未来を守る「防災ゼミナール」Vol.5 探さない、安心して早く逃げるために

日赤の災害救護研究所の専門家の視点から、災害時に必要な知識や今から始められる防災など、役立つ情報を発信します。

≪災害救護研究所とは?≫
日本赤十字看護大学付属の研究機関として2021年に発足。災害時の救護活動を通して得た知見を学術的に分析・集約し、被災者の苦痛の予防・軽減を目的とした研究所

命を救う「仕組み」を日常に

●お話を伺った人
災害救護研究所 災害救援技術部門
宮田 昭さん
(災害救護研究所 客員研究員
 元・熊本赤十字病院 副院長)

救いに行っても間に合わない――。
 私は、複数の災害で救護班として活動し、災害の報を受けてから動く救護活動の限界を感じました。災害発生直後に失われる命を救うにはどうしたらいいか。東日本大震災のさまざまな報告を検証する中で気づいたのは、大切な人を探したり連絡を取ろうとしたりすることで避難が遅れてしまう人の多さです。その一方で、助かった人は「率先避難」で津波の被害を免れたことが分かりました。中学生たちが避難しながら大声で呼びかけ続けたことで周辺住民の多くの命が救われた“釡石の出来事”のように、率先避難をする姿は、見た人の行動にも影響を与えます。災害が起きた瞬間に命を守る行動ができるのは、そこにいる被災者本人。私は医師としての領域を超えて、他の研究者たちと「安否確認を支援するコミュニケーションアプリ」の開発に取り組んできました。これは、自分がこれから避難することを、家族や職場の人などに伝えることで安否情報を共有するシステムです。これにより、メッセージを送った相手にも、身を守る行動を促す効果が期待されます。今年、沖縄県那覇市とLINEヤフーコミュニケーションズが実施するオンライン防災訓練では、このシステムを用いた安否確認支援がシナリオに組み込まれており、私が所属する部門で技術支援と監修をしています。災害が起きたら、とにかく早く自分自身の安全確保に集中できる仕組みを社会に広めたいです

 また、インフラが破壊された中でも災害医療を行うための資機材開発も行ってきましたが、重要なのは、被災地の人がその設備を使い慣れているかどうか。日常で使い慣れていなければ使いこなせません。その開発事例の一つが、完全自己処理型水洗トイレ「トワイレ」です。トワイレは、水洗された排泄物を微生物が分解し、洗浄水を再生成する処理システムを備えた上下水道が不要な水洗トイレです。私たちは、このトイレを災害時に防災拠点として活用される公共施設で普段使いすることを提案し、開発を進めてきました。昨年、国土交通省により福岡県の防災道の駅に導入されたトワイレは、能登半島地震の被災地でも活躍しました。10年20年に一度あるかないか、という大災害のときにしか使用しない設備やシステムではなく、日常的に使用するもので万一に備える、という「フェーズフリー」の発想は、医療支援だけでなく、あらゆる人にとって大変有用だと思います。

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