血液の基礎知識

血液とは

血液は、酸素や栄養の運搬、けがをしたときの止血、細菌やウイルスなどの病原菌の撃退など、人間が生きていくうえで欠くことのできないものです。成人の血液量は、男性で体重の約8%、女性で7%といわれています。全血液量の1/3を失うと生命に危険が及びます。

血液の成分

抗凝固剤を加えて固まらないようにした血液を試験管に入れて、しばらく放置すると上下2つの層に分かれます。上層の液体成分が血漿、下層は有形成分(赤血球、白血球、血小板)である血球です。また、血液の約55%は血漿、残りの約45%は血球です。

図1:血液の成分

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図2:血液バッグ(抗凝固剤入り血液)を
遠心分離機で遠心した結果、
血球と血漿に分かれた状態
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血液はどこで作られるか

すべての血球は、造血幹細胞が分化を繰り返すことで作られます(造血)。血液は胎生3ヶ月くらいまでは肝臓、脾臓で作られますが、その後骨髄での造血に移り、乳幼児期にはすべての骨髄で造血が行われるようになります。成人になると、頭がい骨、胸骨、椎骨、骨盤等の骨髄での造血が行われます。

赤血球

赤血球は、血球の大半を占め、血液1㎣に成人男子で約500万個、成人女子で約450万個、幼児で約690万個あります。形は直径約7~8μmの円盤型で、中央部両面にくぼみがあり、高い変形能を持っています。そのため狭い毛細血管内を変形して通過することができます。赤血球は核を持たず、またミトコンドリアも失っており、解糖系によりエネルギーを得ています。骨髄で産生された赤血球は、古くなると脾臓等の網膜系でマクロファージにより貪食、破壊されます。寿命は約120日間です。
赤血球の主な働きは、肺で酸素を取り込み、体の各組織に運搬することです。この働きは、赤血球中のヘモグロビンが担っています。また、組織からは二酸化炭素を受け取って肺へと運搬します。赤血球が赤く見えるのはヘモグロビンによるものです。
ヘモグロビンは、プロトポルフィリン環に鉄分子が結合したヘムと、ペプチド鎖のグロビンからなり、1つのヘモグロビンに4つの酸素を結合することができます。また、組織中の酸素量に応じて酸素を放出量を変化させています。ヘモグロビン濃度は成人男子で14~17g/dL、成人女子で12~15g/dLほど血中に含まれています。
血液中に占める赤血球の割合をヘマトクリット(Ht)といい、成人男子で40~50%、成人女子で35~45%程度の割合です。赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリットの3つの値により、貧血の原因をある程度推定することができます。

図3:赤血球と赤血球製剤

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赤血球

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赤血球製剤

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血小板

血小板は血液1㎣に約20~40万個あり、直径約2~4μmの円盤型をした細胞です。核は持っていませんが、α顆粒と濃染顆粒という血小板特有の細胞内顆粒を持っています。血小板は骨髄で産生され、体内での寿命は10日間程度で主に脾臓で破壊されます。
血小板の主な働きは止血(一次止血)です。フォンヴィレブランド因子を介して、血小板が傷ついた血管内皮下組織のコラーゲンに粘着、活性化され、球状に形を変えて偽足を出します。そして、フィブリノゲンと結合し血小板同士で凝集することで血管を塞ぎます。この後、二次止血でフィブリノゲンがフィブリンに変化し、しっかりした血栓ができて止血が完了します。

図4:血小板と血小板製剤

血小板

血小板製剤

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血漿

血漿の91%は水分で、残りの約9%はアルブミン、免疫グロブリン(抗体)、血液凝固因子等の蛋白質です。この他に少量の無機塩類、糖質、脂質、酵素等を含みます。血漿は 体内に酸素や栄養を運び、炭酸ガスなどの老廃物を肺や腎臓に運ぶ働きをしています。
アルブミンは、分子量約6万6千の血漿蛋白質で、血漿蛋白の約55%を占めています。血液の膠質浸透圧を維持し、薬物、ホルモン、栄養素等の様々な物質を各部に運搬し、また組織に蓄積した有害物質を肝臓や腎臓に運び、解毒作用を助ける等の役割を果たしています。

