フィリピン:北セブにおける住民参加型保健衛生普及事業

2013年11月にフィリピンを襲った巨大台風ハイエンは、8000人近くの死者・行方不明者を出し、1600万人が被災しました。日本赤十字社はフィリピン赤十字社のパートナーとしてセブ島北部で緊急援助を展開しました。それに続く復興支援も同地域で受け持つこととなり、2014年4月から2017年3月までの3年間、住宅再建、生計支援、防災教育、保健衛生普及を含む包括的な復興支援を5つの村で行いました。その後も同地域において、特に保健衛生状況の改善が必要とされた3つの郡から15村を選び、保健衛生の普及活動を行いました。今回はこの活動を報告します。

普及事業を行った地域について

Ceb_Map60.png 上段地図の枠:セブ島の事業地域、下段地図:枠内を拡大

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まず、フィリピン赤十字の活動の特徴を紹介します。赤十字143(通称RC143)というボランティア・グループを各バランガイに設立します。バランガイとは、行政の最小単位で、田舎の方では村、都会では町内会のサイズのものです。災害で孤立した場合、外からの援助が来るまでの間、自助救済できるようにすることが目標です。一人のリーダーと43人のボランティアで構成され、防災、保健、コミュニケーション、ロジスティックスなどのグループに分かれます。

日赤はフィリピン赤十字社を通して、離島の村7つを含む、生活の不便さに比例して保健衛生状況が良くないコミュニティーを支援していきました。いくつか例を紹介します。

  • セブ本島のダーンバンタヤン郡:自宅、共同を問わずトイレのない世帯は22%
  • 離島の多いサンタフェ郡:トイレのない世帯は34%
  • 山がちの地域メデリン郡:保健所の指導が届きにくいところでは、子供の数が多く、大家族世帯5人以上が84%(5-10人58%、11-15人26%)。対して、保健所の指導が届きやすい地域では小家族世帯(1-5人)が62%と、同じ地方でもばらつきがあります。

日赤の支援内容

DSC00830.JPG CHVの活動の様子

DSC01029.JPG 子供たちへの保健衛生研修

日赤が支援した保健衛生普及活動も、上記のRC143の中の保健・衛生部門として機能します。担当地域の人口比に応じ、コミュニティー・ヘルス・ボランティア(CHV)を選び研修をします。

CHVの主な活動はその地域におけるもっとも多い疾病を3つ選び、それに対する予防と家庭でできる対処の仕方を住民に伝えることです。予防注射接種、1-5歳の体重測定、生活保護金を受け取りに来るなど、住民が集まる時に普及活動をしたり、戸別訪問をして伝えます。3市で共通に多い疾病は1位は急性呼吸器感染症、2位は高血圧、3位は市により違い、糖尿病、下痢、皮膚感染症に分かれました。

もう一つ大切な活動は小学校での保健教育です。4-6年生からリーダーを選び、この子たちに保健衛生研修をします。そしてこのリーダーがほかの生徒たちに研修で学んだことを教えます。教育省でも学校での公衆衛生に力を入れ始めているので、赤十字による、このような活動は先生方にも歓迎されています。衛生教育の経験のない学校には、赤十字の活動を教育省のカリキュラムとして取り入れるところも出てきています。

これまでの成果

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ベースライン調査とは事業実施前の調査、エンドライン調査とは事業終了時の調査をいいます。上図の調査結果のように、活動の結果、手洗いには石鹸を使うと答える人が30ポイント増え、浅井戸の水は煮沸などをして飲むようになった人が30ポイント増えました。

また、CHVは学年が始まるときに各学校が行う校内清掃、世界手洗いデー、世界海岸清掃デーなどの活動に参加して、村の保健衛生キャンペーン促進活動もしています。その他、学校や村の避難訓練にも指導的立場で参加しています。災害が発生した時には、フィリピン赤十字に状況を報告します。昨年の台風ウスマン上陸の時、島の港で足止めされた観光客に対して、フィリピン赤十字の一員として、暖かい食事の配給活動にも参加しました。

このように、RC143というボランティア活動の中で、コミュニティー・ヘルス・ボランティアは村全体の活動に参加しながら、保健衛生の向上のため地道に活動しています。

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