レバノン:テント暮らしが続くシリア難民に尊厳を
日本赤十字社は、レバノン赤十字社と共に、レバノンに避難しているシリア難民を対象とした給水衛生支援事業を2014年から実施しています。隣国シリアでの紛争が始まってから100万人を超えるシリア難民がレバノンへ流入し、実にレバノンの人口の4人に1人は難民と言われています。レバノンは逃れてくる人々の受け入れに寛容ではあるものの、国連の難民条約に非加盟であることから、難民としての権利が限られており、紛争の始まりから7年が経過した現在も、シリア難民の多くは各地に点在し「非公認居住地」と呼ばれるキャンプでテントでの避難生活を続けています。
衛生知識の向上と衛生環境の改善を目指す
4月下旬、レバノンで活動する大阪赤十字病院の李 壽陽(り すやん)事務管理要員が日本赤十字社が支援するキャンプの一つを訪問しました。レバノン北部アカー地域にあるこのキャンプは、シリアとの国境からたった100mほどのところに位置します。
このキャンプには96世帯、約700人がテントで生活しており、この支援事業では、各世帯にトイレと水タンクなどの給水設備を提供しています。また、キャンプに暮らす人々のニーズに基づく衛生促進活動も併せて実施しています。要望が多く、優先度の高い「害虫駆除」や「ごみ処理と管理」などをテーマにしてレバノン赤十字社のボランティアが定期的に話をします。キャンプでは十分な教育を受けられないため、女性による女性のための健康・衛生活動が行われることもあります。生理をテーマにした回では、生理ナプキンや下着、夜間トイレに行く際の懐中電灯なども配布しています。十分な収入がない家庭にとって、このような支援も大変喜ばれます。これらの活動を通して、キャンプに暮らすシリア難民の衛生関連知識の向上と、キャンプの衛生環境の改善を目指しているのです。
何年にも及ぶテント暮らし
レバノン赤十字社の職員によると、レバノン国内のシリア難民を給水衛生面で支援する団体は他にもあるものの、数世帯に対して一つのトイレと給水設備を提供するのが主流です。「多くのシリア難民のテントでの暮らしが7年にも及んでいる事実についてよく考えてほしい。シリア難民の、人としての尊厳や、居住環境の衛生・安全面などが配慮されるべきだと我々は考えている」と、トイレと給水設備を各世帯に設置することの意義を力強く語っています。
このキャンプに住む人々は、夏の暑さと冬の寒さが非常に厳しいと異口同音に話します。李要員がキャンプを訪れたのは、見渡す限り青空の広がる春の暖かい日でしたが、テントや外に干していた洗濯物は強風にあおられ、砂埃が舞っていました。「このテントで猛暑と厳冬を乗り越え7年間・・・」とその困難さを想像すると、実際にここで何年も過ごすシリア難民の方々になんと声をかけ、どのような問いかけをすればよいのか悩み、うまく言葉がでてきません。同時に、そのような生活環境下にありながらも人懐っこくアラビア語で話しかけてくる子どもたちがとても印象的で、たくましく感じられました」と李要員は話します。
長年にわたり地域を支え続けるボランティア
このアカー地域で活動を続けるレバノン赤十字社のボランティアは、「ここはシリア国境に近く、安全上、他団体の支援が届かない。近隣地域出身のレバノン赤十字社のボランティアだからこそ、この地域に足を運ぶことができる」と話してくれました。レバノン赤十字社は、そのような支援が届きづらい地域での活動を強化しています。
また、冬には国境付近を流れる川が雨で増水し、キャンプの浸水が年に1、2度はあるといいます。その際にはキャンプに暮らす人々からレバノン赤十字社のボランティアにすぐに連絡が入り、ボランティアが現地被害状況の調査やシリア難民の避難誘導などを担います。「自分自身の生活を営むために仕事を持つ傍ら、18年間にわたりこの地域でレバノン赤十字社の活動を続けるボランティアもいることに驚きました」と李要員。
地域をよく知るレバノン赤十字社のボランティアが言うのは、「昔から、アカー地域は支援を必要とするレバノン人が多い。そのような地域にシリア難民が流入し、7年が経過したのが現状だ。レバノン赤十字社は、シリア難民へ支援を提供すると同時に、この地域の支援を必要とするレバノン人にも支援をしている」
李要員は、「国を追われた難民だけではなく、彼らを受け入れている地域にも目をむけることが大切です。日頃から地域に密着して活動をしているレバノン赤十字社だからこそ、国籍や社会的な立場に関係なく、地域で支援を必要としている人を見極め、届けることができます。彼らが少しでも人間らしく暮らせるよう、支援にご協力をお願いします」と訴えます。