未来を守る「防災ゼミナール」Vol.6

日赤の災害救護研究所の専門家の視点から、災害時に必要な知識や今から始められる防災など、役立つ情報を発信します

被災した瞬間から始まる情報支援


●お話を伺った人

災害救護研究所
情報企画連携室 客員研究員
市川 学 さん
(芝浦工業大学 システム理工学部 教授)


 人々の生活にはデジタル技術が浸透していますが、被災地支援のデジタル技術の活用は、まだ始まったばかり。保健医療支援の分野では今年1月の能登半島地震で初めて、情報収集をデジタル中心に行うことが実現しました
私は、社会にある課題をデジタル技術で解決していく研究を行っています。その延長として、災害時に保健・医療・福祉活動を行うための情報支援に取り組んでいて、日赤の救護班やDMAT(災害派遣医療チーム)、DHEAT(※)などの活動に生かされます。

 被災地の外から来た救護班は、避難所の場所やそこに行くためのルート、エリアごとの避難者数、どの避難所にどのような被災者(妊産婦や要介護者など)がいるかという情報を把握しなければ、適切な支援活動ができません。また、通行できない道や、停電・断水・通信の遮断などの状況が、一目で分かるようにマップに表示されれば、より早く的確に活動を展開できるようになります。実は、災害が起きて派遣される救護班の活動は、こういった事前情報の有無に左右されます。医師・看護師などの医療チームの時間は人を救うために使われるべきで、何十時間もかけて避難所を回って情報を得なければならないのは、人的資源や時間のロスです。私は約10年にわたり研究を続け、今年1月の能登半島地震では、石川県の保健福祉医療調整本部の情報収集をデジタル面でサポートしました。さまざまな省庁や団体が別々のシステムを使うので、情報の一本化などの課題はありますが、数年前まで紙に書いた情報をFAXで集め、人が情報を整理していたことを思えば格段の進歩です。

 みなさんに知っていただきたいのは、災害発生後の情報の収集と分析が、早くて確実な支援につながる、ということ。今後は、被災者自身がデジタルで情報収集に協力する仕組みも大切になると考えます。それは、被災した瞬間から始まる“全員参加型”の支援や復興です。一人一人がそのことを理解し、万一のときに「情報集約のために何ができるか」を考えれば、地域を動かすきっかけとなっていくはずです。全員参加で、皆が助かるために、情報収集や活用の方法を考え、協力し合っていきましょう。

※DHEAT(ディーヒート)=保健師などが中心となる災害時健康危機管理支援チーム

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●災害救護研究所とは?

日本赤十字看護大学付属の研究機関として2021年に発足。災害時の救護活動を通して得た知見を学術的に分析・集約し、被災者の苦痛の予防・軽減を目的とした研究所。

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