これが赤十字の救援力! 野外病院の「全展開訓練」 海外の大災害などで日赤が医療支援を行う「病院ERU」展開訓練 2024

海外での大規模災害など、国際救援が必要とされる地に日赤が派遣する、手術・入院機能を備えた野外病院、「病院緊急対応ユニット(病院ERU)」。昨年12月、兵庫県にて、その全ての資機材を設営・稼働させる訓練が実施されました。この訓練にはスイス・ジュネーブから、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)と世界保健機関(WHO)の担当者が来日し、WHOが医療支援の国際基準として定めた「EMT認証」のための視察も行いました。

【日赤の「病院ERU」全展開訓練データ】
 ※ERU : Emergency Response Unit

展開面積:約9000㎡
テント数:25張以上
資機材の総重量:約50トン
参加人数:150人以上
設営日数:3日間
訓練日数:5日間

INTERVIEW ~「全展開訓練」に思うこと~

日赤の92番目の病院として
海外での緊急事態に備える

日本赤十字社
国際部 国際救援課 救援係長
藤嵜 太郎さん


今回展開した病院ERUは、外来、手術、分娩、入院など、一般的な総合病院と同じ機能と資機材を備えた野外病院です。5年前には、大阪・高槻でアジアの赤十字社として初の展開訓練が行われましたが、今回は、5年前の検証によって不足が明らかになった設備や新たな資機材も投入し、リハビリテーション室やご遺体の安置所なども備えた“フル展開”が実現しました。海外の活動地の文化・習慣を尊重するため、宗教上お祈りの時間が必須な方のための「礼拝室」もあります。

訓練とはいえ、実働時と同様に設営・運営・撤収まで行い、資機材の動作確認をし、全ての機能を検証します。普段は病院で自分の担当部門のみに携わっている人も、ゼロから病院を立ち上げて機能させるために全体の運用を知り、野外病院ならではの設備を習熟しておく必要があります。
また、スタッフ間での技能や知識の継承も、今回の訓練の目的の一つです。今回の訓練には“国際救援のエキスパート”、海外でのさまざまな活動実績を持つ方が多数参加しています。まだ経験の浅いスタッフが経験豊富なスタッフから多くのことを吸収し、日赤の国際救援の経験を引き継いでいけたらと考えています。

私自身、過去に海外の赤十字社が運営する野外病院を視察した経験がありますが、そこはまさに、もう一つの現地の病院として機能していて、多くの患者を受け入れ、その土地の医療機関の補助として必要不可欠な施設でした。日赤は全国に91(*)の病院を運営していますが、この病院ERUが“92番目の病院”として、自信を持って日本から送り出せるよう備えるのが使命です。参加職員は皆がその使命の大きさを十分理解していて、医療職以外でも、通常は血液センターで献血や血液製剤に関する業務に従事する人が自ら電気工事士の資格を取得し、この資機材の担当として海外に派遣される際には力を発揮できるように備えているなど、提供する支援の質や確実性にもこだわっています。多くの病院・医療スタッフを抱えている日赤の強みを生かし、この病院ERUが、国際的に人々を救う存在になるために、今後も訓練を重ねていきます。

*2025年1月時点

日赤国際部 国際救援課 藤嵜太郎さん


普段の病院と変わらない医療の質を担保するために

日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院
国際医療救援部 副部長 兼 看護部 副部長
関塚 美穂さん

sekituka02.jpgこの訓練では、病院ERUの運営全体の管理者であるヘッドナースという役割を担いました。今回のような100人以上のスタッフが活動する大規模な野外病院の全容の把握は困難ですが、感染症アウトブレイク時や緊急時など、いざというときにリーダーシップを取る必要があります。いかなる場合でも、患者さんを置きざりにすることはできませんし、スタッフも守らなくてはなりません。そのためにはどうしたらよいかを考えながら、各テントを回って細部を確認しました。また、今回はWHOが定める「EMT認証」をクリアすることも目標の一つに掲げています。長年、国際救援・災害救護に関わっている日赤が他のチームのロールモデルになることは、私たちが目指すべき姿であり責務でもあると考えます。緊急対応といえども、「災害時だからこのレベルでいい」ということはなく、被災した方々の命と尊厳を守るという使命のもと、質の高い医療とサービスを提供するために、今後も努力を続けていきます。

