熊本地震から5年。 「災害医療の限界」に挑み続ける熊本赤十字病院
災害時の医療は、最も必要とされ、優先されるべきことの一つですが、災害現場で生命を守る活動を行うためには、水や電力の確保、医療資機材の輸送の問題や、医療ニーズの正確な情報収集など、多くの課題や障害があります。
国際医療救援拠点病院として、国内外の災害に医療チームを派遣する熊本赤十字病院は、これらの障害を乗り越えるための研究開発を国内外の研究機関や企業と共同で行っています。そのカギは「災害時に役立つ技術を普段使いすること」。熊本赤十字病院の曽篠恭裕救援課長は次のように語ります。
「災害が発生してから医療チームが被災地に到着するまでにはどうしても時間がかかります。医療チームが到着する前に、人々の生命や尊厳を守るためには、災害時に役立つ技術やサービスを多くの人々に普段使いしていただくことが大事です」
新型コロナウイルス対策など災害時の困難は増加していますが、国際救援のエキスパートと学術機関や企業の研究者、技術者との共創による、新たな災害支援技術の研究開発が進められています。
可動式ブース「withCUBE」
LIXIL、GK設計と共同でプライベート空間を確保する可搬式ブースの共同実証を開始。普段は熊本赤十字病院内でもミーティングやWeb会議ブースとして活用しながら、昨年の熊本県で発生した豪雨災害では、発熱した小児患者の隔離や、新生児の授乳スペースなどに活用された。
燃料電池医療車
TOYOTAと共同開発した水素で発電する燃料電池を使った救急車の実証実験をまもなく開始。平常時は、CO2排出量が削減され温暖化防止に貢献する医療車として活用され、災害時には医療現場や被災地に電源を供給しながら医療活動をサポート。新しい燃料電池医療車の運用モデルとして注目を集めている。
ハイブリッド車からの電源供給
実験により、普段使いされているハイブリッド車プリウスから救護所の医療機器に電力を供給することが可能であると証明された。日常の移動手段としてだけではなく、「走る発電機」として被災医療施設や支援用ドローンの運航基地局などへの電力供給も期待される。
完全自己処理型水洗トイレ TOWAILET(トワイレ)
トワイレは、バクテリアにより排せつ物を浄化処理し、処理した水を洗浄水として再利用することで、上下水道が未整備な場所や、災害で寸断された場所でも置くだけで使える完全自己処理型水洗トイレ。すでに熊本や長崎などの公園内での利用が進んでいる。これまで、九州北部豪雨、西日本豪雨、熊本豪雨災害の被災地支援で活用され、普通の水洗トイレと同じレベルの高品質な使用感に高い評価が寄せられている。
ドローンによる高品質な医療物流
災害時にドローンを医療機器や薬品の搬送に用いるためには、ドローン輸送を日常の医療物流手段として確立させる必要がある。現在、企業や他組織と共に実用化に向けた実証実験を継続して行っており、将来は医療サービスへのアクセスが困難な遠隔地域などの医療インフラとしての活用を目指している。