ウクライナ人道危機 赤十字に、できること 突如として、激しい紛争に巻き込まれた人々のために・・・
難航するマリウポリ市民の救出
4月1日以来、赤十字国際委員会(ICRC)はマリウポリの市民を救出するため、昼夜を問わず市内に入ろうと試みています。これまで近づけたのは、マリウポリまであと20 キロの地点。ようやく交渉が成立した4月5日、ICRCはマリウポリに隣接する都市ベルジャンシクから、1000人以上の避難者が乗るバスと自家用車の車列を、約200キロ離れたザポリージャまで先導しました。このときの避難希望者のほとんどが、自力でマリウポリから脱出してきた市民です。できるだけ多くの避難者をバスに乗せるため、バスの通路に夜通し立ったままの人もいました。
バスに乗った避難者の多くは女性、子ども、高齢者です。ペットを連れた方も多く、犬や猫、小鳥、カタツムリを連れている人も。その中に、家族をマリウポリに残し独りぼっちで乗車した14歳の少女の姿がありました。彼女は周囲の大人たちの配慮で、いち早くICRCのもとへ連れて来られました。
ICRCチームには、地雷や不発弾など放置された武器を扱う専門家や医師も含まれています。車列は、武器が残留した危険地域を通るため、トイレ休憩の際には舗装されている場所だけ歩くように注意を喚起しました。ICRCは、マリウポリの人々を安全に避難させるため、そしてマリウポリ市内に人道支援を届けるため、紛争当事者と交渉を続けています。なかなかセキュリティー上の条件が満たされず、目と鼻の先の場所で足止めされたままですが、いつでもマリウポリに入れるよう、態勢を整えています。
(4月20日時点)
世界に広がる支援の思い…
国際赤十字が一丸となって挑む
「苦しんでいる人を救いたい」という同じ志で、それぞれの使命にまい進していた3つの赤十字機関が一丸となり、人道支援の輪を拡大させています。
ICRCは2014年以来、8年にわたり続くウクライナ紛争で犠牲となっている人々を支援してきました。
ICRCの欧州・中央アジア事業局長のマーティン・シェップは次のように語ります。
「ICRCのスタッフは、首都キーウ(キエフ)をはじめ、南部オデーサ(オデッサ)、東部マリウポリ、ドネツク、ルハンスク、その他多くの場所に、医療品や食料、水、衛生用品を届けています。しかし、急増するニーズに対応するためには、さらに多くのことをしなければならないのは明らかです。そのため、私たちはウクライナや近隣諸国に追加のスタッフや物資を送り込み、今回の紛争で苦しんでいる人々を支援しています」
なお、日赤は、ICRCとIFRCの緊急救援アピール(資金援助要請)に対して、両方に14億1千万円ずつ、合計28億2千万円の資金援助を実施(令和4年4月25日時点)。この援助にはみなさまから寄せられた「ウクライナ人道危機救援金」が活用されています。
今、できることを。日赤職員の支援報告
ウクライナの西側に国境を接するモルドバ共和国。欧州の中でも特に経済的に不安定な国といわれる同国には、全人口の10%を超える数のウクライナ避難民が流入しました。モルドバ赤十字社を支援するため、IFRCの要請で派遣されたのが、大阪赤十字病院の河合謙佑(かわいけんすけ)さんです。河合さんはネパール地震やバングラデシュ南部避難民支援など、数多くの救援活動に参加。今回のウクライナ人道危機での任務を次のように語ります。
「私は現在、モルドバで世界各地から輸送されてくる救援物資や資機材の搬入、倉庫での適切な保管管理、人々のニーズに応じた救援物資の的確な輸送手配・搬出を担当しています。現在、モルドバ赤十字社と協力し、モルドバに赤十字の救援物資の拠点を作るべく、それに適した倉庫の準備をしています。先日郊外の街へ支援物資の配布に行きました。支援を求めている人々に物資が手渡されている場面を見ると、自分に任されている業務の重要性を再認識します」
IFRCからの要請でモルドバに着任したメンバーは河合さん含め7人。カナダ、スペイン、タジキスタンなど、7人全員の国籍と母国語が違いますが、英語でコミュニケーションを取り、赤十字チームとして連帯を強めています。