日赤名古屋第二病院 関塚美穂看護師

傷を負った方々が日常生活に戻るためのリハビリ提供を

日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院
国際医療救援部 理学療法士
中島 久元さん


中島さん_シーン.jpg私は、理学療法士として紛争中のウクライナに5度派遣され、リハビリ支援を行いました。現時点で、ウクライナに理学療法士を派遣している赤十字の姉妹社は日赤を含め限られますが、脊髄損傷や足の切断など、負傷した方々が日常生活に戻るためのサポートとして、リハビリテーションはとても大切です。今回の病院ERU展開訓練では、以前はなかったリハビリテーション室も含まれ、緊急救援という枠組みの中でも、リハビリが重要な要素として捉えられていることを非常にうれしく思います。リハビリだけでなく、検査や放射線など、さまざまな部門が加わったこの病院ERUは、日赤のチーム医療の強みが存分に生かされたユニットです。患者さんや受益者さんの回復につながるように、チームの一員として、今回の経験を生かしていきたいと思っています。

日赤名古屋第二病院 中島久元 理学療法士

訓練参加者たちの声

新井さん.jpg

大阪赤十字病院
助産師
新井 暢さん

中学生のころ、途上国で働く助産師の姿をテレビで見て深く感銘を受けたことが、この職を志したきっかけです。紛争や災害の厳しい状況下では、女性や子どものケアが必要になります。病院ERUには分娩室もあり、助産部門の訓練は重要だと思い、今回の訓練に参加しました。



sugawara.jpg日本赤十字看護大学 
広尾キャンパス
大学院生 修士課程1年
菅原 美和さん

私は、DMATの資格も持つ看護師です。国際救援、災害看護に関わる仕事がしたいと思い、現在は日赤看護大学の大学院で国際災害看護学を学んでいます。まだ実際の国際救援の経験がなく、病院ERUの訓練も初めて参加しました。このようにさまざまな診療部門と資機材を備え、海外で医療支援を展開できることは日赤の強みだと感じました。



kobayashi02.jpg熊本赤十字病院
看護師
小林 賢吾さん

救援の現場で、いざというとき、資機材が一つ不足するだけで患者さんの命が救えない場合もあります。5年に1回の実証訓練です。この訓練を完璧に行うぞと、皆が真剣に臨んでいます。自分たちが作成した手順書や資機材に不足がないか、一つ一つ確認し、話し合い、課題も見つかりました。これで患者さんの命を救えるか?と問い続け、答え合わせをしていく訓練でした。



【訓練中の様子をプレビュー】

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❶ IFRCの認証チームのリーダーから質問される日赤看護師。EMT認証のため、認証チームは実際に病院ERUの内部を視察 
❷患者役として数十人の日赤看護大の学生が参加。訓練の説明を受ける 
❸テントの撤収作業を行う日本赤十字広島看護大学の学生(赤い帽子)

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❹感染症の専門家、古宮伸洋医師(日赤和歌山医療センター)が外来テントで診察 
❺入院患者ベッドの横には患者の状態を記載したホワイトボードがあり医療者たちはそれを確認しながら対応に当たる

EMT認証とは

WHO、IFRCの認証チームと挨拶する日赤職員

EMT認証とは、WHOが、Emergency Medical Team=緊急医療チームとして一定の水準を有することを認める制度です。大規模災害が発生した際に、その国・地域外から入った医療支援チームの能力や質に差があることから、この統一基準が設けられました。この制度の策定には、海外救援の経験値が高い赤十字も協力しました。 近年では被災国が、EMT認証取得の有無や必要となるチームのタイプを支援側に提示することが、国際医療支援のスタンダードになっています。EMT認証制度の策定に貢献した赤十字ですが、赤十字としての独立性を守るために、赤十字の病院/診療所ERUは、WHOから直接、認証を受けるのではなく、WHOの定めた国際基準を満たしていることをIFRCが認証します。

●認証フラッグを掲げる日赤職員

EMTアタリ2.jpg

ドローンで撮影したERU全景

●ERU内_手術室

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●ERU内_リハビリテーション室

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