免疫グロブリンは病原体等を排除して身体を守る重要な働きをしています。

血液凝固因子は血小板による一次止血に続いて、強固な止血栓を完成させる(二次止血)ための蛋白質です。また、身体には、不要となった血栓を溶かす線溶作用も備わっており、正常な状態では、凝固、抗凝固、線溶がバランスよく働いています。

図5:血漿製剤

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血漿製剤

  • *新鮮凍結血漿(FFP)は、凝固因子の補充を主目的として投与します。ただし、ほかに安全で効果的な血漿分画製剤や代替医薬品がない場合や複数の凝固因子の補充を目的とする場合のみが適応となります。

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白血球

白血球は、血液1㎣に成人で平均7,500個あり、顆粒球、単球とリンパ球からなります。
白血球の役割は、主に、貪食作用(ウイルス等の外敵を食べて殺す)と免疫作用(免疫を作る)の2つに分けられますが。顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)と単球は貪食・殺菌の役割を果たしています。顆粒球は、白血球の約60%を占め、細胞中に細かな顆粒を多数持つのが特徴で、細菌等が体内に侵入すると、遊走→粘着→貪食→脱顆粒による殺菌を行います。単球は白血球の約5%を占め、血管から組織に入るとマクロファージ(大食細胞)に変わります。単球は、貪食・殺菌作用の他、酵素等の分泌、抗原提示等の免疫反応への関与等、多彩な機能を持っています。リンパ球は白血球の40%弱を占め、T細胞、B細胞、NK細胞の3種類に分けられます。T細胞は、細胞傷害、ほかのリンパ球やマクロファージの調整(抗体産生の促進と抑制等)を行い、B細胞は、抗原を記憶し、抗体を産生します。NK細胞は、腫瘍やウイルス感染細胞を排除します。

図6:白血球

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白血球

  • *輸血用血液製剤は、輸血副作用防止のため、白血球の大部分を除去して製造しています。

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抗原と抗体

抗原・抗体反応は、免疫反応において主要な役割を担っています。
免疫反応は、生体内で病原体やがん細胞を認識して殺滅することにより、生体を病気から保護するために、多数の機構が関与しあう防御反応です。この作用が正しく行われるためには、生体自身の健常細胞や組織(自己)と自分以外(非自己)を区別しなければなりません。

ヒトの免疫系は特定の病原体に対してより効果的に認識し、排除できるよう長い間に適応してきました。この適応プロセスは、適応免疫あるいは獲得免疫(あるいは後天性免疫)と呼ばれています。このときの病原体が抗原で、免疫応答によって産生されるのが抗体(免疫グロブリン)です。

特定の病原体に初めて遭遇し免疫ができると、それが免疫細胞に記憶され、もう一度同じ病原体に遭遇するとより素早く強い免疫応答が起こります。ワクチン接種は、この獲得免疫のプロセスを利用しています。

抗原・抗体反応のメカニズムは鍵(抗原)と鍵穴(抗体)に例えられます。抗体はそれぞれ特定の抗原にしか反応しません。体内に抗原が侵入したとき、B細胞はその抗原に対応した抗体を産生します。一つのB細胞は1つの抗体しか作らないため、抗原の数に応じてB細胞も増えます。B細胞の抗体産生はT細胞によって調節されています。

抗体である免疫グロブリン(Immunoglobulin)にはIgG、IgA、IgM、IgD、IgEがあり、それぞれ働きが異なります。IgEはアレルギー反応に関連しています。

免疫応答における主要な免疫グロブリンであるIgGの主な働きには、抗原と結合して活性を失わせる中和作用、補体と結合して抗原の膜に穴をあける免疫溶菌作用、貪食細胞への取り込みを促進させるオプソニン作用、貪食細胞等が放出する酵素により細胞を傷害させる抗体依存性細胞障害作用等があります。

輸血や移植の際に、血液型(ABO、Rh、HLA等)を適合させるのは、血液型に対する抗原・抗体反応が起こるのを防ぐためです。

自己免疫疾患(関節リウマチ、I型糖尿病など)は、自分の正常組織(自己)に対してあたかも非自己に対するように攻撃を加える免疫系の異常からもたらされます。

図7:抗原と抗体

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