<続> いのちを、ありがとう 難病と闘った梨花ちゃんの「それから」

2020年10月号に登場した当時2歳の宮島梨花ちゃん。生後間もなく、白血病の一種で100万人に1人と言われる難病を発症し、治療中にはたくさんの輸血に支えられました。退院して5年。今春小学校に入学した梨花ちゃんの4年間を振り返るとともに、闘病中の輸血の状況、そして、ご両親と梨花ちゃんの「恩返し」、母・知子さんの「献血への感謝の思い」をお届けします。

小さな体で難病を克服した
梨花ちゃんの、精いっぱいの「恩返し」

rinka_nyuugaku.jpg

 今年4月、6歳になった宮島梨花ちゃんは緊張と喜びがあふれる面持ちで小学校の入学式に参加しました。お気に入りの水色のランドセルを背負い、元気に登校する姿からは、命がけで病と闘った日々があったなど想像すらできません。ましてや、3歳になるまで免疫の関係で他の家庭の子とほとんど遊べなかったなんて、耳を疑うことでしょう。

 4年前の取材時は、退院から1年以上経過していたものの家族以外の人との接触が制限されていました。移植手術や治療の影響で、はしかや水ぼうそうなどに感染したら重症化する心配があったからです。遊びたい盛りの梨花ちゃんは、他の子どもがいない公園で、知子さんと二人きりで遊びました。

(当時の状況や闘病を伝える記事は、こちらから)

sekijuuji_20_10_965_m.jpg

5歳でヘアドネーション

頑張って伸ばした髪をヘアドネーションのためにカット

 梨花ちゃんが病児用ヘアウイッグに寄付するため、髪を伸ばし始めたのも4年前です。抗がん剤の影響で一度は全部抜けてしまった頭髪が徐々に生えそろってきた梨花ちゃんに、知子さんが「やってみる?」と尋ね、まだ2歳ながら「うん!」と、ヘアドネーションを決めました。
 その後、知子さんは初めて献血し、継続して献血に通うようになり、梨花ちゃんの父・大輔さんは骨髄バンクのドナーとして骨髄を提供。家族全員が梨花ちゃんの命を救ってくれた恩返しをするように…。梨花ちゃんは髪が伸びるのを楽しみにしていましたが、一方で幼い子の細い髪の毛は絡まりやすく、毎日の手入れにかなりのストレスを感じることも。昨年4月に既定の長さに達して寄付が実現した際、知子さんは「よく我慢して、頑張ったね」と、梨花ちゃんをたたえました。

 現在の梨花ちゃんは3歳になる双子の弟妹もいて、時にけんかもし、仲良くにぎやかに暮らしています。しかし、移植を受けた体は普通の子とは少し違っていて、学校で風邪や感染症が流行すると、予防のため学校をお休みします。また、強い紫外線を浴びると「二次がん(*)」になりやすいため、医師の指導の下、日焼け止めを塗るなどの紫外線対策をしています。5月の運動会では、半袖の体操服姿の子どもたちの中で、ただ一人、紫外線よけの黒いアームカバーを着けた梨花ちゃんの姿がありました。

rinka_undoukai.jpg

*二次がん:治療のために使用した抗がん剤や放射線治療の影響で年月が経ってから発症する2つめのがん

心臓近くの太い血管に薬を注入するために中心静脈カテーテル手術も受けた

入れても入れても壊れる血小板
繰り返された輸血

 梨花ちゃんが、100万人に1人の難病である「若年性骨髄単球性白血病」を発症(診断確定)してから、今年5月11日で6年目、12月には造血幹細胞移植からも6年目を迎えます。状態は良好ですが、今後も1年ごとの定期受診は続き、「晩期障害(*)」を見据えて自分の体と向き合っていかねばなりません。

 生まれて初めての輸血は生後5カ月のときでした。血液検査で白血病の疑いがあり、病名が確定する前に緊急入院。このとき、採血すると針を刺したところから床にしたたり落ちるほど出血が止まらず、看護師が慌てる一幕も。検査で出血を止める働きのある血小板が特に少ないことが分かり、「血小板製剤」を輸血しました。しかし、入れても入れても血小板が壊れてしまうため、週2、3回の輸血が必要に。ヘモグロビン数値も下がることがあり、「赤血球製剤」も輸血。知子さんは、赤血球を輸血することでみるみる顔色が良くなる梨花ちゃんを見て驚いたそうです。輸血が必要なほど赤血球の数値が低いということは、大人でいえば極度の貧血状態。言葉を発せない梨花ちゃんも、体がつらく、本来の元気が出せなかったことでしょう。

