日本赤十字社が支援している国々の今-新型コロナウイルス感染症に対応した活動の展開-

日本赤十字社(以下、日赤)は、皆様からのご支援の元、赤十字のネットワークを生かして各国赤十字・赤新月社の活動に資金・物資・人的支援を行ってきました。

しかしながら、世界中に蔓延している新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の影響により人の移動が制限されていることから、日赤も派遣要員の一時帰国や新規の派遣を見送る措置をとっています。

今回は、この緊急事態に対して日赤が支援している現地の赤十字・赤新月社がどのような活動を展開しているのかをご紹介します。

バングラデシュ:避難民へ届け、正しい情報と必要な医療

バングラデシュ南部には2017年8月以降、隣国ミャンマーの暴力行為を逃れてきた約90万人の避難民(※)が暮らしています。日赤はバングラデシュ赤新月社(以下、バ赤)とともに、避難民キャンプにおける人々の健康と命を守るため、診療所の運営および地域に根差した保健活動を行っています。詳細はこちらをご覧ください。※国際赤十字では、政治的・民族的背景および避難されている方々の多様性に配慮し、『ロヒンギャ』という表現を使用しないこととしています。

キャンプ内で活動する避難民ボランティアや診療所の医療スタッフはCOVID-19の感染予防対策に積極的に取り組んでいます。ボランティアは通常、各家庭を訪問しけがの手当の方法や母子保健に関する情報などを伝えていますが、現在は人との適切な距離に配慮しながら、手洗いなど衛生や感染予防に関する情報を重点的に伝えています。診療所では、入口での患者さんの手洗い励行や診療所内の清掃・消毒回数を増やしたり、医療スタッフやボランティアへのマスクなどのPPE(個人防護具)の着脱についての研修を行いました。

現地に駐在する日赤要員が一時不在となった現在、日赤現地スタッフが、現場でバ赤の活動を支えています。その一人のウドイ氏は、「医療スタッフやボランティアからは感染に対する不安の声も聞こえますが、感染予防・安全管理に配慮し、皆のモチベーションを日々保ちながら必要な保健医療サービスや正しい情報を人々に届けています」と語ります(4月17日現在、避難民キャンプ内での感染者は確認されていません)。

バングラデシュは間もなくサイクロンや大雨が多い雨季が始まることから、脆弱な避難民キャンプ内での感染症の発生や自然災害の影響は甚大です。これからもCOVID-19に加え、自然災害への備えも意識しながら活動を続けていきます。

左:地域における保健活動においても、ボランティアが、人との適切な距離を取ることを意識して活動しています©バングラデシュ赤新月社
右:PPEの着脱の仕方を学ぶ医療スタッフと避難民ボランティア©バングラデシュ赤新月社

ボランティアが、人との適切な距離を取ることを意識して活動しています
PPEの着脱の仕方を学ぶ医療スタッフと避難民ボランティア

中東:感染症に対応できる病院を目指して

日赤は、2018年以降、レバノンパレスチナ・ガザ地区に医療チームを派遣し現地のパレスチナ赤新月社病院の医療体制の改善等を図る事業を実施していますが、医療チームの派遣が当面見合わせとなった現在は、遠隔での支援を継続しています。

COVID-19の影響が中東にも迫っていた今年3月、レバノンの日赤医療チームは、日本の感染症対応の事例を活用し、現地病院の医療スタッフを対象に感染症対策のレクチャーを実施しました。現地通訳を介しながらも現地語であるアラビア語と身振り手振りを用いて、中東では未だ馴染みの薄かった感染症への理解促進を図りました。

