パレスチナ赤新月社医療支援事業 砲弾が飛び交うパレスチナ・ガザ地区で 日赤による医療支援がスタート 2つの病院で行った現地調査と今後の支援をリポートします。

市民の命を救う病院へ 日赤の医師や看護師を派遣

ある医師の「パレスチナ人とユダヤ人は戦いをやめて仲良くするべきだ」という言葉が胸に刺さったと語る渡瀨医師(前列中央)

2019年12月から、パレスチナ・ガザ地区の病院で日赤による支援がスタートしました。パレスチナ赤新月社と約2年にわたって実施されるもので、日赤の医師や看護師たちが継続的に現地へ赴いています。
 今もなお、経済封鎖が続き、治安が安定しない、パレスチナ・ガザ地区。イスラエル・パレスチナ間の衝突の危険は避けられず、調査のため、10月に渡瀨淳一郎医師(大阪赤十字病院 国際医療救援部)がガザ地区のパレスチナ赤新月社のアルクッズ病院とアルアマル病院へ派遣されていた際も、ロケット弾が飛び交いました。同院には数多くの傷病者が運び込まれるため、救急医療はニーズが高い分野の一つです。渡瀨医師は、現地の医療について「もともと高いレベルを持っている」と評価しつつも、「救急医療の現場で基本的な手順が確立されていないため、現地の医師や看護師は自分たちの医療スキルを十分に発揮できていない」といいます。

過酷な状況を生き抜く 子どもたちの未来のために

パレスチナ・ガザ地区にある赤十字国際委員会(ICRC)のオフィスの屋上には、誤爆を避けるために赤十字サインが掲げられている

それらを踏まえて、アルクッズ病院への支援で大きなテーマとなるのが「救急医療の質」の改善。渡瀨医師は、現地の病院が培ってきた経験とともに「知識や情報をプラスして救急医療の質を上げることが必要」と分析しています。
 また、アルクッズ病院で共に働いた現地スタッフの自宅に招かれた渡瀨医師は、この時の様子を忘れられないエピソードとして次のように語ります。「現地スタッフの子どもたちがダンスを踊る動画を一緒に見て楽しむなど、家族の日常の様子に触れた一方で、数年前の攻撃で自宅の窓ガラスが粉々になった時の写真も見せてもらい、改めて厳しい状況下であることに気づかされました。過酷な環境でも子どもたちは一生懸命に暮らし、日々成長している。パレスチナ人の強さ、人間の強さを感じずにはいられませんでした」。
 2021年9月まで続くこの支援事業は、医薬品の提供といった一時的な支援ではなく、知見の伝達や病院の医療体制の改善という“継続性”を重視したものです。アルクッズ病院で高められた「救急医療の質」がガザ地区にあるほかの病院にも浸透していき、子どもたちが生きる未来においても、1人でも多くの命が救われることが期待されています。