ガザ派遣医師が高校生に伝える、現地の‟今" イスラエル・ガザ人道危機から1年
昨年10月にイスラエルとガザ地区の武力衝突が激化してから1年。双方合わせて犠牲者は4万4000人を超え(*)、人道状況は悪化の一途をたどっています。赤十字国際委員会(ICRC)と日本赤十字社は、ガザでの医療支援から戻ってきた外科・整形外科医の安藤恒平さんと高校生によるトークイベントを開催。高校生たちは安藤医師が伝えるガザ地区の状況に真剣に耳を傾け、次々と質問を投げかけました。
(*2024年11月5日現在、国連人道問題調整事務所)
現地病院の多くが機能不全に
ICRCが野外病院を設置
武力衝突激化から1年がたった今でも、イスラエルで拉致された人質の問題は解決せず、ガザ地区では市民が戦闘の犠牲になり、収束の兆しが見えません。医療システムの崩壊も深刻で、ICRCは今年5月に、パレスチナ赤新月社との連携のもと、ガザ南部のラファに赤十字野外病院を開設しました。現在この病院は、日赤を含む12の各国赤十字が協力して運営を行っています。
10月4日、埼玉県の青少年赤十字加盟校、さいたま市立浦和南高等学校において、トークイベント「高校生と考える“イスラエル・ガザ”の1年」が開催され、安藤恒平医師が現地の状況や病院での業務について語り、高校生からの質問に答えました。安藤医師は、昨年の12月以降3度ガザ入りし、4度目となる今年8月には、赤十字野外病院で活動しました。
「前回までは、もともと現地にあった病院で医療支援を行っていました。しかしそこも、攻撃による強い振動で天井が落ちてしまっているような状況。敷地内の看護学校で寝泊まりをしていましたが 、教室の窓ガラスが割れて危険なので、教室と教室の間にある狭い廊下に布団を敷いて寝ていました。今回活動を行った野外病院は、海の近くで、比較的安全とされているエリアにあります。敷地内に病棟、手術室、献血室、薬局なども揃っているほか、食堂や休憩所なども設置されていました」(安藤医師)
病院に運ばれてくる患者は、ほとんどが攻撃によりけがをした人々だったと言います。
「患者さんからは、『何かが体を通り抜けて行った』という言葉がよく聞かれました。爆撃によって飛んできた何らかの破片なのか、あるいは弾丸なのか…。大きな骨折をしたり、内臓が傷ついてしまったりと、さまざまな傷を抱えた人々の治療を行いました」と安藤医師。訪れる人の多くは、体だけではなく、心にも大きな傷を抱えていたとも語ります。「家族を全員失って、自分だけが生き残ってしまった6歳の男の子が入院していました。本人も複数箇所の骨折と外傷を負っていましたが、心を閉ざしていて、まったく話をしてくれませんでした」(安藤医師)
野外病院には、心に傷を抱える患者をサポートするためのメンタルヘルスのテントも設置されています。家族を失った人だけではなく、体の一部を切除しなくてはならない重症の人もいて、そうした人々への「こころのケア」を行うために欠かせない場所となっています。
私たちが目を向けるべきこととは?
参加高校生からも多くの問いかけが
トークイベントに参加した生徒たちからは次々と安藤医師へ質問が投げかけられました。ある生徒の「患者さんと接する上で心がけていたことはなんですか?」という問いかけには、安藤医師はこう答えます。
「『何が起こったの? 』と、患者さんの背景を探るような質問をしないことです。これは、最初の派遣で現地の医師に教わったこと。患者さんだけでなく、病院スタッフにも家族を失った人が数多くいるので、同僚にもその質問はしません。心の傷口に触れることなく、仕事をまっとうするよう努めていました」
また、「命の危険を感じたことはありましたか?」という質問に対しては、危機に瀕した状況が分かるこんな回答が。
「現地の病院で活動していたときは、突然お腹に響くほどの爆音が聞こえて、しばらくすると黒煙が上がることもありました。そんなときは、身の危険を感じるというよりも『音が聞こえたということは、生きているんだ 』と考えるようになりました。本当に危機的な状況下では、危険を感じる間もなく、一瞬で吹き飛ばされるからです。そんな状況でも、赤十字の一員であることで、私たちは守られていました。レッドクロスのマークを空に向けて掲げている以上、私たちが攻撃を受けることはあってはなりません。それが戦時のルールです」(安藤医師)
安藤医師の言葉の一つ一つを重く受け止めた生徒たち。最後に代表して感想を述べた伊藤いちごさんは、
「一つの施設で献血や薬の管理、精神的サポートまで完結する野外病院の設備のすごさを感じました 。赤十字のマークによって保護され、攻撃を受けてはならないことも初めて知りました。今回学んだことを周りの人に伝えて、ガザの状況を多くの人に認知してもらい、支援につなげたいです」
と、語りました。
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