ネパール:住民の知識こそが防災のカギ~事業開始6か月レポート~
日本赤十字社(以下、日赤)は、ネパール赤十字社(以下、ネパール赤)とともに、ネパールの3つの郡(ウダヤプール郡、グルミー郡、チトワン郡)で、住民が主体となって取り組む防災事業を2012年から実施しています。地震や洪水、土砂崩れなどの自然災害や、衛生環境から引き起こされる健康課題などに対して、地域に暮らす人々が事前に備え、緊急時には自分たちで対応し、立ち上がっていける力をつけることを目標としています。2016年4月からは、同じ郡の中でもまだ支援が届いていなかった地域で、フェーズ2として4年間の事業を開始しました。
事業の財源となるのは、12月にNHKと共同で実施する海外たすけあいキャンペーンや、本社や各都道府県の支部にお寄せいただいている活動資金です。日本の皆さまからのご支援がどのようなかたちで海外に届いているのか、現地での活動と人々の声を、今回モニタリングに参加した千葉県支部の飛田好美より報告します。
支援の現場を訪れて
私は普段、千葉県支部で県民の皆さまに赤十字活動をご理解いただき、活動資金へのご協力をお願いする部署で働いています。千葉県支部では、お寄せいただいた活動資金の一部で、ネパールの防災事業の支援をしています。事業の進捗や成果を確認するため、ネパールを訪れました。
訪問したのはチトワン郡ダレチョークのトックダンという村です。トックダン村は、チトワン郡の北端の山間部に位置し、グルン族の人々が暮らしています。48世帯の小さな村で、ほとんどの村人が農業に携わり、オレンジや野菜を栽培しています。歌や踊りを生活のさまざまな行事で取り入れる明るい民族で、私たちを得意のダンスで歓迎してくれました。
地域の持つ「強み」と「弱み」を引き出す
村では、事業の最も重要な段階と言える、住民自身が地域のリスクをさまざまな手法を用いて発見していく活動を視察しました。
この活動は、赤十字が行う住民主体の活動において主流となっている「脆弱性と能力アセスメント(Vulnerability and Capacity Assessment )」という手法を用いて行われます。リスクだけでなく、それに対応できる地域の強みや資源についても洗い出すことで、地域の力をいかした活動につなげていくという点が特徴です。
まず行ったのは、村の地図作り。どこに家や学校、地域の施設があり、どんな人が住んでいるのか、障がいがあるなど避難が難しい人はいるのか、川や道路がどこにあり災害リスクが高いのはどこか、意見を出し合いながら、項目ごとに色分けされたチョークを使って地面に描いていきます。気候変動の影響などで、これまでと今後の災害リスクが同じとは限らないため、30年前と現在の2つの地図を描いて比較することで、災害の変化についても分析します。
日本であれば自分の住んでいる街の地図を描くことも難しいのではないかと思いますが、ここでは誰もがスラスラと描けてしまう。地域のリスクも持ち合わせている資源も、村のことは村の人が一番よく知っている。その知見を活用するのがこの事業のカギであることを実感しました。
他にも、過去に発生した災害や季節ごとのリスクを洗い出したり、地域のリスクの順位付けを行ったり、リスクの原因や結果を分析したり。合計11の手法を使って村の「強み」と「弱み」を洗い出しました。活動を通じて、地震への備えと対応や水資源の確保が最大の課題であることが明らかになりました。
住民による住民のための活動
活動に参加したナニ・マヤ・グルンさんは、「今日の経験は新しいことばかり。村の課題に取り組んでいきたいです」と、6カ月になるソスティカちゃんを抱きあげながら話してくれました。
活動の結果は、一旦ネパール赤のスタッフやボランティアにより集約・分析され、それを基に住民が村の優先事項に沿って具体的な活動計画を練っていきます。こうしてできた活動計画は、地域行政にも共有され、赤十字の資源だけでは解決できない課題は行政と連携して対応するなど、村の防災対策の全体的な方針となっていくことも、この活動の大きな意義です。
視察を通して、たくさんの住民の方々の笑顔に出会いました。新しく生まれた命が守られ、お年寄りが健康に暮らせる、そんな安心して暮らせる地域になるように。これからも、日本の皆さんのあたたかい支援を世界の人々へつなげるという役割を果たしていきたいです。