東日本大震災、「あの日」から 赤十字の10年 全てはこの震災から始まった
2011年3月11日、午後2時46分。宮城県沖でマグニチュード9.0の大地震が発生し、最大遡上(そじょう)高40m超の巨大津波が東北地方・関東地方の太平洋沿岸部を襲った。
死者・行方不明者数は2万2000人以上。死因の多くが溺死。日本赤十字社は、災害発生と同時に全国から55班の医療救護班が東北に向かったが…。
被災地では、観測史上最大となった巨大津波によってあまりにも多くの命が失われていた。
命を救う。その使命を果たすために、 赤十字、そして「人道」は何ができるか
多くの尊い命が失われた被災地には47万人もの避難者がいた。この人々の命と健康、そして尊厳を守らなくてはならない。以降、6カ月間にわたり、日赤は過去最大規模となる救護活動を展開した。従事した職員は延べ7千人超。持てる能力を総動員して災害救護に立ち向かった。これまで赤十字の活動を理解し支えてくれた地域の奉仕団・各種ボランティアと協働し、行政や他団体・他機関との連携を図り、被災者の立場になって何をやるべきなのかを考えた。ありとあらゆることに想像力を発揮し、被災地のために全国の赤十字関係者が団結して、前例のない多彩な支援活動を実施した。
赤十字は、一般の方々から「苦しむ人を救ってほしい」という願いを託され、被災地で活動する。この赤十字の活動の根幹には「人道」がある。何か痛ましい出来事が起こった時に「自分には何ができるか。何かをしてあげたい」と自然と湧き上がってくる気持ちこそが「人道」。私たちは「人道」を掲げる救護団体として、再び未曽有の災害に見舞われたとしたら、救うことを続けるにはどうしたらよいか。「あの日」からその答えを探し、歩み続けている。
災害発生直後からの、私たちの歩み
発災直後、沿岸の被災地で感じた「木の匂い」。それは生活が営まれていた家が一瞬にして流され、無残にも崩れ果てた姿となった家の建材や海に漂う木材から発した匂いだった。日赤のあらたな歩みは凄惨(せいさん)な光景が広がるあの被災地から始まり、それまで活動の中心としていた災害発生期に加え、復興期、そして平常時といったそれぞれの状況に応じた災害対応全般に関わる取り組みへと進化した。
1.災害発生期(救護活動)
【想定外のことに対応できる“備え“の重要性を再認識】
発災当日に全国から医師、看護師等で編成される医療救護班55班が被災地へ向けて出動し、救護活動を開始。また、持てる力を最大限に発揮し、全国に備蓄している救援物資の配布や、被災者の方々へのこころのケアなどを行った。被災地を支援するために配布された救援物資は、毛布14万8493枚、緊急セット3万8437個、安眠セット1万5406個。こころのケア活動では延べ1万4000人の方々の被災に伴うストレスや悩みの支援を行った。経験したことのない対応が迫られた原子力発電所事故は、救護活動を展開するために必要な情報にも不足があり、困難を極めた。そのため、福島県での活動では緊急被ばく医療アドバイザー(現在の原子力災害医療アドバイザー)を常駐させ、救護班の安全対策に努めながら活動を行った。
これらの経験によって日赤は、長期にわたる救護活動を支援するためのロジスティック中継基地の整備と、医療救護における関係機関との共同連携および日赤内の活動調整を図る「日赤医療コーディネートチーム」の配備の重要性を認識し、その実現に向けて動き出した。また、原子力災害を経験し、世界で初めて放射線下における救護活動の実施方針や対応策の策定に着手した。
2.復興期(復興支援)
【未曽有の災害で見えた、中長期的な支援の新たな形】
甚大な被害が発生した被災3県の日赤支部をサポートするため、本社に防災ボランティアセンターを設置。発災から翌年3月までに全国で活動した赤十字ボランティアは17万9517人に上り、過去最大規模の活動となった。
また、海外赤十字社からの1002億円を超える救援金によって復興支援を実施。
●仮設住宅への家電セット寄贈 ●仮設体育館の建設支援 ●スクールバス支援 ●介護用ベッド寄贈 ●高齢者の肺炎予防のワクチン接種費用の助成
●遊び場を確保する屋内プレイランド(すまいるぱーくなど)設置
●放射線測定のための各種機器の寄贈 ●サマーキャンプ開催
…など、多様な支援が実現した。
被災者の方々の生活再建を支援する義援金については、発災直後から直ちに募集を開始。その全額を被災地に届け、これまで総額3424億9793万412円(令和2年12月31日現在)もの義援金が集まった。
3.平常時(防災・減災活動)
【日常から防災意識強化の取り組みを】
東日本大震災での教訓を次世代に生かせるよう、救護活動と復興支援の経験をもとにした災害対応能力の強化に取り組んでいる。さらには、従来の応急対応だけでなく、国や地域、学校などとの連携を深め、地域に即した防災・減災活動に取り組むほか、個々の防災意識を高める活動を積極的に展開している。
全国で、地域住民を対象に防災教育事業を実施。地域コミュニティにおける「自助」、「共助」の力を高めるために、居住地に合わせて実施内容を選択できる「赤十字防災セミナー」を行い、地域住民の防災・減災に関する知識・意識・技術の普及を推進。地域において災害発生時の応急対応にあたるリーダー層の育成も目指している。
また学校教育の中で使われることを想定した青少年向けの防災教育教材を作成し、約3万6000校ある全国すべての小・中・高校に配布。自ら考えて判断し、危険から身を守る行動をとれる人材育成と防災意識の向上を目指している。