怖いほど本気! 日赤救護班の研修に密着! 災害時に備える救護員の研修会をリポート
京都第一赤十字病院で開催された「令和6年度日本赤十字社京都府支部救護班要員基礎研修会」の様子
平時からの訓練が迅速な救護活動につながる
日赤の救護班は、医師、看護師、主事(事務職員)など約6人で構成され、どれも欠かすことのできない役割を持っています。また、医薬品や医療資機材、食料、衣類、寝具などは救護班で準備し、自己完結型で活動ができるよう備えている一方、災害時に被災地の自治体や医療機関と連携し、迅速かつ的確な活動をできるよう、平時から関係機関との情報共有や合同訓練なども行っています。
その訓練の一つとして、各支部で実施されている救護班要員(以下、救護員)の研修会では、突如として発生する災害・事故に的確に対応できるように必要な知識・技術を身に付けるだけでなく、赤十字の救護員として意識向上を図ることにもつながります。
今回は、2024年12月に、京都第一赤十字病院で開催された「令和6年度日本赤十字社京都府支部救護班要員基礎研修会」をリポート。同研修会には、京都第一・京都第二、舞鶴赤十字病院、京都府赤十字血液センター、京都府支部から、医師、看護師、薬剤師、主事など計60人が参加しました。
実習①:「救護員服制と基礎行動」
被災者の安心、信頼のために。救護服は正しく着用
日赤の救護班の救護服は、職員の統一感や清潔感を示すことで、被災者の安心や信頼にもつながるため、着用方法に細かいルールが定められています。また、救護員が統一された服装で活動することで、被災地の方々が日赤の存在を認識しやすくすることも目的として定められた作業衣です。
初めて救護服に袖を通す職員も多く、講師が指導をしながら実習が行われました。その後は、災害現場など混乱した状況で、チームが指揮者の命令の下で団結し、迅速に行動するための基礎的な動きを学びます。
救護服を着用し、基礎行動の指導を受ける参加者。
「気をつけ!」や「頭(かしら)~中!」といった号令に、本番さながらの真剣な眼差しで取り組む
実習②:「トリアージ」
一人でも多く命を救うための“治療優先順位”
患者に対して治療の優先順位を決めるトリアージは、資材やマンパワーが限られる災害現場において可能な限り多くの命を救うことを目指して行われます。歩行可能か、患者の呼吸の有無や数、脈拍などを確認し、優先度を4つの色(黒、赤、黄、緑)に分類して、最優先治療群である赤色の人を素早く探していくことが重要になります。トリアージは、医療従事者でなくとも行うことができるため、その場にいる全ての救護員がトリアージをできるようになること、また、何度も行い、精度を高めることが大切です。
医療職ではないが、トリアージを学ぶ参加者
実習③:「業務用無線」
通常の通信手段が使えない!そんなときの“命綱”
通信インフラに左右されない業務用無線は、日赤専用の周波数を保有し、関係者へ向けて一斉に情報を伝達できる通信手段です。実習では「はっきり」「正しく」「簡潔に」の3点を意識し、聞き分けづらい言葉の上手な伝え方など、通信のコツを学びます。
慣れない無線の操作に緊張する参加者
実習④:「情報管理」
正確な情報伝達と管理が、命を救う活動を支える
クロノロジー(以下、クロノロ)は、収集した情報、発信した情報について「誰が発信し」「誰が受け」「どのような内容であったか」を時系列に記録していく手法のこと。被災地支援の現場や災害対策本部に集まってくる情報の混乱を防ぎ、スムーズな救護活動のために非常に重要です。参加者は、情報が流れていく速さに驚きながら、災害時の情報共有の難しさと、的確な情報伝達の技術を身に付けることの大切さを痛感していました。参加者からは「一回で聞き取ってその情報を正確に記録するのがこんなにも難しいと思わなかった」との声も聞かれました。
流される情報を聞きながら、クロノロを記載していく
実習⑤:「EMIS(広域災害救急医療情報システム)」
情報を制する者は災害を制す! 幅広い情報の収集と共有
EMIS(イーミス)は、被災地における救護班や医療体制の状況など幅広い情報を収集・共有できるシステム。国が主導し、全国に導入されています。安全かつ有効な救護活動を行うための情報収集と伝達の重要性を改めて学びながら、いざというときにすぐに使うことができるよう、EMISなどのシステム操作に慣れ、緊急時に備えておくことの大切さも感じられる演習となりました。
「情報を制する者は災害を制す」という言葉を心に刻み、各自のPCでEMISの使い方を学ぶ
実習⑥:「災害診療記録とJ-SPEED」
被災者の真のニーズ、確実に必要な医療資材を可視化せよ
災害時は、現地の状況やニーズを把握し、適切な救護活動を行うために、避難所管理者と看護師、患者さんと医師のやり取りから、災害診療記録の記載も重要です。この際、集められた情報を解析し、被災地における医療ニーズの全体像とその推移の即時集計・可視化する情報提供サイト「J-SPEED(ジェイ・スピード)」も活用されます。実習では、避難所を想定し、避難者の数、不足しているもの、患者の情報など、収集すべき項目や記録方法を学びました。
災害診療記録を実践する
【参考】
J-SPEEDは、被災地で必要とされている医療資源の種類と量を地点別にカウントします。具体的には、災害医療チーム(医療救護班)が被災地で診療をするたびに、病名などを登録していきます。
J-SPEEDの大きな特徴として、同日に同じ患者が二回診察を受けた場合、二回ともカウントの対象となります。その理由は、医療資源が二回、被災者に提供されている(医療提供者側から見れば、二回の支援活動が発生している)からです。患者数ではなく、診療件数をカウントすることによって、必要とされた医療資源の総量が可視化され、翌日にむけて必要な医療救護を調整することが可能になるのです。(J-SPEED情報提供サイト - FAQ より抜粋)
「総合演習」
具体性を持って救護員のスキルと心構えを磨く
6つの実習の後に行われた総合演習では、他施設・他職種の方々とチームを組み、避難所や救護所に派遣される救護班の活動について、具体的な事例をもとに演習を行いました。ここでは「避難所へ持っていくもの」「避難所救護所では何から始めるか」「救護所での役割分担」「救護所内のレイアウト」など多くの課題を知ることになります。医師、看護師、薬剤師、主事と、異なる専門性を持つメンバーが意見を交換し合いながら対応を検討し、救護班としての在り方を実践的に考えました。
病院、血液センター、支部、通常の業務では接点のない職員が協働する演習となった
日赤では、これら継続的な研修会や訓練を積み重ね、有事の際に、迅速に災害救護活動が行えるよう、救護員のスキルアップに努めていきます。
今回の研修会に参加した、京都府内の支部・赤十字病院・血液センターの救護員たち