ナイジェリアとICRCの活動
アフリカ西部に位置するナイジェリアは、1億8599万人(2016年、世界銀行)とアフリカ大陸で最大の人口を誇る大国であり、石油産業を中心に発展してきた地域の経済大国でもあります。高層ビルが立ち並ぶ商都ラゴスはアフリカ大陸でも最大の都市と言われています。一方で北東部を中心とした武力紛争、中心部のミドルベルトと呼ばれる地帯での農民と遊牧民との衝突、南部デルタ地域での共同体間の衝突や暴力といった困難も抱えています。特に、北東部、チャド湖周辺地域では、200万人以上が武力紛争により住む場所を追われ、食料や水、住居といった生活に必要なものに事欠き苦しんでいます。中には紛争から逃れる途中に家族と離れ離れになり連絡が取れなくなってしまったという人々もいます。同時に、他の地域に逃れていた人たちが自分の地域に戻った時に、家が破壊されていたり生活手段がなかったりして、すぐに元の生活に戻ることができないという状況もあります。
今回は、現在赤十字国際委員会(以下ICRC)ナイジェリア・アブジャ事務所に出向している芳原みなみ職員からの現地報告です。
ICRCは、ナイジェリア赤十字社とともに武力紛争や暴力によって苦しんでいる人々に対し、生活に必要な物資の供給や医療支援、離れ離れになった家族の再会支援といった活動を行っています。また、タイミングを見計らって、物資の供給といった緊急支援から、人々が自身の力で生活していけるような支援の方法に切り替えたりしています。また、中立的な仲介者として紛争当事者の要請に基づき、昨年5月には「チボック少女」、今年2月には武装グループに捕らわれていた13人の女性警察官や大学教授の引き渡しの手助けも行いました(注)。
(注)ナイジェリア生徒拉致事件は、2014年4月の14日夜から翌15日にかけてボルノ州の公立中高一貫女子学校から276名の女子生徒が拉致された事件。どちらもICRCは交渉には関わらず、武装グループからの引き渡しを受け、ナイジェリア政府に移送する役割を負いました。
紛争によって捕らわれた人の命と尊厳を守る
紛争によって自らの意思とは関わらず、失踪したり捕らわれたりする人々がいます。ICRCは人道的な観点から、政府との合意のもと、国内の収容施設を訪問する活動を行っています。2017年には、ナイジェリア国内の施設に収容されているおよそ29,000人がICRCの訪問を受けました。
私は収容所訪問要員として首都アブジャを拠点に、国内の軍施設、刑務所、警察署を訪問し、紛争に関連して捕らわれた人々や女性や子ども、高齢者や病人といった弱い立場にいる人々の保護を行うとともに、収容されている人々が人道的な待遇を受けているか、生活環境はどうかといった調査を行い、関係当局が国際基準、国内法を順守し責任を果たすための支援をしています。収容所訪問チームは中立性を保つため、原則的に外国人スタッフから成り立っており、現地語の通訳者、医療職、栄養管理担当、水・衛生・施設関係の技術者などの専門家と一緒に働いています。収容所訪問を行う中で、懸念材料や問題点が見つかった場合には、どうしたら状況を改善していけるかをチームの専門家とも相談しながら、関係当局との対話を通して探っていきます。まずは関係当局に対して提言を行い改善を働きかけ、必要に応じて衛生用品の配付や施設の改修といった支援を行います。時には他部署とも協力をし、警察官や刑務官、軍関係者向けに研修を行ったりもします。
ICRCの原則として、「収容所内で見たこと、聞いたことは外では話さない。」というのがあります。関係当局や被拘束者との信頼関係に基づき、状況の改善を促していくために大事な原則の一つです。
一人の人として相手に向き合う
あるとき、元被拘束者がICRCの事務所を訪れてくれました。その方は、「収容所の中で落ち込んでいるときでも、ICRCが訪問してくれたら元気になれた。状況が少しずつ良くなっていったのが忘れられない。」と感謝の言葉を伝えてくれました。
収容されている人にとっては、時にICRCが唯一の外の世界との窓口となることがあります。
被拘束者も、関係当局の人たちも、皆一人の人間です。大切な家族があり、将来があり、困難に直面しています。収容所を訪問する際心がけていることがあります。それは、先入観を持たず、一人の人として相手を尊重し、一人の人として向き合うことです。私にできることは限られているかもしれませんが、できることがある限り真摯に向き合い、紛争で苦しんでいる人の苦痛を少しでも軽減できるよう活動していきます。