支援活動を展開しています。

シリア赤新月社(以下、シリア赤)が実施する、こころのケアの活動をご紹介します。

難民の女性に手芸品の作り方を教えるシリア赤のボランティア

難民の女性に手芸品の作り方を教えるシリア赤のボランティア(右)。手芸品作りの技術を身に付けることが収入につながります ©Ibrahim Malla / IFRC

シリアの首都ダマスカスにある「こころのケアセンター」に入ると、そこに集まっている人びとの多さに驚きます。

センターではさまざまな年代の人たちが、多岐にわたる活動に熱心に取り組んでいます。

アマル・ウリさんは、手工芸品で飾られた教室に通っています。彼女は故郷を離れて、ダマスカス近郊のドゥアラに避難しています。息子のアブダラくんを連れてセンターにやってくると、英語や手工芸品作りの技法のレッスン、母親向けのワークショップなどに参加します。アマルさんはミシンや編み物などのさまざまな技術を身に付け、たくさんの手工芸品を仕上げることができるようになりました。

「このセンターに来るのが大好きです。以前は気が滅入り、ささいなことでも怒って息子に手を上げてしまいました。今は何をするにも10秒数えて心を落ち着けるようにしているので、息子に手を上げることはなくなりました」と彼女は言います。

他の避難民と同様に、アマルさんは多くの問題を抱えています。例えば、収入の9割は部屋代の支払いに消えてしまいます。アマルさんはこれまで親戚に頼りながら困窮した生活を送っていました。過去数年間は息子に肉やおいしい食べ物を与えることができませんでしたが、現在の生活環境は少し改善されました。彼女はセンターで学んだ技術を生かして手工芸品を販売し、少しでも生活が豊かになることを望んでいます。

「私たちは女性や若者、子どもたちのためのワークショップを開いています。ワークショップには、緊張を取り除く活動や手工芸品の製作などがあります。また、ストレスへの対処法も教えています」と、こころのケアセンターのコーディネーターのマラム・ハバシアさんは説明します。

「一方で問題もたくさんあります。ベテランのボランティアの中には、シリアを出て行ってしまう人や有給の仕事を探して辞めてしまう人もいます。また、一人でも多くの子どもたちを受け入れるためには、もう少し大きな施設が必要です」

絵を描くこころのケア活動に参加する難民の子どもたち

両親がシリア赤の移動式診療所で健康診断を受けている間に、絵を描くこころのケア活動に参加する難民の子どもたち ©Ibrahim Malla/IFRC

センターの子どもたちの部屋の壁には、精巧で素晴らしい絵が飾ってあり、子どもたちは絵を描くことに集中しています。

アブダラくんは、絵の中の一枚をうっとりと眺めています。「クロワッサンを食べたいけれど、お母さんは毎日ムジャダラ(レンズ豆と米で作るダマスカス料理)を作るんだ」

その質素な食事を用意するために母親がどれほど苦労しているのか、幼い彼にはまだ分かりません。

部屋の隅では、12歳から18歳までの子どもたちが寸劇の練習をしています。彼らは自分たちで台詞を書き、衣装を作ります。寸劇に参加している子どもたちは、豊かな表情を見せて楽しそうにしています。

「こうした活動は子どもたち同士の絆を深め、彼らの興味や関心に基づく経験から得られた演技を可能にしています。それが、彼らが直面している複雑な問題にも効果をもたらすのです」と、こころのケアトレーナーのラーシャ・カブジャさんは語ります。

「子どもたちの中には、話をすることに問題を持っている子がいます。親に叩かれて心身の問題を抱えている子どもも少なくありません」と話すのは、もう一人のトレーナーのフィラス・ファテさんです。

「仮装パーティーのような活動は、若者たちに自信を持たせて充実感を与えます。一方で手工芸品の製作は、ものづくりという観点から創造性を高めます」とノール・サラ・アル・アサヒさんは言います。

ノールさんは3年前からシリア赤に所属し、ダマスカス緊急対応センターで夜間の応急処置に当たり、こころのケアセンターでもボランティア活動を行っています。

「シリア情勢が不安定な時に、ボランティアの仕事を辞めるわけにはいきません。同僚は私の助けを必要としています。協力しないわけにはいきません」

命懸けで活動するボランティアの想い

救急チームに所属するノールさんの同僚二人が2013年7月、ダマスカスの救急センターへの迫撃砲による攻撃に巻き込まれて負傷しました。「友人が負傷して大変悲しいです。彼らが痛みに苦しんでいる姿を見ることには耐えられません」

中立の原則に基づいて活動する赤十字でさえ時に攻撃の対象とされるシリアでは、常に危険と隣り合わせの活動が続けられています。紛争の発生から今日までに、シリア赤のスタッフやボランティア34人が命を落としています。

それでもノールさんは、シリアの人びとに貢献するためにボランティア活動に時間を捧げています。

「同僚を失うのは私たちにとって最も辛い出来事です。しかし私はこころのケアチームの一員でもありますから、みんなが悲しみに暮れているときにも、同僚を支えたいと思っています。私たちは現在、ボランティア活動のこのような一面についても、皆さんに理解していただけるように努めています」

※この記事は国際赤十字・赤新月社連盟のニュース記事を元に、赤十字語学奉仕団の協力により作成しています。