アジア大洋州地域:給水・衛生分野における災害対応能力の強化 ~被災者に迅速に安全な水と衛生環境を届ける~
世界中で起こる自然災害のうち4割以上がアジア大洋州地域に集中しているといわれています(2017年災害報告、CRED:災害疫学研究所)。災害時に被災者の人びとにとって不可欠な支援の一つが、安全な飲み水や生活用水の確保と清潔な簡易トイレの設置など衛生環境の整備です。日本赤十字社(以下、日赤)は、国際赤十字・赤新月社連盟(以下、国際赤十字)と協働し、2011年度から、災害多発国であるアジア大洋州地域の各国赤十字社に「給水・衛生災害対応キット」を配備し、災害時の給水・衛生分野の緊急対応能力を強化する活動に取り組んでいます。
災害多発国にあらかじめ整備された「給水•衛生災害対応キット」
災害時に効果的に給水や衛生活動を展開できるように国際赤十字によって開発された「給水・衛生災害対応キット」には、浄水ユニットやタンク、浄水剤、水質検査キット、簡易トイレ設置用資材、衛生教育用の文具などが含まれています。被災者規模に合わせいくつかの種類がありますが、最近では、災害時の移動や展開が容易である利点から、より小型の災害対応キット(1時間あたり700リットルの浄水が可能)が多く配備されています。
災害時の国際的な救援活動のツールとしてはERU(災害対応ユニット)が挙げられますが、ERUと給水・衛生災害対応キットの大きな違いは、キットが予め災害多発国またはその周辺地域に整備され、災害発生時にはその国の赤十字社のスタッフ・ボランティアにより展開される点にあります。そのため、キットを災害発生の傾向や頻度を踏まえて戦略的に配備するとともに、それを活用した救援活動を行うための現地スタッフやボランティアの研修と人材育成が重要になっています。
2011年度以降、ネパール、バングラデシュ、インド、ベトナム、東ティモール、カンボジア、ラオス、大洋州地域のサモアやフィジーなどに配備を行っています。
ラオスとカンボジアの洪水緊急救援での活用
2018年7月23日、ラオス南部のアタプー県において大雨に伴い建設中だった水力発電用ダムが決壊。この事故により、同県サナムサイ郡の6つの村が濁流に飲まれ、死者30名以上、行方不明100名程度、被災者1万3,000人以上と大きな被害をもたらしました。ラオスでのダム決壊の影響は下流に位置する隣国カンボジアにも及び、ラオスと国境を接するカンボジア北部ストゥントレン州の村々でも洪水が発生し、大勢の人が避難を余儀なくされました。
ラオス赤十字社は、ダム決壊による洪水被災者救援のため、同国内にすでに配備されていた給水・衛生災害対応キット2基を現地で展開。円滑な活動実施のため、前年に研修・訓練を受けた同赤十字社のスタッフやボランティアも現地へ派遣しました。7月27日にはアタプー県に浄水ユニット2基を設置し、被災者3,750人に対して、一日あたり約1万5,000リットルの水を供給しました。ラオスではその後も雨季の影響で洪水が各地で発生し、ラオス赤十字社は被災者への救援活動の一環として給水・衛生活動を実施。2018年だけで給水・衛生災害対応キットを4回発動し、全体で被災者1万3,500人に対して合計18万5,000リットル以上の水を供給しました。被災者からは、安全な飲み水を迅速に支援したラオス赤十字社への感謝とともに、簡易トイレの設置や衛生促進のための活動も避難生活に大変役立ったとの声が聞かれました。
一方、カンボジアでは、洪水の発生したストゥントレン州の隣のコンポントム州に配備されていた給水・衛生災害対応キット2基をカンボジア赤十字社が被災地に展開し、10日間の救援活動の期間中、被災者2,100人以上に対して、1万4,500リットル以上の水を供給しました。浄水ユニットの設置や操作、維持管理には、事前に災害時給水・衛生活動の基礎研修と応用研修を修了していた同赤十字社コンポントム支部の緊急救援チームのメンバーたちが取り組みました。現場に派遣されたスタッフは救援活動を振り返り、研修で学んだ知識や技術を今回の活動に十分に活かすことができたと話しています。
災害多発国の日本からアジア大洋州地域各国へ広がる支援
災害多発国にあらかじめ整備されている「給水・衛生災害対応キット」により、給水・衛生分野での迅速な救援活動が可能になっています。現在は、キット整備や現地の人材育成に加え、各国赤十字社における給水・衛生分野を含んだ災害対応計画の策定なども支援しています。日赤は、今後もアジア大洋州地域各国の災害対応能力の強化を積極的に支援していきます。引き続き皆様のご支援をよろしくお願いいたします。