紛争とCOVID-19、二重の危機に直面する人々
新型コロナウイルス(以下、「COVID-19」)の感染拡大は、私たちの生活を一変させました。それは、紛争地も例外ではありません。紛争とCOVID-19という2つの危機に直面している人々の生活はさらに厳しさを増しています。今回の国際ニュースでは、COVID-19が紛争地にもたらす影響と赤十字の活動についてご紹介します。
医療ニーズを圧迫 ~二重の危機に直面する人々~
COVID-19は、医療体制が比較的整っているとされる欧米や日本においても猛威を振るっています。他方、紛争や災害の被災地といった脆弱な場所で生活する人々に与える影響がさらに深刻化することは、想像に難くありません。基本的な医療アクセスすらままならない人々にCOVID-19はどのような影響を与えているのでしょうか?
●リビア
北アフリカのリビアでは、2011年に本格化した民主化運動「アラブの春」により政権が崩壊後、新政府が成立するも2014年に東西に分裂し、その後、激化する内戦に数十万規模の人々が巻き込まれています。COVID-19の流行以前から、リビアの医療施設の受け入れ能力は内戦の影響ですでに限界に近づいています。COVID-19に関連する感染予防について研修予定だった医療スタッフが、内戦の負傷者の対応のために医療現場に呼び戻されるといった事態も頻発し、二重の危機への対応に困難を極めています。
●アフガニスタン
アフガニスタンでは、長年の紛争の影響により基礎的な医療体制がもともと脆弱な上、頻発する戦闘で市民の医療アクセスが極めて制限されており、そうした最中、COVID-19への対応を強いられることになりました。首都カブールでは今年5月、病院の産科病棟が武装集団による襲撃を受け、母子や看護師など24人が犠牲となり、子どもを含む少なくとも16人が負傷する事件が起きました。こうした医療施設、医療従事者を標的とした攻撃が、事態をより深刻にしています。赤十字国際委員会(以下、「ICRC」)アフガニスタン代表部ファン・ペドロ・シェーラー首席代表は次のように訴えています。「先進国でさえCOVID-19の対応に苦慮しているというのに、武装集団が病院を襲撃する国でどうやって良質な医療を提供できるでしょうか。私たちは新型ウイルスが出現する前から、紛争地の医療施設や刑務所において十分な医療が施されていない現実を見てきました」。COVID-19により今まで以上に医療へのニーズが高まる中で、市民が診療を受けられない事態が懸念されています。
●トルコ、レバノン
トルコで生活する難民を対象に実施された調査によると、同国の69%の難民がCOVID-19の影響により仕事を失ったと回答している(調査の詳細はこちら)他、レバノンに住むシリア難民の多くも失業により収入を絶たれ、経済面でも深刻な影響が広がっています(詳細はこちら)。
感染拡大を防ぐために ~ミャンマーでの赤十字の活動~
上述のリビアやアフガニスタンをはじめ、赤十字はCOVID-19下においても、世界各地での人道支援活動の継続に励んでいます。紛争の影響により避難を余儀なくされた人々が暮らす国内避難民キャンプ、また刑務所などは、人々が密集したスペースで生活しているために感染症の拡大が懸念されています。こうした環境下で人と人との距離を確保することは容易ではなく、また感染予防のために手洗いが推奨されているものの、清潔な水へのアクセスや石けんの供給も十分ではありません。
こうした事態に対し、ミャンマー赤十字社は、国内277の地域でスタッフやボランティアを動員し、国のCOVID-19対策を支援しています。また同国で活動するICRCは、COVID-19下においても国際人道法によって保護の対象とされる人々が人道支援を受けることができるよう、工夫しながら活動しています。通常の活動に加えて、同社とICRCは、COVID-19の予防に関する啓発活動を実施し、コミュニティリーダーや地域のメディアが予防の知識を住民に届けることができるよう支援。さらに、各地の国内避難民キャンプでは、COVID-19の感染拡大予防のために、正しい手洗いの仕方等の啓発活動を行うとともに、安全な水で手洗いができるよう間隔を空けた手洗い場の設置や浄水フィルターの配付も行っています。ミャンマー各地の刑務所に対しても、衛生資材やマスク、ゴーグル等の防護資材を支給するとともに、刑務官に対して適切な消毒方法や資材の使用方法を説明し、収容者の感染予防に努めています。
今こそ、ともに助けあう
人道危機が常にそうであるように、COVID-19の感染拡大もまた、普段から脆弱な立場に置かれている人々をより深刻な状況に追い詰めています。紛争地に生きる人々は更なる苦境に立たされているのです。世界中が危機に直面している今こそ、より困難な状況にある人々に必要な支援を届けるために、ともに「助けあうこと」が一層重要となっています。そうして、世界が一丸となり感染症を封じ込めることは、結果的に私たち自身を感染症の脅威から守ることにも繋がります。 赤十字は「助けあい」の思いを胸に、今後もCOVID-19と闘い続けます。同時に、世界各地において、現地のニーズに応じた医療支援や衛生教育支援、生計支援、順守されるべき国際人道法の普及など、様々な活動を継続的に実施していきます。
●日本赤十字社の新型コロナウイルスに対する活動はこちらをご覧ください。