大地震の経験を生かして防災事業をパワーアップ!ネパール・コミュニティー防災事業
2015年4月25日、過去80年間で最大の地震に襲われたネパール。同国は地震だけでなく、洪水や地滑り、土砂崩れなどさまざまな災害リスクを抱えるほか、衛生環境などから引き起こされる健康問題も課題となっています。
日本赤十字社(以下、日赤)は、そうした幅広いリスクに対する住民の防災対応力を高めるために、ネパールの三つの郡で2012年8月から支援を行ってきました。このたび終了した三年間の支援期間の成果を振り返るとともに、今後の取り組みをお伝えします。
- ※本事業は、2015年の地震発生前から実施しており、地震後の救援・復興支援事業と並行し今後も実施していきます
大地震で役立った「災害時に助け合う仕組み」
支援前後の住民の意識や環境についてアンケートを行ったところ、この事業がさまざまな成果をもたらしたことが分かりました。
例えば、災害リスクの高い地域に住んでいると答えた世帯の割合は約50%から約10%に減少。住民が主体となって造った洪水や土砂崩れ対策の堤など、災害リスク軽減活動の成果が、住民の安心につながったことが確認できました。
また、一年間で下痢にかかった世帯の割合も、約50%から約20%に減少。衛生教育を通じて手洗いの習慣が根付いたこと、衛生的なトイレが建設されたこと、調理環境が衛生的になったことなどが成果を生んだと考えられます。
2015年の大地震で、日赤の事業地は幸い人的被害を免れましたが、多くの家屋が全壊・半壊の被害を受けました。この時、事業を通じて築かれた『災害時に助け合う仕組み』が、存分に力を発揮しました。
特に大きな役割を担ったのは、各コミュニティーに設立された住民組織である災害対策委員会です。
事業地の一つ、ウダヤプール郡リンパタール村の災害対策委員会は、地震発生後すぐにネパール赤十字社(以下、ネパール赤)の郡支部と調整し、現金や食料配布に協力したほか、被災した家庭を訪問。支援地の中で最も被害の大きかったチトワン郡では、災害対策委員会が自主的に募金活動を開始しました。
また、リンパタール村では、住民の『地震や土砂災害に強い学校を造りたい』との思いから日赤が2014年に学校建設を支援。この校舎は今回の地震で被害を免れ、家屋が全壊した住民の避難所として役立ちました。「高齢の家族がいるので大変ありがたかった」と被災した家族は語ります。
「地震からもいのちを守る」新たな防災事業へ
このように支援が大きな成果をもたらしたこと、防災が引き続き大きな課題であることを踏まえて、日赤とネパール赤は、同三郡の異なるコミュニティーで支援を続けることを決めました。
2016年2月には、次の支援期間に行う活動内容を決めるためのワークショップを開きました。
各地域で実務を担当するネパール赤職員も参加し、共に学びながら、参加型で支援を形成したことで、より現場の状況やニーズに合った活動内容が選定されたほか、関わるすべての職員の参画意識が高められました。
最大のテーマとなったのは、『大地震の経験をどう次に生かすか』という視点でした。
これまでは、頻繁に発生し、住民にとって身近な脅威である洪水や土砂崩れに重点を置いていましたが、次の支援期間では、地震の対策も盛り込むべきだという認識で日赤とネパール赤が一致。
住宅の耐震補強や建築基準法についての啓発、地域の建築技術者に対する耐震性が確保された住宅の研修といった活動を新たに加えていくことが話し合われました。地域住民も巻き込んで行われるニーズ調査の結果を踏まえて今後、具体的な活動計画を立てる予定です。
この大地震を経てネパール赤は、『より早く、より多くの被災者へ支援を届けられる団体となる』という決意を新たにしています。日赤は、ネパール赤のさらなる成長を支援するため、人材育成やロジスティック能力の強化も含む幅広い支援を行う予定です。
昨年2015年は、それぞれ国連総会、国連防災世界会議で採択された持続可能な開発目標(SDGs)や仙台防災枠組など、世界の人道問題に対する重要な決定が行われた一年でした。ワークショップでは、支援を通してこれら国際的な目標の達成を目指そうという意思が参加者の間で共有されました。
また、住民の意見を適切に活動に反映するため、ラジオ放送などを用いて住民に情報提供を行ったり、意見を投函できる掲示板を作製したりと、住民への説明責任の観点にも考慮していく予定です。
ネパール・コミュニティー防災事業の新たなスタートに今後もご注目ください!