知恵と工夫で生計の建て直しを~セブ北部復興支援~

年間20件近い台風の影響を受けるフィリピンですが、今年はフィリピン北端にあたるルソン島に三つの台風が上陸し(2016年10月末現在)、農作物に甚大な被害をもたらしました。今回は、近年フィリピンを襲った台風でも最大勢力の、スーパー台風「ハイエン」(フィリピン名ヨランダ、2013年11月発災)による被害から生計の建て直しに奮闘する人びとについて報告します。
日本赤十字社はフィリピン赤十字社とともにセブ北部で、住居支援と保健改善などを含めた包括的な復興支援をしています。
1万ペソ(約22000円)の現金支給による生計再建支援もその一つで、前回は養豚に挑戦した人たちをご紹介しました。現金支給を受けた世帯742世帯のうち55%が養豚を選びましたが、今回は、その他の生業を選んだ世帯を紹介します。

ジョエルさんたち

並んで作業するジョエルさんたち

貝細工職人 ジョエルさん

ジョエル・ピノさんは貝細工を作って卸す、職人兼工房経営者です。台風のためにピノさんの自宅はつぶれましたが、重い研磨機はがれきの下から無傷で出てきました。おかげで台風の後もすぐに仕事を再開できました。

赤十字からの支援金1万ペソのうち、最初の6000ペソで中古の研磨機2台を購入、2度目の4000ペソはさらに5台の頭金にしました。彼の商売は順調に売り上げを伸ばし、今は近所の人を職人として雇い、9人が出来高制で

貝細工

貝細工―大きな巻貝を研磨してツヤを出した置物や、美しい模様を活かしたブレスレット、ネックレスが人気。

働いています。売り上げは観光シーズンに直結しているので、1月から4月は収入は少なくなりますが、ハイ・シーズンの5月から8月になると、売り上げは被災前の倍の28000ペソになる月もあります。

今では自分の家族を養うだけではなく、9家族の収入に貢献する起業家になっています。

サリサリ・ショップ エルビラさん

台風により、自宅の屋根が完全に飛ばされてしまったエルビラ・フォルティスエラさんは、サリサリ・ショップ*を営んでいます。被災前の売り上げは、生活を支える収入にはなりませんでした。セブ市内に働きに出ている娘の子ども(孫)を預かり、その養育費として受け取る1000ペソが主な収入でした。

米やコーンライス(トウモロコシを砕いたもの。白米の代用食)は、誰もが毎日食べるものなので安定した収入源になるとはわかっていても、一袋50kgが2000ペソ、1200ペソもするため、今まで高くて仕入れることができませんでした。被災後、赤十字の支援金で思い切って購入し、小売りを始めました。

帳簿を付けていないので、いくら儲かっているかはわかりませんが、今は好きなものを食べられるようになったのは事実です。

エルビラさんは上手に収入を増やしていることがわかりましたが、赤十字の支援を受けて店を再開した全てのサリサリ・ショップがうまくいっているわけではありません。支援開始後6カ月目に訪ねた前回より、明らかに商品数が減っている店も2軒ありました。残念ながら、現金支援は一時的な助けにしかならなかったところもあるようです。

*サリサリ・ショップ・・・自宅の一角や小さな小屋を店舗として、駄菓子や日用品を売る売店。「サリサリ」はタガログ語で様々な種類のものを指す。客は窓口で注文し、店の中には入らない。エルビラさんは自宅傍の小さな小屋を店にしている。

三輪タクシー ディブシオさん

もともとは建設労働者だったディブシオ・アラビスさんは、妻と成人した3人の子どもと暮らしています。赤十字の支援金に自己資金を足して、中古のサイドカー(客が乗る部分)を13,000ペソで買いました。さらに、真新しいオートバイも3年ローンで買い、タクシー業を始めました。

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新しいトライシクルとディブシオさん父娘

ディブシオさんの住む地域は、人通りもあまりない田舎なので、通常はお客さんは多くありません。一日の売り上げは200ペソぐらいです。特に、学校が休みの4,5月は通学の足として使う生徒からの収入もなくなり、さらに少なくなります。

毎月のローン3800ペソの支払いも、とても厳しいです。しかし、たいていの人がしているように、トライシクルを借りてリース料を払い続けて商売をするより、同じ厳しい支払いでも、ローンであれば返済後にはトライシクルが手元に残ります。奥さんは近所の人の洗濯をしてわずかな手間賃を稼ぎ家計を支えています。あと2年、ローンを払い終える日を楽しみに、家族で歯を食いしばって頑張っています。ディブシオさん一家がローンを完済できる日を、内心心配しながら心待ちにしています。

聞き取りをした25世帯の被災前の平均収入は約3000ペソ。支援開始後15カ月の平均は約4200ペソで、ほとんどの世帯の収入は確実に増えています。多くの人が「好きなものを食べられるようになった」「子どもに運動靴を買えるようになった」と、嬉しそうです。

わたしたち日本赤十字社から支援を受けた被災者の皆さんは、着実に生活を向上させていることを、寄付者の皆さまにご報告します。

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