インドネシアとネパールで「いのちを守る」新しい防災事業がスタート
日本赤十字社(以下、日赤)は、インドネシアとネパールで2012年から3年間、地域住民が主体となって活動する「コミュニティー防災事業」を実施してきました。この3年間は、住民にとって最も身近で、毎年のように被害をもたらしてきた洪水や土砂崩れなどに重点を置いて活動したことから、両国で住民の災害対応能力が向上し、実際に被害が減るといった結果をもたらしました。今年からは、より甚大な犠牲をもたらす地震や津波への対策も加えた事業として、新たに生まれ変わります。地震・津波・洪水など、共通する災害経験を持つ国の赤十字社として、お互いの知見と経験をいかし、より多くのいのちを守るべく、日赤とインドネシア赤十字社(以下、インドネシア赤)、ネパール赤十字社(以下、ネパール赤)の挑戦が始まります。
インドネシア 地震と津波から住民を守る「使命」
インドネシアでは、スマトラ島ベンクル州のベンクル市、カウル県、セルマ県の各3村で事業を開始します。事業開始の背景には、インドネシア赤の強い思いがありました。
インドネシア赤職員の胸に今も強く残っているのは、2004年のスマトラ島沖地震・津波災害の経験です。この災害は14カ国で約23万人の犠牲者をもたらし、その中で最大の被災地となったインドネシアでは、約17万人が犠牲になりました。インドネシア赤の多くの職員やボランティアが過酷な状況の中、救護活動に携わりました。
「地震と津波が発生する可能性が高い沿岸部での防災事業を、一刻も早く、より多くの地域で実施したい」この責任感が事業の推進力となっています。地震と津波に特化した防災事業はインドネシア赤にとっても初めての試みで、この経験を今後、他地域にもいかしていくことが期待されています。
地域行政と思いを一つに
事業の特徴の一つは、地元の行政関係者への啓発や防災計画づくりの支援など、地域行政との連携に重点を置いている点です。地震・津波に対する対策には、インフラ整備などのハード面の対策も欠かせないため、行政側の取り組みも重要です。また、今回対象となっていない地域など、より多くの住民に啓発を行うためには、地域行政と事業開始時から連携しておくことが大きな意味を持ちます。
連携を確かなものとするため、2016年4月には、地元行政の幹部と事業目的を共有する事業立ち上げワークショップを開催。参加したベンクル州の副知事は、次のように積極的な支援を約束しました。
「私たちは、インドネシアのアチェと日本の東北で起きた巨大地震と津波の経験から学ばなくてはなりません。災害時に正確な情報を収集し発信すること、適切な災害対応計画を準備することなど、行政としての能力を強化し、災害のインパクトを限りなくゼロに近づけたいと考えています」事業地の指導者と思いを一つにし、幸先の良いスタートを切りました。
頼もしい仲間、日赤現地職員
現在、事業を現地で支えるのは、日赤現地職員のアワルディーンさんとヤナさんです。インドネシア赤の職員を支えながら、事業の進捗を管理し、日本とインドネシアの橋渡しをしています。二人はともに2004年のスマトラ島沖地震・津波災害最大の被災地であるアチェ州の出身。その災害をきっかけに人道支援に関わり始め、防災事業には特別な思いがあります。
「赤十字での仕事は私の人生でもあります」と語るアワルディーンさん。「これまでの教訓と長年復興支援や防災事業に携わってきた経験をいかして、ベンクル州を地震や津波のリスクから守りたい」と強い思いをにじませています。
ネパール 大地震の経験を次につなげたい
ネパールでは、3年間事業を行ってきたチトワン郡、ウダヤプール郡、グルミー郡の3郡の中で、入念に調査を進めながら、新たな活動対象地域を選びました。約9000人の犠牲者を生んだ2015年4月の大地震の経験を踏まえて、地震への対策を柱の一つに掲げます。住宅の耐震補強や建築基準法についての啓発、地域の建築技術者への研修といった活動を行うべく、現地のNGO等と情報交換を行っています。
現在は新たに事業に関わる職員やボランティア、住民への研修を行っており、6月以降は地域の災害リスク調査を進め、具体的な活動計画を練っていきます。
ネパール赤担当者の想い
ネパール赤で事業を担当するのは、2012年からこの事業に携わってきたアンジャン・アチャルヤさん。今後に向けた決意を、次のように語ります。
「これまでの経験から、災害が発生した時、真っ先に人を助けることができるのは地域住民であると確信しています。この事業が地域住民とネパール赤の災害に対応する力を高められるよう、職員・ボランティア・住民が一丸となって取り組んでいきます」