今、危機に瀕(ひん)している 1億人の命をつなぐために。 紛争などから避難している人々は、世界中で1億人以上
紛争などから避難している人々は、世界中で1億人以上いると言われています。
日赤はこうした人々に対して、「NHK海外たすけあい」への寄付を活用し、支援活動を続けています。
今回の特集では、世界中に点在する難民・避難民の中から3つの地域をクローズアップ。
今この瞬間も危機的な状況にさらされている人々をリポートします。
今回の特集で紹介する3地域や、日赤が支援する「アフガニスタン人道危機」の避難民、アフリカ地域の難民・避難民のほか、赤十字の人道支援活動は、世界各地で発生する自然災害の被災者支援など、国や地域の区別なく展開しています。
Middle East パレスチナ難民・シリア難民
イスラエル・ガザの人道危機
国際人道法が守られる世界を願って
日赤中東地域代表部
首席代表
松永 一(まつながはじめ) さん
2011年にシリアで内戦が勃発したことから膨大な数の難民が発生し、例えばレバノンには、すでにパレスチナ難民など他の難民を抱えていたところに、シリアからの難民約150万人が押し寄せました。また、2014年に激化したイスラエルでの武力衝突により、ガザにいるパレスチナ難民の支援が必要になったことから、日赤はシリアやガザ、そして周辺国において難民とその受け入れを行う地域への支援を2015年から本格的に開始。レバノンでは難民が利用する病院で医療技術の支援を行い、町の診療所や学校の修繕、トイレの設置、手洗い場の整備などを実施してきました。
現在、中東ではイスラエル・ガザの人道危機が発生していますが、これによってまさに数多くの難民が窮地に追い込まれています。日赤が2019年から医療技術支援をおこなってきたパレスチナ赤新月社*(パ赤)のアルクッズ病院も影響を受けました。病院には攻撃予告が届きましたが、当時院内には数百人の患者だけでなく1万4000人以上の避難者が身を寄せていたため、こうした人々を残しては離れられないと、パ赤は退避の要求を拒否。救急車も攻撃対象になり、パ赤の職員にも犠牲者が出ました。瓦礫に埋もれて亡くなった子供が当直外科医の子供だったことも…。さらに、近くに着弾したことで病院の窓ガラスが飛び散り、破片がベッドにも突き刺さるなどし、遂には、発電用燃料も無くなり全ての診療活動が停止。病院は閉鎖に追い込まれました。
戦時のルールである国際人道法において、民間人や医療機関・医療従事者、人道支援に携わる者は明確に保護の対象となっています。国際人道法の誕生に寄与した赤十字としては、その存在価値をまさに問われる事態が、現在進行していると感じます。(※記事の状況は11月20日時点のもの)
*赤新月社はイスラム圏の赤十字社
Ukraine ウクライナ避難民
いまだ1000万人近くが避難生活を送る中
2023年6月にはダムの決壊など新たな問題も
日赤ウクライナ現地代表部
リヴィウ事務所 副代表
樋野芳樹(ひのよしき) さん
ウクライナでは、2022年2月に武力衝突が激化し、現在でも国内避難民が約367万人(IOM*、11月6日時点)、国外への避難民が約624万人(UNHCR、11月7日時点)いると言われています。そして、国内避難民の72%ほどの人が人道支援機関からの現金給付や政府からの支援に頼って生活している状態です(IOM)。
日赤はこれまで、資金援助や医療支援を通じてウクライナ赤十字社の活動をサポートしてきました。現在も、現地でニーズの高さが感じられるのが巡回診療です。たとえば、西部のイヴァノ=フランキウスクは山あいの州で、医療にアクセスしにくい環境にあります。そういった地域では、赤十字社による巡回診療が住民の支えとなっています。また、ウクライナ赤十字社は紛争の影響で一人暮らしとなった高齢者などのために、ソーシャルヘルパーを育成して派遣し、在宅ケアも行っています。紛争激化から2度目の冬。昨年は暖冬で避難民からは「神様のおかげ」という言葉が出るくらいだったのですが、今年の冬は寒さが厳しくなるようです。攻撃による電力不足も懸念される中、地域によっては氷点下20度にもなる厳冬期の対策は重要課題と言えるでしょう。
また、今年の6月にはウクライナ南部の水力発電所のダムが決壊したことにより、洪水で川沿いに敷設されていた地雷が流されて人が立ち入れないエリアができてしまうなど、長期的な影響も懸念される課題にも直面しています。長引く避難生活を送る人々からは、「故郷の農作物が恋しい」「帰りたい」と、郷愁に駆られる言葉も聞かれます。丸2年間、心安らかに過ごすことができない避難民を支えるのは、日本や世界から「彼らを思う気持ち」です。
*国際移住機関
Bangladesh バングラデシュ南部避難民
支援は縮小される中、感染症流行や自然災害発生
困難を抱えながらも支え合う避難民たち
日赤バングラデシュ現地代表部
首席代表
藤﨑文子(ふじさきゆきこ) さん
2017年8月にミャンマー・ラカイン州で発生した暴力により、隣国バングラデシュに大量の避難民が流出してから6年。人々は、避難民キャンプからの自由な移動も許されず、先行きの見えない避難生活を送っています。世界各地で災害や紛争が続く中、国際社会からの関心が徐々に薄れ、食料支給額は段階的に引き下げられており、今後子どもの栄養不良が大きな問題となることが懸念されます。日赤が運営するキャンプ内の診療所には、キャンプ生活の制約やストレスが要因と思われる生活習慣病を訴える人が多く訪れています。また、狭く劣悪な衛生環境で家族全員が生活するため、皮膚病やデング熱など、感染症のまん延も問題となっています。
そんな中で励まされるのは、困難な局面において、避難民同士の結束や対応力が発揮される場面が見られることです。今年3月のキャンプ内で発生した大火災では、誰よりも早く避難民ボランティアが現場に駆け付け、避難誘導や負傷者の応急処置を行いました。彼らはボランティアとしてわずかな日当を得ているのですが、生活の糧を得る手段としてのボランティアを超えて、コミュニティーを守るという使命感を持って取り組んでいることに感動と感謝を禁じえません。自国では学校の先生や技術者という職を持っていた人も多く、職や自由を奪われながらも、自分の現在の役割に誇りとやりがいを持っています。「避難民」とひとくくりにするのではなく、外からの支援に甘んずることなく、コミュニティと共に困難に立ち向かう一人一人であることを皆さんに知っていただければ幸いです。