一方、同じくウクライナの隣国・ハンガリーには今回のウクライナ人道危機に対応するための本部が設置されているIFRC欧州地域事務所があり、3月中旬、日赤本社の芳原(ほうばら)みなみさんが同国に着任。ウクライナおよび周辺7カ国でのニーズや赤十字の活動について情報収集を行うとともに、国際赤十字と連携し、日赤からの資金・物資・人的支援を投入するための協議・調整・手配を行っています。
ハンガリー国内には、これまで43万人以上がウクライナから避難してきました(4月12日時点)。ハンガリー赤十字社は、国境近くの3カ所でヘルスケアセンターを運営、そこには医療職のボランティアが忙しい仕事の合間をぬってシフトを組み、避難者の健康を守る活動に参加しています。
国際赤十字の調査チームとして同センターを訪れた芳原さんは、「避難者のために全力で取り組んでいる地元の医療ボランティアを、外国人である私たちが少しでも助けられる方法がないか、話し合っています」と語ります。このような状況を受け、国際赤十字はハンガリー赤十字社が実施するウクライナからの避難者に対する医療支援のサポートとして、各国赤十字社の医師・看護師を派遣することを決定しました。世界の赤十字が協力し合い、ウクライナ避難民を支える活動は続いていきます。
赤十字の人道支援の活動マップ
昼夜を問わずにウクライナおよび周辺国で展開されている赤十字の人道支援活動。目まぐるしく変わる情勢に赤十字も全力を挙げて対応しています。令和4年4月1日時点の赤十字の活動をマッピングしました。日本赤十字社も赤十字のネットワークを活用して、必要な救援活動が実施できるよう、常に準備しています。
【救援金の受け付け延長】
日本赤十字社は、赤十字国際委員会(ICRC)、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、各国赤十字社が実施するウクライナでの人道危機対応およびウクライナからの避難民を受け入れる周辺国とその他の国々における救援活動を支援するため、海外救援金を募集しています。
ウクライナ各地で戦闘が拡大・激化し、引き続き深刻な人道危機に直面していることから、支援の拡大および中長期の支援を見据えて、海外救援金の受け付けを延長することとしました。
皆さまの温かいご支援をよろしくお願いいたします。
「ウクライナ人道危機救援金」受け付け中
募集期間:〜2022年9月30日(金)まで
紛争下での「赤十字マーク」その大切な意味
ICRCはウクライナで、ロシアとの国境沿いのスームィ(スムイ)から数千人、東部沿岸部ベルジャンシクからマリウポリ市民を含む千人以上を避難誘導しました。これが実現したのは、赤十字が紛争当事者と直接交渉ができる組織だからです。
赤十字マークは、「攻撃してはならない」という意味を持ちます。国際法で厳格に定められているため、私たちは一切武装をせず、このマークを命綱に紛争の犠牲となっている人々に寄り添うことができるのです。一般の方が、赤十字マークをむやみに使用してはならない理由もここにあります。
また、紛争当事者も赤十字マークを尊重し、政治とは離れたところで、中立で独立した人道支援ができるように便宜を図らなければなりません。ロシアもウクライナも、戦争のルールであるジュネーヴ諸条約に加入しています。
その一方で、赤十字マークを付けていようがいまいが、私たち職員は安全が確保できない場所には入れません。もしも被害に遭うようなことがあれば、現場での活動が中断されます。さらに被害者を増やすことで、現場のお荷物になってしまいます。そのため、すべての紛争当事者と対話をしながら、現場のセキュリティー状況を分析して活動します。
赤十字の中立な姿勢は時に誤解を呼ぶこともありますが、敵味方の区別なく、赤十字の到着を心待ちにする人たちの所にたどり着くために、とても重要なスタンスなのです。
( 赤十字国際委員会 駐日代表部 広報統括官 眞壁仁美さん )