ヨルダン: シリア紛争から8年目を迎えて
~ヨルダンで続く地域住民による保健事業~
ヨルダンでは、2011年のシリア危機以降、65万人以上のシリア人難民を受け入れています。ヨルダンにおける難民は、キャンプで生活している人は20%程度で、多くは都市部や郊外で避難生活を送っています(2017年12月時点)。ヨルダンは、元々歴史的背景からパレスチナ難民も多くおり、難民の受け入れには寛容でした。しかし、シリア危機以降、難民のあまりの多さに対応しきれず、政府は無料で受けられていた医療サービスも打ち切り、確かな収入もない彼らは、十分な医療を受けることが難しくなりました。また、ヨルダン国内でも、難民受け入れによる物価や家賃の高騰などの影響を受け、貧困の拡大が問題になっています。日本赤十字社から国際赤十字・赤新月社連盟(連盟)へ出向し、この度帰国しました藤原真由看護師(大阪赤十字病院)が「地域住民参加型保健事業(CBHFA)」の様子を報告します。
ヨルダンでの赤十字の活動
ヨルダン赤新月社は2014年より、連盟の支援を受けながら都市部に住むシリア人難民と、貧困に苦しむヨルダン人を対象に地域住民参加型保健事業(CBHFA:Community Based Health and First Aid)事業を実施しています。この事業は、対象地域のシリア人・ヨルダン人の中から地域ボランティアを育成し、家庭訪問や健康キャンペーンを通して、住民に健康に関する情報や疾病予防についての知識の普及を行うことで、地域の健康状態向上を目的としています。ヨルダン赤新月社では2017年1月から12月の一年間で100人のボランティアが35,632人の受益者に対して健康に関する啓発活動を行いました。
難民に寄り添う支援を目指して
現在、ヨルダンで一番の問題は生活習慣病です。そのため、偏った食習慣、喫煙習慣に対して、改善の必要性や方法、生活指導など疾患対する予防行動を中心にボランティアが地域住民に指導しています。行動変容には時間を要しますが、こつこつと草の根的に活動することが、対象地域の健康改善につながることを信じ活動しています。
予防行動の指導が中心である一方、すでに病気にまで進んでいると思われる方に対して、必要な支援先を紹介する取り組みも徐々に増えています。活動中、ボランティアは様々な理由で健康問題の解決が困難な人たちに直面します。中には病院に行く必要を理解しているにもかかわらず、金銭的な問題や情報不足によりどこに行けばよいのかわからず、受診できない方もたくさんいます。そんな時、ボランティアたちは必要な情報提供を行ったり、ヨルダン赤新月社や私たち連盟を通して可能な医療機関へ繋げることも行っています。
実際にボランティアが出会った事例では、心臓の手術が必要な新生児の祖母から「母親は難民キャンプにおり、子どもの医療費が捻出できず手術ができない」という情報を得ることがありました。そこで、ボランティアはヨルダン赤新月社や連盟に相談し、最終的にはUNHCRへ繋げ、その子どもは必要な医療を受けられることができました。また、他の事例では、ボランティアが水を異常に多く飲む子どもに違和感を覚え、病院への受診を進めたところ、小児糖尿病が発見されるということもありました。
このように、ボランティアの活動は、疾患予防や衛生教育だけでなく、難民の方やヨルダン人の方々にとっては必要な医療や支援を受けるための窓口にもなっています。また、この事業が2014年から続いていることで、ヨルダン赤新月社やボランティアの活動の質は着実に向上し、地域の健康に非常に貢献しているといえます。
中東人道危機救援金を受け付けています
長期化するシリア危機は、今なおシリア難民やヨルダン人に苦しい生活を強いており、元通りの平穏な生活を取り戻すには時間がかかります。赤十字は、今まで築き上げたボランティアの知識・技術、ボランティアと地域住民の関係性をこれからも生かして、地域の皆様が安心して生活を送ることが出来るように、引き続き支援を行っていきたいと思います。日本赤十字社では、現在、中東人道危機救援金を受け付けています。ヨルダン赤新月社と国際赤十字・赤新月社連盟の活動にさらなるご理解・ご支援をお願いいたします。