H.E.L.P. in JAPAN ~大規模人口移動に備えて~
家を追われて、集団での生活へ
近年、紛争や迫害を逃れ、家を追われる人々の数は増加の一途をたどっています。国連難民高等弁務官(UNHCR)のグローバル・トレンズ・レポート(年間統計報告書)によると、2016 年末時点で移動を強いられた人の数は6560万人にも上ると報告されており、これらの人々の多くは、難民キャンプをはじめ、密集した地域での集団生活を余儀なくされています。
バングラデシュ南部のコックスバザールにおいても、今日に至るまで69万3000人(4月23日現在)の人々がミャンマーから避難してきています。ピーク時には一日数万人が陸路や海路でミャンマーから逃れ、世界で最も速いペースで拡大した人道危機となっています。
バングラデシュ南部避難民事業(※)に従事していた清水宏子看護師(名古屋第二赤十字病院)は、「一番印象に残っているのは水です。人口が密集する難民キャンプにおいては、トイレ・下水の整っていない場所も未だ多く、低い地域にいる避難民は淀んだ水のすぐ隣で生活することを余儀なくされています。これから雨季に入るとますます下痢疾患の患者が増えることが懸念されます」と語っていました。
紛争や災害によって大規模な人口移動が発生する事案が増加している近年、集団や過密人口ならではの健康リスクへの対応を理解し、困難な状況下において必要な判断能力を持ちあわせた人材を育成することが重要になってきます。日本赤十字社は2003年以来、このような大規模人口移動における健康リスクに対応できる人材を育成することを目標に、日本赤十字九州国際看護大学と共にH.E.L.P. (Health Emergencies in Large Populations)in JAPANを開催してきました。
※国際赤十字では、政治的・民族的背景および避難されている方々の多様性に配慮し、『ロヒンギャ』という表現を使用しないこととしています。
国際人道支援を担うリーダーの育成
Health Emergencies in Large Populations (H.E.L.P.) in JAPANと呼ばれるこの研修は、問題解決の意思決定に必要な知識や公衆衛生の基礎知識、そして紛争及び大規模自然災害被災地で救援活動にあたる際の倫理的行動規範の習得を目的としています。
研修は2週間にわたり英語で実施され、参加者は、緊急時の人道的介入、特に初期計画に必要な環境衛生管理の視点や初期評価に役立つ疫学的手法、感染症、緊急時の食糧と栄養、保健システムなど基盤となる知識を習得します。また、赤十字国際委員会(以下「ICRC」)や日赤の救援活動の経験に基づく演習に取り組みます。最後に、人道的介入の基盤となる国際人道法の要点を学び、医療従事者の責任、人権と健康問題等、事例を通じて理解を深めていきます。
これまで7回のH.E.L.P. in JAPANを通じて、述べ25か国157名が同研修を修了し、各国の現場で活躍しています。バングラデシュ南部避難民事業にも過去の研修参加者の内17名が派遣され、まさにH.E.L.P.の現場で引き続き活躍し続けています。
清水看護師もH.E.L.P. in JAPANを修了した一人。「感染症の原因である水衛生について学んだ知識や、下痢疾患の患者のマッピングの演習など、H.E.L.P. in JAPANでの学びを今回の派遣で実践に移しました」と、研修での経験を振り返っていました。
本年9月にも、日本赤十字九州国際看護大学とICRCとの企画のもと、第8回のH.E.L.P. in JAPANの開催が予定されています。日本赤十字社は、本研修を通じて、救援現場の複雑な健康リスクに対応できるリーダーの育成を進めていきます。
第8回H.E.L.P. in JAPANの詳細及び応募はこちらから:
https://www.jrckicn.ac.jp/international/international10/