国際要員の安全を守る~安全管理担当の仕事~
■ 職員インタビュー:国際要員の安全を守る~安全管理担当の仕事~
昨年度日本赤十字社(日赤)から海外に派遣したスタッフは、南スーダン、レバノン、バングラデシュ等12か国に延べ46人。海外で活動する国際要員の安全を陰で支える職員がいます。本号では、日赤国際部で安全管理担当として働く戸口愛子さんへのインタビューを、お届けします。
安全管理って何?なぜ大切?
日赤では、国際要員として緊急救援、復興支援、国際協力事業に従事する職員を海外に派遣してきていますが、これら国際要員にかかる「安全管理」とは、安全対策、危機管理、重大事案対応を総称するものです。具体的には、国際要員の事故・事件などを未然に防ぎ、それらが発生した場合でも迅速かつ的確に対応することで被害を最小限に留め、再発防止を図ること、また、生命に関わる重大事案が発生した場合でも組織的に的確な対応をはかることで、国際要員の生命を守り、安全を確保する大切な仕事です。
■ 具体的にはどんな仕事?
私自身が日赤に入社したのは本年4月下旬です。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって多くの海外派遣中の国際要員を本邦に引き上げた後のため、やや状況が異なってきてはいますが、基本的に安全管理担当には、実際に海外派遣される国際要員に対し、個々の派遣先の状況に応じた各種の個別具体的なサポートを行うことが期待されています。例えば、国際要員への派遣前ブリーフィングでは、現地の治安情勢、一般犯罪やテロ・誘拐事案の発生状況、現地での注意事項などを伝えたり、帰国後には心身の健康状態等についてのヒアリングを実施し、必要なケアを行います。
また、安全管理に関する研修の運営実施等の業務にも従事しています。研修では、国際要員が派遣先での安全確保、存在する脅威の見極め、予防策・緩和策等の基礎的な知識・能力を身につけ、より良い安全管理意識を持ってもらい、海外においてより安全に活動してもらうことを目指しています。例えば、基本的なことを身につけるだけでも、いくつかの危険は避けられるか、あるいは軽減することができるので、研修では確認ポイント、「やること・やってはいけないこと」、注意点等を示しています。現地での宿舎選びの注意点、徒歩や車両での移動時の注意点、警備チェックポイントでの注意点などについてもお話ししています。
■ なぜ安全管理担当に?
これまで様々な職場や立場で主に国際協力に携わってきました。常に「自分は今何をすべきか」、「自分には今何ができるのか」を考え、具体的に行動することを意識してきましたが、これまでの自分自身の経験を振り返ると、国際協力活動の基本の一つは、活動に従事する人員の安全管理にあると思うに至りました。私は2009年~2011年までアフリカのタンザニアで勤務していたのですが、タンザニア国内の遠方出張中に交通事故に遭いました。乗車していた車両が、山間部で横転したのです。幸いにも大事には至らずに済みましたが、事故現場が地方の奥地であったため、医療搬送用のチャーター機が到着するまで現地の病院で2晩待ちました。
また、同時期にナミビアでボランティア活動をしていた大学時代の恩師の姪っ子さんが、乗車していた車両が対向車線の車両と正面衝突するという事故に遭い亡くなりました。日本に帰国後、恩師に会いに行きましたが、ご家族の思いを伺い「生きて帰る」ことの大切さというものを、深く考えた大きな出来事でした。そうした自分の経験が何かしら少しでも役に立てばと考え、今この業務を担当しています。
安全管理における赤十字らしさ
安全管理における赤十字らしさの原点というのは、私たちの国際要員派遣は、国際条約の下で「攻撃してはならない」と定められている赤十字の標章を信じて実施されていることではないかと思います。組織によっては、活動地域での車両移動に際して武装警備や防弾車両、防弾チョッキなどのハードウェアを用いる組織もありますが、私たちは赤十字の標章による安全管理を大事にしているのだと思います。安全管理の7原則というものがありますが、その一つに「受容(acceptance)」というものがあります。これは、安全管理上の脅威を緩和するためには、地元に受け容れられることが重要という考えです。具体的には、地元の人々に、赤十字が中立・公平・独立の原則に従って人道支援を行っている組織であることを理解してもらうことが重要であり、人々からの理解が得られることではじめて私たちの活動が可能になるという考えです。同時に、相手に受け容れられるためには、私たち自身が文化や労働環境が異なる国・地域で活動する際に、地域の習慣、人々の価値観、その国・地域のルールを理解し、それらを尊重し受け容れて行動することが大切です。
■ やりがいやチャレンジは?
活動を通して「ありがとう」という言葉をいただいた時、やりがいを感じます。私は4歳の女の子の母親でもあるのですが、一日一日の限られた時間の中で、職業人として、また母親として、自分の責任を果たさなければと考えています。毎日がチャレンジですが、それが成長の糧だと感じています。
■ 日常的に使える安全管理の視点について
自分が担当する業務や私生活の中で、例えば、「これ危ないかも」「少し急ぎすぎかも」と感じることはありませんか?私はそういう直感を大事にするように心がけています。少しでも危ないな、予防したほうが良いな、と感じたら、きっとその感覚は大事だと思います。ご自身の感覚を信じ行動に移す、あるいは行動を思いとどまることも大切だと思います。