ゾドで苦しむ人々を救うために【WORLD NEWS】

1939年に設立されたモンゴル赤十字社(以下、モンゴル赤)は、首都ウランバートルの本社と33の支部を拠点に、全土で災害救護や保健支援をはじめ、地域のさまざまなニーズに対応する活動を続けています。今回は、「ゾド」と呼ばれる大規模な冷害・雪害に苦しむ人々を支え、モンゴル赤の“災害に立ち向かえる組織力”を強化するため、日赤が行う支援事業を報告します。

放牧地を襲ったゾドの影響で昨年11月から今年6月までに家畜約790万頭が失われた ©IFRC

「広大な大地の隅々まで
 支援を届けるために」
求められる組織力強化

 近年、モンゴルでは気象災害の頻度が増加し、過去20年間でその発生件数は2倍になったと言われています。人口が密集する首都ウランバートルでは、2023年に数十年ぶりの大規模な洪水被害がありました。被害が拡大した原因のひとつには、生業を失った遊牧民の移住などによる急激な人口増加とその半数以上がゲル地区(テントなどの移動式住居や簡易住居が集中する地区)や洪水リスクの高い地域に暮らさざるを得ない状況であることが挙げられます。また、特に2015年以降は夏の干ばつに続いて豪雪や氷点下40℃以下の極寒の冬が訪れる「ゾド」と呼ばれるモンゴル特有の自然災害が頻発しています

 このような現状に立ち向かい、広大な国土において、必要な支援を迅速かつ継続的に届けるために、モンゴル赤は、支部体制を強化するための事業に取り組んできました。

 日赤は、2015年から2019年にかけて、各支部において活動資金(寄付)の調達や事業の運営・管理を自力で行えるようにする活動を支援してきました。例えば、2016年には、ウランバートル内の支部に縫製設備を整備して、そこで救援セットを入れるポーチを作成・販売し、支部の収入とする仕組みを構築しました。

モンゴルの遊牧民の住居「ゲル」の中で家族から話を聞く宮本さん(右)

急務とされるゾド対応
日赤から緊急対応要員を派遣

 モンゴル赤は、毎年のように起こるゾドに備えてあらゆる準備を進めていますが、今回は予想を上回る状況に対応が追いつかず、今年3月には「緊急救援アピール」を発出し国際社会に広く支援を呼びかけました。これを受けて日赤は、500万円の資金援助に加え、衛生用品セットの寄贈を行ったほか、日本赤十字社医療センターの職員・宮本教子さんを、国際赤十字・赤新月社連盟の緊急対応コーディネーターとして派遣しました。支部のスタッフやボランティアが、心理社会的支援=「こころのケア」の考え方を基に、気象災害で苦しむ人々に寄り添った声がけや支援ができるように手助けをするのが役割です。モンゴル西部のアルハンガイ県とザブハン県の遊牧民の家族を訪ねた印象を、宮本さんはこう語ります。

「一人一人のお話からは、気候的に厳しい地域に住んでいる人々の、自然の驚異を受容しながら生きていくたくましさを感じました。『家族や親せきで困ったことがあったら助け合います』『天気の良い中、羊の世話をしていると落ち着いてきます』といった声を聞く中で、自分たちの家族や親せきとのつながりはもちろん、家族同然の家畜の世話をすることが心の安定につながってくるのだと感じました。このような、自分たちがもともと持っているつながりや結びつきを生かして、厳しい状況に向き合っているのだと思います」

 家族のように大切にしてきた家畜が厳しいゾドの影響で亡くなってしまうことで、人々の精神的負担にもつながり、慢性疲労や睡眠障害、不安障害、アルコール摂取増などのストレス反応を見せる住民も多くいます。宮本さんはその現状を知り、スタッフやボランティアに向けて、被災者支援をする人が知っておくべきサイコロジカル・ファーストエイド(PFA)についての研修を行いました。6月中旬に洪水の被災地に駆けつけて支援を行ったスタッフが、「PFA研修を受けていたから、ストレスを抱える被災者にも自信を持って対応できた」と語るなど、着実に対応力が身についています。

モンゴル赤十字社の支部スタッフやボランティアを対象にPFAの研修を実施

日赤による支援は
新たな局面へ
3カ年の保健支援事業を開始

また、今年度から恒常化・深刻化する災害への対応を迫られるモンゴル赤の組織強化のため、日赤による3カ年の保健支援事業を開始しました。今回の支援では、救急法の普及と「こころのケア」活動のガイドラインや研修体系の整備に取り組みます。3年後に目指すのは、モンゴル赤の全33支部で質の高い救急法講習を提供できる体制を整備すること、また、職員やボランティア一体となって、「こころのケア」を人々のニーズに応じて提供できるようになることです。

 自然災害によって困窮・孤立する人々やへき地医療サービスの不足により命と健康が脅かされる人々への対応は、同国の最優先課題の一つです。モンゴル赤が遊牧民を含め、社会的に弱い立場にある人々に率先して支援を届ける姿勢は、地元の信頼を集めています。日赤は、これまで国内で培った救急法や「こころのケア」の知見など総合力を発揮しながら、この取り組みを支えていきます。


●モンゴル国ってどんなところ?
東アジア地域に属する内陸国・モンゴル。国土面積は日本の約4倍であるのに対し、人口は約350万人と、日本の2.8%ほど。大草原や遊牧民といった牧歌的なイメージがある一方で、近年は気象災害や経済不況による貧困、へき地での医療サービス不足などの問題を抱える。

NEWS_top.jpg

(オンライン版TOPページへ