バングラデシュ:避難民ボランティアと共に
日本赤十字社がバングラデシュの避難民キャンプ(※)で運営する診療所はアクセスが良く、これまで病院に行くことさえ難しかった避難民にとって、とても大切な役割を果たしています。一日150人前後の患者が診療所を訪れています。主な疾患は発熱、倦怠感、下痢、皮膚疾患、急性呼吸器疾患などです。
また、診療所周辺のキャンプでは地域保健活動も行っています。キャンプの住人の中から保健ボランティアをトレーニングし、近隣の家庭を訪問し、健康教育を行っています。対象地域は、2つのキャンプを合わせ25,805世帯/ 113,023人です。
今回は、亀岡美沙看護師(横浜市立みなと赤十字病院)が地域保健活動を通じて実感したボランティアの成長する姿を紹介します。
※国際赤十字では、政治的・民族的背景および避難されている方々の多様性に配慮し、『ロヒンギャ』という表現を使用しないこととしています。
ボランティア自らによるハザードマップ作り
保健活動では、家庭を訪問して健康教育を行うだけでなく、保健ボランティア自身が防災、減災に貢献する役割を担っていけるように、定期的にハザードマップ作りを行っています。これは、サイクロンをはじめとする自然災害が多いバングラデシュにおいて、そうした災害や危機に対して事前にリスクを把握、軽減し、災害が発生しても適切に対処できる能力の強化を目指しています。具体的には、まず自分の住んでいる地域の地図を描いてもらい、地域の資源(水、トイレ、シャワー、橋、モスク、学校等)を可視化、その後、災害時のリスク(土砂崩れ、水害、橋の崩落等)の把握、災害弱者について考えるというものです。
保健ボランティア達にとって、ハザードマッピングを行うことは初めての体験でした。地図を描くことも生まれて初めてなので、いきなりペンを持っても「何をどう描けばよいのか?」と、ペンが進みません。そこで、実際に地図を描く前に、自分たちの地域にどんな建物や資源があるのか話し合い、その後、地図を描くように工夫しました。
ボランティアの成長
話し合いや地図を描く場面で中心になるのはいつも男性で、女性は一歩引いて見ていることが多く、意見を述べることにためらう様子がありました。私は女性の意見も引き出せたらと思っていました。すると、ハザードマップ作りの回数を重ねていくうちに、女性ボランティア達に少しずつ変化が見られ始め、意見を出してくれるようになっていきました。
印象的だったのは、リスクの話し合いの場面で、男性が「地理的に低いから、水が流れて来てしまうので、汚水が溜まりやすい。また土砂崩れの危険がある」や、「橋が崩落した場合の避難経路を考えたほうがよい。その場合はこの道が近道だ」などハード面に特化した事を話すことが多いのに対し、女性は「ここの家には足の悪いおばあちゃんが居るから、避難の時には助けが必要」や、「この家には妊婦が居て、抱っこしなきゃいけない上の子供も何人も居るから大変」など、ソフト面に対しての情報を沢山持っていたことです。男性と女性で視点が異なり、回数を重ねることにより有意義なハザードマップ作りが行えるようになっていきました。
ある日、ハザードマップ作りのためにボランティアの自宅を訪問すると、既に地図は出来上がっていました。私が驚いていると、「いつも地図を描くのに時間がかかってしまうから。リスクの話合いを沢山したほうがいいと思ってね。だから昨日近くの学校に行って、話をしたら紙をくれたよ。でも小さかったから、テープで貼って大きくして、地図は描いておいたよ。リスクの話合いを始めよう」と笑顔で言ってくれました。ボランティア達の成長を感じ、地域に根差した保健事業の役割はとても大きいと改めて実感しました。