 入院して1カ月、精密検査の結果から病名が判明。梨花ちゃんは正常な血液をつくるための「造血幹細胞」の移植が必須である、と診断されました。まずは、白血病の薬で腫瘍細胞の増殖を抑えるアザシチジンを投薬し、採血結果を見て輸血も頻ぱんに行います。また、移植のために胸に中心静脈カテーテルの手術をして点滴用の管を挿入しましたが、このときも、なかなか出血が止まらず知子さんはとても心配したそうです。闘病中の梨花ちゃんにとって、「血小板製剤」はなくてはならないものでした。

 造血幹細胞移植を行うにあたり、他の人の造血幹細胞をそのまま体に入れても、自分の細胞が残っていると生着しません。いったん、自分の造血幹細胞を破壊するため、強い抗がん剤を小さな体が耐えられるぎりぎりまで投与します。この移植前の処理で、大量に点滴をするので尿の量も増え、おむつがすぐにいっぱいになるため夜中のおむつ替えの回数が多く、知子さんは眠れない日が続きました。
「多いときは、薬液や輸血が7種類も注入されていました。梨花も食欲がなく、吐いたりもするので、とても苦しい状態だったと思います。私も眠れなかったので、母子ともに極限状態でした」(知子さん)

rinka_02支.jpg

*晩期障害(晩期合併症):小児がん患者が大人になってから発症する可能性がある、成長障害や臓器の疾患、不妊などの内分泌障害など

ご両親と祖母に寄り添われ、造血幹細胞を点滴で体内に移植している梨花ちゃん

待っている人がいるから…
今度は自分が、力になりたい

 移植が終わってしばらくすると、また輸血が再開されました。血液の成分を入れても壊され…の繰り返しで、22日間の連続輸血。やがて数値が安定し、輸血をしないで済むようになりましたが、知子さんはこのときの経験から、血液を提供してくれた人々に対し、深い感謝の念が湧くそうです。また今でも、献血が足りない、などの情報には敏感に反応してしまうそう。
「入院中、輸血を待っているのに、いつもの時刻に届かなくて、まだ届かないの?と不安になったことがありました。年末年始など献血する人が少なくなりそうな時期は、輸血足りているかな…と、心配になります」

 生まれて間もない時期に、ほとんど病院から出ることができない9カ月間の闘病生活を送った梨花ちゃんと、知子さん。今では、家族5人で幸せな日々を過ごしています。知子さんは、「献血のボランティアをしてくださった方々には、本当に感謝しかありません。赤十字マークをつけた献血運搬車を見かけるたびに、“あの車の向かう先に血液を待っている人がいる! ”と思うと、胸が熱くなります。私も、少しでも力になれたら」と、ご自身が献血をする理由を話します。梨花ちゃんも、幼いながらに、多くの人に支えてもらったことが深く心に刻まれていて、
「人を助ける人になりたい。苦しんでいる人を助けるお医者さんになりたい」
と、将来の夢を語っているそうです。

梨花ちゃんを支えた
「血液のお薬(輸血用血液製剤)」

献血の血液は、各地のブロック血液センターの製造所で成分ごとの血液製剤となり、さまざまな治療に役立てられています。

「血小板製剤」
●保存温度 20~24℃
●有効期間 採血後4日間
●要振とう
血小板は、血管が損傷したときに血管をふさいで出血を止める働きがあります。
「血小板製剤」は血小板が減少した場合や血小板減少症に使われます。

「赤血球製剤」
●保存温度 2~6℃
●有効期間 採血後28日間
赤血球は、肺で取り込んだ酸素を体の各部へ運ぶ働きがあります。
「赤血球製剤」は赤血球が減少した場合や貧血などに使われます。

献血の血液から造られる血液製剤の種類と有効期間は? ⇒ 「輸血用血液製剤の種類」