シリーズ「気候変動の影響と人道」
第3回 複合化する人道課題と赤十字の取り組み
本シリーズでは、複数回にわたり、「気候変動×人道」をテーマとして読者の皆様とともに理解を深めていきます(前回記事はこちら)。第3回目の本号では、気候変動の影響を伴い、複合化した人道課題について考え、赤十字の取り組みについてご紹介します。
複合化する人道課題:気候変動の影響を最も受けやすい人々は誰か
国際赤十字は、社会の中でも取り残されやすい人々を特に中心的に捉え、必要とされる人道支援に取り組んでいます。
例えば、子どもや高齢者、妊産婦、障がいのある人などは災害時に特に弱い立場に置かれる人々であることが広く知られています。また、災害で真っ先に犠牲になりやすいのも、常にこうした人々だと言われています。災害が多発する日本に暮らす私たちは、これを直感的に知っていると言って良いのかもしれません。一方で、日本での生活の中で、気候変動の影響を感じているのは、農業や畜産業といった一次産業に従事されている方が多いかもしれません。
開発途上国では、所得の低い人や、避難生活を送る人々の多くが一次産業に従事しています。こうした人々は、政府等の公共サービスが届きにくい場合、変化に適応していく能力も限定されていると考えられるのではないでしょうか。これらの人々は気候変動の影響を最も受けている人々だと考えられます。
問題は、気候変動の影響が背景にあると思われる雨期のタイミングの変化や地域住民が昔から知っていた(従来の)災害のパターンとは異なる、おかしな気象(Funny weather)や異常気象(Extream weather)を伴った新たな災害の発生パターン(従来には観測されていなかった地点での洪水や干ばつ、マラリアなどの感染症の流行等)が発生しているということです。さらに、人々がうまく適応できなければ、避難生活を余儀なくされるなど新たな課題につながっていきます。
世界には、公共機関等からの支援を十分に受けられず、取り残されてしまう人々がいます。そして、こうした人々こそ、赤十字が中心的に介入する対象なのです。だからこそ、赤十字は地域住民への聞き取り調査等を通じて、こうした人々が抱える新たな課題を明らかにしたり、それらの課題に対する住民の具体的な活動を支援したりすることによって、気候変動の影響に対する草の根レベルの適応行動に力を入れています。
赤十字の取り組み:人道支援の段階(フェーズ)をつなげて
赤十字は、世間から注目されているか、否かに関わらず人道ニーズに応じて支援を行っています。活動の段階ごとに一例を見てみましょう。
【開発】自然災害等の人道危機が顕在化していない段階では、主に予防や事前の備えの観点から、地域コミュニティでの住民参画を通じた「リスクが知らされている状態づくり(Risk-informed)」が大切です。それらのリスクを軽減するための生計支援活動や保健衛生環境の向上、疾病予防のための知識等の普及、災害時警報の伝達方法の明確化と住民への周知、河川の堤防づくりや取水源の汚染を防ぐための工事などに地域ぐるみで取り組んでいます。
ネパールのチトワン郡では、毎年のモンスーンによって洪水が発生し、水源が汚染されて安全な水が災害時になくなってしまうという課題があった。住民参加型調査を通じて、住民同士で水源を保護することが住民の脆弱性を軽減することにつながるのかどうかを話し合い、水源の護岸工事実施を決定した(ネパール・コミュニティ防災事業)。©JRCS
【救援】緊急の段階では、避難先での生活環境の著しい悪化や長期化した干ばつによる食糧・水の不足といった何らかの人道危機がすでに起こっており、主に「命と健康」そのものをつなぎとめるための活動が必要です。そのため、この段階では主に食糧や安全な水の配給、適切な医療を受けるための環境整備や日本人医師・看護師等の現地派遣、避難場所の衛生環境の改善等の必要とされる支援を調整し、「届ける」支援が多くなる傾向があります。
【復興】緊急救援後に壊れてしまったコミュニティのつながりや住宅や生活に必要なもの等を元の状態に戻し、以前よりも強化する(より良い復興:Build Back Better)では、たとえばミャンマー側からバングラデシュ側に避難せざるを得ず、コミュニティそのものが崩壊した状態での避難キャンプ生活を送る人々に対し、救援時の医療支援からコミュニティ(人々)のつながりを強化するため人々が集まって、話し合う場という意味合いも兼ねて、精神的ストレスの軽減活動(こころのケア活動)や住宅再建、実際にリスクが顕在化したときの予防行動学習(救急法の普及活動)等に取り組んでいます。