天皇皇后両陛下、 初のオンラインご視察 〈日本赤十字社医療センター等行幸啓(オンライン)〉

天皇皇后両陛下はモニター越しに病院を視察され、全国の医療スタッフの言葉をお聞きになりました

天皇皇后両陛下は、11月18日、インターネットで赤坂御所と日本赤十字社医療センター(東京)や各地の赤十字病院をつないだオンラインによる視察をなされ、新型コロナウイルス感染症に最前線で立ち向かう医療従事者からの報告をお受けになりました。
 この新しい取り組みは、両陛下から、全国91の赤十字病院を代表して東京・北海道・福島・沖縄の医療従事者に対して、オンラインで励ましのお言葉を掛けていただく、初めての機会となりました。

両陛下、新型コロナウイルスとたたかう医療従事者とご懇談

両陛下は多くの資料を手もとに置かれ、具体的な質問を重ねられました

天皇皇后両陛下は今年5月の日赤によるご進講の折に、新型コロナウイルス感染症に向きあう医療従事者に対し、励ましのお言葉を述べられました。その際に、両陛下が現場にいる医療従事者との直接の対話を望んでおられると拝察し、関係各所との相談を重ねた結果、オンラインによる初のご視察(行幸啓)が実現いたしました。
 今回、赤坂御所からインターネットを経由してつながったのは、全国4つの赤十字病院。両陛下は日本赤十字社医療センター(東京都)、北見赤十字病院(北海道)、福島赤十字病院(福島県)、沖縄赤十字病院(沖縄県)を視察され、各地の職員と懇談されました。
 日本赤十字社 大塚義治社長からの概要説明の後、各病院の院長はじめ関係者が説明を差し上げました。両陛下は、途中メモを取られるなどしてお聞きになり、医療の現場や各地域の状況などについて質問をされました。
 天皇陛下からは、医療従事者への感謝と共に、「大変なことも多いかと思いますが、お体に気をつけて従事していただければと思います」とねぎらいのお言葉をいただき、日本赤十字社名誉総裁を務められる皇后陛下からは、「皆様が力を尽くされていることに敬意を表します」とのお言葉をいただきました。
 オンラインによる懇談に参加した福島赤十字病院の渡部洋一院長は、「両陛下の表情や深くうなずかれるご様子から、私たちに寄り添ってくださるお気持ちを感じました」と語り、沖縄赤十字病院の大嶺靖院長は「時にお二人で顔を見合わせ、ご相談されながらお声掛けしてくださいましたので、こちらも温かい気持ちになりました」と感想を述べました。

両陛下へのご報告内容

〈東京〉 日本赤十字社医療センター

重症呼吸不全時に使用するECMOの説明をする林宗博 救急科部長

【感染症対応の事例、疲弊する職員の心のケアなどをご説明】

全国で最も多くの感染者数を記録している東京都。都内で治療の最前線にいる日赤医療センターの取り組みを、今回のご視察用に撮影・編集した動画を使用してご報告しました。
 動画では本間之夫院長の案内で院内の各所を回り、担当職員の声を交えて感染症対策の具体的な内容を説明。これまでの振り返りとして、感染拡大がピークとなった4、5月の現場の緊張感、不安を抱えながらも新型コロナウイルスの感染患者の治療に取り組んだ病院職員たちの苦労をお伝えすると、両陛下はその事実を深く受け止められ、動画の視聴後に職員に対して質問を重ねられました。
 とくに、心身ともに疲弊している職員向けの相談窓口を院内に設置したことに関心を示され、皇后陛下から「(心のケアが必要になるのは)どのような原因があるのでしょう」などの質問をいただきました。
 動画の中で、重症患者の治療を行う救急集中治療室(EICU)感染症対策ユニットで使用されるECMO(エクモ)についても説明したところ、天皇陛下はECMOの技術的な質問もされました。視察を終えて、本間院長は「天皇陛下から、患者が増えていることをどのように考えますか、また、医療の現場はどのような状況ですか、と聞かれ、そういったご質問のお言葉から、国民全体のことを常に心配されているお気持ちが十分に伝わってまいりました。また、私たち赤十字職員に対してだけでなく、全ての医療従事者に対してご心配や感謝のお気持ちを持たれていることも伝わってまいりました」と語りました。

〈北海道〉北見赤十字病院

環境の変化が苦手な入所者のため、ふだんの生活に近い形で療養できるように治療を行った(撮影:渋谷敦志)

【障害者支援施設に医療チームを派遣】

北見赤十字病院は、北海道内の障害者支援施設で判明した職員、入所者への感染に対し、4月29日に小清水赤十字病院、置戸赤十字病院と結成した医療チームを派遣。交代で泊まり込み、33日間24時間体制で治療にあたり、施設職員と連携しながら施設内の感染拡大を抑え込みました。その報告に対し陛下からは「どんな苦労がありましたか」などの具体的な質問をいただきました。荒川穣二院長は「陛下の実情をお知りになりたいというお気持ちに、職員一同感動しました。北海道の現状を直接お伝えすることができて非常に有意義でした」と語りました。

〈福島〉福島赤十字病院

クルーズ船内で医療救護活動を行う渡部院長

【災害救護の経験を胸に、横浜港クルーズ船に出動】

今年2月、横浜港に停泊中のクルーズ船内でクラスターが発生。福島赤十字病院は他の赤十字病院とも連携し、DMATと救護班を出動させました。陛下からは「福島は東日本大震災の原発事故でも本当に苦労されたと思います」とのお言葉をいただき、渡部洋一院長は「未知のウイルスも『災害』です。東日本大震災の原発事故により救護班として多くの苦悩を抱えていた当時のことを思い出しました」と、院長自身の体験を交えてご報告。両陛下から船内という特殊な環境下で不安や葛藤を抱えて職務を全うしたことに対して、深いご理解をいただきました。

〈沖縄〉沖縄赤十字病院

ドライブスルー方式でPCR検査を実施した

【院内感染を乗り越え、一丸となって危機回避】

沖縄赤十字病院では県内で感染が急拡大する中、7月30日に院内感染が判明。院内感染対策本部を立ち上げ、発熱患者のテント診療やドライブスルー方式のPCR検査など院外の診療方法を工夫すると共に、職員の健康管理や防護服の着脱など感染症対策を徹底。看護係長の臼井聖子さんは、「災害モードに切り替えた職員の頑張りと、専門家の派遣などの日赤グループの支援が大きな力になりました」とご報告。陛下から「くれぐれもお体に気を付けて医療に従事してください」とのお言葉を受け、大嶺靖院長は「頑張らなくては、と強い気持ちが湧きました」と語りました。