都市に住む難民~時代とともに変わりゆく支援~
「難民」と聞くと広大な土地一面にテントが並ぶ難民キャンプを思い起こす方が多いのではないでしょうか。実際は、世界の難民のうちキャンプに住んでいる人は3割弱で、残りはキャンプ以外に住んでいます。では、キャンプ以外とはどのようなところを指し、キャンプの外で難民はどのような支援を必要としているのでしょうか。
「難民キャンプ」とは
「難民キャンプ」とは、難民が収容され、政府や人道機関から支援を受ける場所です。多くの場合、仕事や住居場所の選択、公共サービスを受ける権利や移動の自由などに制限があります。短期間での難民の大規模流入時などに、キャンプは素早く保護や人命にかかわる支援を可能にします。また、難民のニーズを把握し、細やかな対応を容易にします。しかし、長期的に負の影響を与えることも過去の経験から報告されています。キャンプでの生活は支援への依存を助長し、紛争などの辛い経験を乗り越えて自分自身の力で生活を取り戻すことを阻みます。また、何千人、何万人もの人びとを収容するキャンプを設置し維持管理するのには莫大な費用が必要です。国際社会からの支援をもとに電気や水のインフラ整備などをしても、難民がいなくなった後に地元のコミュニティに引き継がれ活用される保証はなく、その土地の開発計画や環境にも影響を与えます。
このようなことから、難民を受け入れる政府などを支援する国連は、難民キャンプの設置はできる限り避け、難民が保護され、支援を受けられるキャンプ以外の選択肢を模索することとしています。キャンプが必要と判断された場合でも、あくまで一時的な措置として設置しています。
キャンプ以外の選択肢とは
近年、難民の多くはキャンプ外の都市や町に住んでいます。避難先の文化や法律などにより異なりますが、賃貸アパートや、空き地や地主から借りた土地でテントを張り新たな住環境を整えます。キャンプと同様、都市部でも難民を待ち構えるのは過酷な生活です。そのため、彼らが地元のコミュニティの一員として生活できるような支援に取り組んでいます。キャンプと違い、地域に分散している難民の支援には、家庭訪問などの地道な活動が求められます。
最新技術を使って自由と尊厳を守る
キャンプの外に住む難民が最も必要としているものの一つが現金です。現在、シリアの隣国ヨルダンには65万人ものシリア人が住んでいます。政府が管理するキャンプはいくつかありますが、80%以上が首都アンマンなどの都市部に住んでいます。難民の就労が難しいヨルダンでは、家賃などの支払いのため借金を抱える家庭が増えているのです。
このような状況を受け、赤十字は2014年に母子家庭などを含む特に脆弱な難民に対して虹彩認証による現金給付を始めました。まず、地元の銀行の協力を得て、対象者の虹彩登録を行います。病気や怪我などの理由で登録できない場合は、従来利用していたATMカードが配布されますが、虹彩認証はカードの紛失や盗難による詐欺のリスクを避けることができます。また、現金の受け取り方法も簡単で、SNSで入金通知を受信後に銀行へ行き、カメラを見て瞳を読み取らせるだけです。登録者は毎月、世帯人数に応じて支給される75~180ヨルダンディナール(約10,500~25,000円)の預金を引き出すことができます。
赤十字はボランティアとともに、家庭訪問や電話相談などを通して、支援の評価調査も行います。受益者との対話を積極的に行うことで、支援の質および支援に対する満足度の向上につなげます。調査によると、受け取った現金のうち約5割を家賃に、約3割を食費に支出している世帯が多いという結果が出ています。また、調査の対象となった全ての人が現金給付は家計の助けになったと回答していますが、4分の3の人が決して十分ではないと感じています。
行列に並び、周りの人と同じ物資を与えられるのを待つのではなく、難民になる前のように自分の意思で日々の生活で必要なものを見極めお金の使い道を決めるのです。自分らしく生きることが、先が見えない中でも苦難を乗り越える一助となります。更に、現金給付は地元経済の活性化にもつながるという利点もあります。人びとの尊厳と自由を保つために重要な役割を担っているこの現金給付事業は日本政府からも150,000米ドル(約1,500万円)の支援を受けています。
分け隔てなく支援を続ける赤十字
解決への糸口が未だ見つからないシリア紛争。赤十字は、難民と受け入れコミュニティ両者にとっての最善策を模索し続けます。引き続きみなさまの温かいご支援をお願い致します。