中東・イエメンの今―依然先が見えない状況
全人口の8割を占める約2,400万人が人道支援を必要とする状態にある中東・イエメン。生存に不可欠な医療や水へのアクセスが担保されているのは人口の6割程度で、食料や生活必需品の9割が国外からの輸入に依存するなど、社会基盤は極めて不安定な状態にあります。2015年に始まった内戦以降、360万人以上が住処を追われ、2020年には新たに17万2千人が国内避難民となるなど、先の見えない状況が長く続いています。
そうした最中、2020年4月、イエメンで初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されました。WHOによれば、同年1月3日から12月31日までの期間中、同国では2,101件の感染例が確認され、611人が亡くなっています。内戦下で国外からの支援に依存せざる得ない構造において、物流のロックダウンが事態の悪化に更なる拍車をかけ、8割の人々が貧困ライン以下となる生存ぎりぎりの生活を強いられています。
紛争下の人びとの健康を支える日赤の支援
こうした最中、現地ではイエメン赤新月社(以下「イエメン赤」)を中心とする国際赤十字の各機関が人道支援に奮闘しています。日赤が財政支援を行う主な活動として、イエメン赤が支援する現地の医療センターにおいては、基礎保健医療をはじめ、妊産婦や児童など脆弱な人々へのケア、ファーストエイドの提供を行っています。
また同じく現地で活動する国際赤十字・赤新月社連盟(以下「連盟」)は、イエメン赤と協働して、10のイエメン赤支部に対して700のファーストエイドキットを配布し、約10,500人分の応急手当に貢献しました。水と衛生分野の活動では、赤十字により26か所8,766世帯計61,362人に対して給水車・タンクによる飲料水を供給。さらには、手洗いや新型コロナウイルス感染症予防のための衛生啓発キャンペーンを展開し、ラジオやSNSを通じて直接的・間接的に900万人以上の人々にメッセージを届けました。
このキャンペーンでは、当初、世帯の戸別訪問を計画していましたが、感染症蔓延により対面が困難となったことから、SNS等を活用した実施となりました。コロナ禍以前から、コレラ、マラリアなどの感染症のエンデミック(特定の地域内での感染症流行)が発生している同国において、医療・水と衛生の分野における支援は依然として高いプライオリティにあります。
「貧困」、「コロナ禍」、「紛争」―負の連鎖
以上の人道危機に加え、同国は長く紛争の影響にも苦しんできました。紛争犠牲者への支援は主に赤十字国際委員会(ICRC)が行っています。ICRCの活動としては、紛争犠牲者の医療支援や水、衛生などの支援はもちろん、特徴的な活動として紛争で自由を奪われた被拘束者への支援を行なっています。例えば2020年10月、ICRCは、紛争で身柄を拘束されていた同国の人々、計1,056人の故郷への帰還を仲介しました(詳しくはこちら:ICRC「イエメン紛争で拘束された1,000人以上が故郷に帰還」(2020.10.21)https://jp.icrc.org/information/more-1000-former-detainees-yemen-conflict-transported-home/)。他方、2020年12月30日には空港でのミサイル攻撃に赤十字職員が巻き込まれ、ICRCの職員3人の命が奪われました。コロナ禍のみならず、依然として不安定な治安情勢も、人道支援の継続において大きな課題となっています。