テント型野外病院(病院ERU)、世界の被災地へ出動整備中
海外での緊急事態や大規模災害発生に備え、日本赤十字社(以下、日赤)が保有する緊急対応ユニット(ERU:Emergency Response Unit)。日赤は、海外における大規模災害で地元の病院が機能しなくなった際に、現地の人々に医療を届けるため、アジアの赤十字社としては初めて被災地への航空輸送・緊急展開が可能な野外病院(病院型緊急対応ユニット:病院ERU。以下、病院ERU)の導入・整備を決定しました。重症患者の緊急対応を可能にする同ユニットの整備は、2021年の完了を目指しています。病院ERU整備のいまをお伝えします。
避けられる死を可能な限り減らすことを目的とした「病院ERU」
2001年以来、日赤はこれまでに2004年のスマトラ島沖地震や2015年のネパール地震など計14回、海外での緊急事態や大規模災害に対して、医療チームと必要な資機材から構成される「基礎保健(診療所)ERU」を緊急救援として被災地に派遣してきました。基礎保健(診療所)ERUは診療と保健衛生、母子保健、心理社会的支援(こころのケア)など、主に一次医療を被災者に届けることを目的に整備されているものです。
一方で大規模な自然災害や長引く紛争下で、現地の医療施設が被災し機能しなくなると多くの人びとの命が危険にさらされます。重傷を負い、緊急に手術が必要な場合であっても、その設備が整っている遠くの町への搬送はすぐには難しく、救えるはずの命が失われています。
病院ERUは、既存の基礎保健(診療所)ERUの設備を拡張し、これまでは後送病院に送らざるをえなかった生命にかかわる重篤な患者への対応を可能にします。24時間の患者受け入れを行うとともに、重症患者を治療するための手術室や集中治療室(ICU)、入院のための病床、分娩室等を完備し、二次医療の提供を行います。
機材総量36トン、病院ERU展開訓練の実施
2019年11月14日(木)から11日間にわたり、大阪府の高槻赤十字病院グラウンドを使い、病院ERUを実際に組み上げる展開訓練を実施しました。全国の赤十字病院や支部から集まった医師や看護師、技術・管理要員は120人以上、3,500平方メートルの敷地内に広げた資機材総量は36トンに上りました(設営の様子は写真を参照)。
テント24基を設営し、その中には実際に救援現場で使用する資機材を使って手術室や集中治療室、病棟といった医療施設、キッチンやランドリーといった病院運営施設などが立ち並びました。参加した医師や看護師らは模擬患者を想定して、肋骨が骨折した女性患者が救急車で搬送された事例では、「ICUで人工呼吸管理が必要」などとして診察や処置の手順の確認を行いました。また、病院施設の運営には、水や電気、IT設備といったインフラも必要不可欠です。そのため施設管理を行う技師も必要になることから、展開訓練時には専門的な知識を有する株式会社中部プラントサービス(本社:名古屋)の協力を得て、電気設備面の検証も実施しました。
※病院ERUの内部を覗いてみませんか。下記のURLから当日のテント内の様子を動画でご覧いただけます。
https://www.facebook.com/japaneseredcross/videos/276956029911684/
2021年、病院ERUの派遣準備完了を目指して
近年、気候変動の影響により異常な豪雨や熱波、大型台風の襲来、それらにより引き起こされる厳しい干ばつや洪水といった現象が世界各地で頻発するようになっています。日赤の病院ERUはこうした事態を踏まえ、急ピッチで整備作業を進めています。病院ERUでは運営に必要な要員数も大幅に増加します。従来の基礎保健(診療所)ERUでは1回のローテーションに35人程度でしたが、病院ERUでは50人~130人(20床~100床の場合)が必要になると見込んでいます。2021年の整備完了までには、資機材の調達にとどまらず、計画的な要員育成、外部協力団体や姉妹赤十字社との協働の模索、運営マニュアルの整備などを随時進めていきます。
病院ERUの整備は、皆さまからの寄付のもとに成り立っています。病院ERUを保有し災害発生時に迅速に展開できるようにするためには、展開後のランニングコストだけでなく、普段からのメンテナンスや維持、要員の研修などに費用がかかります。緊急時の迅速な対応を可能とするため、皆さまのご支援を今後ともどうぞよろしくお願いいたします。