ガザ地区アルクドゥス病院の医師たち

ガザ地区アルクドゥス病院の医師たちと、感染症の診療手順作成に取り組む中司医師(要員帰国前の2020年2月に撮影)©日本赤十字社

長年の経済封鎖によって貧困に苦しむパレスチナ・ガザ地区では、中国等でのCOVID-19感染症流行が伝えられた1月下旬から、感染症に不安と危機感を覚えた病院スタッフの求めに応じ、日赤医療チームの協力のもと、救急外来における感染症対策の診療手順整備を開始しました。日赤医療チーム帰国後の3月にはガザ地区内でも感染者が確認され、現地での不安は広がっています。日赤が支援しているアルクドゥス(Al-Quds)病院では多くの外来患者を受け入れていますが、ガザ地区ではPCR検査が可能な施設が保健省とWHOのみと限られているため、検査の結果が出るまで患者を待機させるアルクドゥス病院は、仮設テントに陽性疑いのある患者を一時隔離するなど感染拡大を防ぐために必要な措置をとっています。経済封鎖によって普段から医療物資が不足しているガザにおいて、感染拡大の予防のために、病院は重要な役割を担っています。

これからも、日本からの医療チームの派遣再開に備えながら、パレスチナ赤病院のスタッフたちの奮闘を陰ながら支援していきます。

東アフリカ:ラジオ使えば 届く安心

モバイルラジオ

村々を移動するルワンダ赤モバイルラジオ。大音量で情報を流す。村人からの質問にはその場で対応することができる©ルワンダ赤十字社

最後は、ルワンダでの活動です。日赤は国際赤十字・赤新月社連盟を通じて、東アフリカ地域の保健状況を改善する取り組みを支援しています。2019年度はルワンダとブルンジの赤十字ボランティアが主体となって、モバイルシネマと呼ばれる移動式映画館とモバイルラジオ放送(スピーカーを積んだ三輪バイクで村々を回り、情報を届ける)により、保健及び防災に関する知識を身につけるための啓発活動を実施してきました。

こうした取り組みが2020年3月に終わろうとしていた頃、ルワンダ国内で初の新型コロナウイルスの感染者が確認されました。同国政府の通達により、人々の移動の自由が制限され、不特定多数の人が集まる集会等が禁止されました。そのため、モバイルシネマも実施が困難となりましたが、このような時こそ、赤十字の啓発活動の重要さが増して来ます。そこで、ルワンダ赤十字社はラジオ放送の回数を急遽増やすことを決め、内容も新型コロナウイルス対策に重点をあてることにしました。

インターネットやテレビからの情報が得られない住民達にとって、赤十字のラジオ放送から得られる予防策は、自らの命と健康を守るための大切な拠り所です。2020年3月で終了予定であった事業は、2020年4月末まで継続することとなり、今日も移動式のラジオ局から村人達へのメッセージを発信し続けています。

世界に日常が戻るその日まで、帰国した日赤要員も国内で危機に対応中

日赤は、皆様からのご支援を賜りながら、紛争や自然災害・疾病で苦しんでいる世界中の人々に対して、長年にわたり支援を続けてきました。

2019年度においては、日赤からは46人の医師、看護師、事務職などが派遣され、現地の赤十字・赤新月社の医療、保健衛生、災害対応などの分野に対して支援を行いました。世界的なCOVID-19感染症の蔓延という緊急事態で今回やむを得ず日本へ帰国をすることになった派遣要員も、現在、所属している全国の赤十字病院やその他赤十字施設において日本国内のCOVID-19対応に全力で取り組んでいます。

そして、今回ご紹介した国々のように、避難民問題や医療の脆弱性などを抱える国々において、このCOVID-19の感染拡大は特に深刻な影響をもたらすことになります。そのような国々の現状と、日赤の支援の元、支援を必要としている人々のために最前線で活動する赤十字ボランティアやスタッフがいることを知っていただけたら幸いです。

この赤十字国際ニュースにおいても、海外に派遣された日赤職員が現地の赤十字・赤新月社とともに支援活動をする姿をしばらくお届けすることは残念ながらできませんが、その日を心待ちにしながら、今は日赤一丸となって、国内での感染症対応を続けていきます。

皆さまの日頃のご支援、ご協力に感謝いたしますとともに、今後とも日本赤十字社のCOVID-19対応、ならびに国際活動にも引き続きご関心をお寄せいただきますことを願っております。

バングラデシュ南部避難民救援金 募集中

中東人道危機救援金 募集中

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日本赤十字社の新型コロナウイルス感染症に対する活動報告はこちらをご覧ください:

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