世界が原子力災害に備えるために
福島の今
東日本大震災と原発事故から10年を迎えた福島県。この10年で復興は着実に進展しました。平成30年3月には「帰還困難区域」を除く全ての地域で除染作業が完了し、県内の空間線量率は大幅に低下して現在は世界の主要都市と同水準になりました。災害復旧工事や道路等の交通網の整備も進み、令和2年3月にはJR常磐線は全線で運転再開。被災地においても営農が徐々に再開され、農産物の輸出量は過去最高を更新しています。
一方で、県土の約2.4%にあたる約337㎢の「帰還困難区域」は放射線量が高く避難指示を解除できずにおり、今も約35,000人の住民が県内外への避難を続けています(令和3年3月現在)。東京電力ホールディングス(株)による福島第一原子力発電所の廃炉作業には30年〜40年掛かるとされ、令和元年東日本台風や令和3年2月福島県沖地震、新型コロナウイルス感染症による影響も相俟って、今後も長く険しい道のりが続きます。
(参照:福島県「ふくしま復興ステーション」)
原子力災害への備え
震災と事故後10年を目前に控えた令和3年2月に発生した最大震度6強の福島県沖地震は、改めて私たちに震災と事故を思い出させ、それらへの備えの必要性を認識させました。
日本赤十字社は、震災と事故発生当時、原子力災害に対応する備えが不十分であったため、特に災害初期において十分な救護活動を行うことが出来ませんでした。その苦い経験を教訓として、平成25年に赤十字原子力災害情報センターを開設するとともに『原子力災害における救護活動マニュアル』を策定し、救護班要員の被ばく線量の基準、線量計や防護服、行動基準等を定めると同時に、全国に原子力災害アドバイザーを配置し、救護班要員に対する研修会を毎年開催しています。平成27年にはより包括的な『原子力災害における救護活動ガイドライン』を策定し、情報発信、ストレスへの対応、国際的な知見の共有等の必要性も明確化しました。
赤十字原子力災害情報センターはそのデジタルアーカイブとともに令和3年3月末をもって閉鎖しましたが、日本赤十字社は新たな体制で引き続き原子力災害への備えに取り組んでまいります。またデジタルアーカイブのコンテンツは国立国会図書館の東日本大震災アーカイブ「ひなぎく」やインターネット資料収集保存事業「WARP」を通じて引き続きご覧頂けます。
日赤では、福島第一原発事故発生当時、原子力災害時の救護活動における明確な行動基準と、安全確保に必要な資機材を持ち合わせていませんでした。そのため原発事故発生後、多くの救護班が自らの使命に反して活動現場から一時的な後退を余儀なくされました。赤十字国際委員会(ICRC)や広島・長崎の両原爆病院等の支援を受けて県外からの救護班が活動を再開するまでの間、被災地に立地する福島赤十字病院は懸命に被災者の支援にあたりました。
国際赤十字の取り組み
福島第一原発事故は、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)や赤十字各社に、改めて原子力災害の影響の大きさを認識させ、2011年11月に開催された総会において、IFRCや赤十字各社が原子力災害の被災者救援に役割を果たすことなどを盛り込んだ「原子力事故がもたらす人道的影響に関する決議」を採択しました。
IFRCではこの決議を具現化するために、日本赤十字社をはじめとする赤十字各社の協力の下、ジュネーブ事務局に原子力災害担当官を配置するとともに各社との国際会議を重ね、2015年に『原子力・放射線災害における事前対策および応急対応ガイドライン』を策定するとともに、eラーニングサイト「Learning Platform」に原子力災害に関するコースを追加しました。2020年には原子力災害をはじめとする科学技術・生物学的ハザードに関する特設ページをIFRCウェブサイト内に立ち上げると同時に、IFRC世界防災センターと連携して、多種多様な災害に関連するナレッジのグローバルな共有を図っています。
近年の気候変動による自然災害の激甚化は、複合して発生する原子力災害のリスクを高めていると考えられます。原発事故の影響は国境を越え、自国だけで解決できるわけではありません。原発事故への対応は、常に国際的なコンテクストで考えなければなりません。日本赤十字社も、IFRC世界防災センターのウェブサイトを通じて震災と事故のナレッジを国際赤十字内外に共有する等、世界の原子力災害への備えにこれからも貢献してまいります。
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