【共同声明】オバマ米大統領の広島訪問、核兵器の脅威を呼び覚ます

近衞忠煇/国際赤十字・赤新月社連盟会長および日本赤十字社社長 
 ペーター・マウラー/赤十字国際委員会総裁

アメリカのバラク・オバマ大統領の歴史的な広島訪問が、世界の核兵器廃絶に向けた新たな弾みとなることは間違いありません。国際的な政治情勢が混迷を深めている今日、核兵器の危険性はさらに高まっています。人類の未来を守るため、各国は即座に行動を起こさなくてはなりません。


 核兵器の暴発や意図的な爆発がいかに危険かを、いまや私たちは熟知しています。また、核兵器がもたらす悪夢のシナリオに対し、適切な人道的対応が不可能であることも十分理解しています。


 専門家や、かつて核戦略に携わった人々は、故障や不測の事故、警告音の作動ミス、情報伝達ミスによって、偶発的または意図的な核爆発を引き起こしそうになったケースが1945年以来多数発生している、と証言しています。国際的な核廃絶運動の一つであるグローバル・ゼロは、サイバー攻撃によるリスク増加に伴い、過去二年間だけでも核保有国を巻き込んだ “軍事上の事件”が数多くあったと報告しています。


 この事実に加えて、広島や長崎では核爆発が恐ろしいほど長期的に人々の健康に影響を与えていること、また将来核爆発が起きた際の人的被害を考慮すると、いかに状況が深刻か分かります。


 昨年広島と長崎において、原爆から生き延びた被爆者の話を聞く機会を持ちました。現代戦争史の分岐点となった二度の原爆投下は、被爆された方々を含め、日本に暮らす多くの人々に、70年以上経った今も暗い影を落としています。


 当時の赤十字職員は、想像を絶する状況の中で、核爆発によって苦しむ人々を救うために苦闘していました。瓦礫と灰に帰した病院と汚染された医療器具しかない中で、基本的な医療すら施すのが難しかったのです。


 私たちはいまだ、その悪夢から醒めていません。


 広島と長崎の赤十字病院の医師によれば、高齢の被爆者の死亡原因のうち3分の2が、放射能に関連したガンである可能性が高いとされています。また、体に出る症状以外に、未だ精神的トラウマを抱える人々も存在しています。


 広島平和記念資料館を訪れた人、何千もの高齢の被爆者が現在まで苦しんでいることを知っている人なら、核兵器が取り返しのつかない悲惨な状況をもたらすことに疑いの余地はありません。良心のある人ならば、世界の安全確保や人類を守るための手段として核兵器を挙げることはないはずです。


 現在、核保有国の兵器庫にある爆弾はさらに強力になり、かつてないほどの破壊力を備えています。小規模な核兵器でも、その使用により、人間の健康や環境、気候、食料生産から社会経済の発展に至るまで、長期にわたり悲惨な結果をもたらすことが最近の研究で示唆されています。


 健康被害は世代を超えて引き継がれます。親の遺伝子が損傷を受けたことで、その子どもが負う健康上のリスクは極めて高くなることが予想されます。


 「核の時代」の幕開けから70年を経た今、突如核爆発が起きた際に生き残った大多数を救う有効な手立てや実行可能な方策を、私たちは持ち得ているとは思えません。


 未来の爆弾は、国境などお構いなく地を荒らし、標的となった国のはるか遠くの社会までも荒廃させ、現存する核兵器や核によるリスクは、必然的に、全世界の懸念となることをどうか心に留めておいてください。


 これらの結論を踏まえると、国際社会は起こりうる悲劇の瀬戸際から身を引き、核兵器根絶に向かう、と皆さんは予想するかもしれません。


 しかし残念ながら、昨年行われた核拡散防止条約(NPT)再検討会議では、軍縮に向かう機会があったものの、あえなく失敗に終わりました。


 国際赤十字・赤新月運動は、核兵器の使用を禁止し、時間の制約を設けた上で核廃絶を行う国際協定を結ぶよう各国に求めています。世界を核の脅威から守るための政治的意思を早急に見出す必要があることを、私たちは今日改めて訴えます。


 核兵器が完全になくなるまでの間、核保有国には、広島や長崎の悲劇を再び生まないためにやらなければならないことがあります。


 つまり核保有国と同盟国は、厳戒体制の際の軍事計画、軍事行動の原則や軍事政策から核兵器の役割を減らすこと、そして、核弾頭の数を減らすことが必須です。核兵器の近代化や拡散が進むことで、人類は起こり得るであろう大惨事に向かって歩を進めることになります。広島や長崎の恐怖や人々の苦しみは、今なお私たちに強烈な教訓となっています。オバマ大統領の歴史的な訪問は、核兵器がもたらす悲惨さを人々に想起させる重要な機会となるはずです。


 これを機に、私たちは行動すべきです。


 広島と長崎の原爆投下によって命を奪われた人々、取り返しのつかない形で人生を変えられた人々に対して真に敬意を払うためには、今回のオバマ大統領の訪問が、核のない世界に向けての早急な行動を国際社会に迫る着火剤とならなければなりません。


 過去70年の間、核兵器が再び使用されたことはありませんが、その事実をもって、私たちの子どもたちに危険のない未来を保証しているかというと、そうではありません。核兵器の禁止と廃絶だけが、子どもたちの未来を保証できるのです。