フィリピン:カヤパ郡における住民参加型保健医療支援事業
2019年11月17日から同23日にかけて、日本赤十字社(以下、「日赤」)広島県支部、茨城県支部の職員計2名が本社職員と共にフィリピン共和国を訪問し、日赤が同国で支援する保健医療支援事業のモニタリングを行いました。その様子をご報告します。
やりがいをもって活動するボランティア
今回訪問したフィリピン北部の山岳地帯に位置するヌエヴァ・ヴィスカヤ州カヤパ郡では、2014年からフィリピン赤十字社(以下、「フィリピン赤」)が主体となり、保健衛生の知識やより良い行動を普及させることにより、地域全体がより健康的な生活を送ることを目指す事業を実施してきました。
行政の最小単位であるバランガイ(日本の「村」に相当します)には、フィリピン赤が養成した地域保健ボランティア(Community Health Volunteer:以下、「CHV」)がおり、彼らは地域住民に対する救急法トレー二ングの実施や、感染症予防のための手洗い指導等の健康教育や知識・技術の普及活動を実施しています。
今回、聞き取りを行ったCHVからは、自宅前でバイク事故の現場に遭遇し、出血した男性の手当を行った翌日に、本人から感謝の言葉を伝えられて嬉しかった経験や、骨折した姪の足の固定を行い病院へ連れて行ったところ、医者に驚かれた経験等が共有されました。「CHVの活動を気にいっている」、「地域住民の役に立てるのが嬉しい」、「赤十字から得た知識や技術を自分のコミュニティに伝えたい」といったCHV活動への思いを聞くことができ、彼らのモチベーションは非常に高いことが確認できました。
一方で、ボランティア活動はしたいものの、生活が苦しく、思うように活動することができていないCHVもおり、彼らの生計支援も行う等、より多くのCHVが活動しやすい環境づくりを行うことが課題であると感じました。
地域に根付いていくボランティアの活動
事業地であるカヤパ郡は道路整備が不十分であり、バランガイによっては病院まで徒歩で数時間かかるため、たとえ病気やケガをしても医療機関への受診が難しかったり、感染症に対する十分なワクチン量が配布されていない地域もあります。このことから、住民が感染症に対する知識や手洗い等の予防法について知識を深め、予防対策を徹底することが必要となっています。
カヤパ郡長のエリザベス・バラシャ氏は、同郡を将来どのようにしていきたいかという質問に対して、「住民一人一人が健康や生活についての正しい知識を得て、自ら意思決定をする力を持ってもらいたい。それを実現させるために行政としても、CHVの活動に協力していきたい」と語り、行政としてCHVの活動が、今後のカヤパ郡の保健医療サービスの充実を図る上で重要であると捉えていました。彼らCHVの地道な活動が、バランガイの住民達の頼りとされ、行政機関にも必要とされることで、実を結んできたことを改めて感じることができました。
赤十字が活動する上で、どこの国のいかなる地域であっても、ボランティアの存在は必要不可欠です。公共インフラが十分でないフィリピンの山間部においても、住民からの信頼を集め、人々の命と健康を守るために地道に活動するフィリピン赤のボランティアの姿を目の当たりにし、赤十字はボランティアに支えられていることを改めて確認する機会となりました。
フィリピン保健医療支援事業とは? フィリピンの地方では、道幅が狭く、車で移動することができないなどの地理的制約に加え、医師や看護師不足などの影響により、住民の保健医療サービスへのアクセスが限られている地域が存在します。そのため、「自らの命と健康は自分で守る」という意識を一人ひとりが持ち、適切な行動をとることが大切です。そこで、日赤はフィリピン赤と協力し、2005年からルソン島北部でCHVの育成を中心としつつ、保健所の修復、トイレや手洗い場の整備等にも取り組んでいます。ヌエヴァ・ヴィスカヤ州では、これまでに79人のCHVを育成し、保健所1つを全面改修し、保健所10か所にパルスオキシメーター(動脈血酸素飽和度と脈拍数を測定するための装置)やネブライザー(吸入器)等の医療資機材を提供したほか、4つの小学校で水道やトイレ等を建設又は修復しました。 |