パレスチナ・ガザ地区、情勢悪化のその後
先月5月21日に停戦に至ったイスラエル・パレスチナ間の戦闘は11日間に及び、現在までにイスラエルでは13人、パレスチナで計285人(ガザ地区253人、ヨルダン川西岸地区32人)と、大きな犠牲者を出しました。前回の速報に続き、特に被害の大きかったガザ地区の現状についてお知らせします。
停戦以降、イスラエルとガザ地区の間での戦闘は生じておらず、ガザ地区の主要な2つの物資搬入路(イスラエル側とエジプト側)も継続して開通し、人道物資の搬入も少しずつ再開しているようです。
ガザ地区では破壊は一瞬であっても、その後の復旧や復興には数年から十年以上を要するとも言われています。日本赤十字社は、被害の規模や今後の復興ニーズも踏まえ、停戦直後の支援(500万円)に続き、パレスチナ赤新月社(以降、パレスチナ赤)の緊急支援要請に対して2,000万円の追加支援を決定しました。
停戦後も続く困窮状態
ガザ地区では、停戦以降の撤去作業の間にも瓦礫の中からさらに30人の遺体が回収されています。復旧の見通しは立たず、ガザ地区の住民は、何の条件も保証もない停戦がこのまま続くのかも分からない不安を拭えていません。今回の戦闘以前の13年間、ガザ地区はイスラエルによる厳しい封鎖措置が課されており、この間に今回も含め、計4回の大規模な戦闘がありました。戦闘が一旦終了した現在も、ガザ地区では、人びとの生活や医療サービスを支える外部からの物資や電力、燃料が十分に入ってこない人道危機的状況が続いています。
最新の国連の報告によると、戦闘中の電力供給量は必要量のおよそ4分の1まで落ち込み、平均して1日5時間程度まで下がりました。停戦後は1日10時間程度まで回復したとされていますが、未だ必要量も確保されていません。電力不足を補うための燃料の取得も困難な状況で、ガザ地区にあるパレスチナ赤のアル=クッズ病院では、集中治療室や人工呼吸器など必要最低限の医療機材を稼働させるため、病棟のエアコンの使用を止めざるを得ない状況です。地中海に面するガザでは今の季節、湿度が高い上に日中の気温は30度を超え、治療環境の悪化が危惧されます。
また戦闘による損壊や電力供給不足により、安全な水の供給や衛生環境にも深刻な影響が出ています。今回の戦闘でも、ガザ地区(ガザ市)にある18の下水ポンプが破壊または一部損壊し、下水処理場の機能も停止し、未処理のまま海洋流出されています。また上水設備も機能停止し、40万人が水道水を得られておらず、水道水が得られる世帯でも汚水や海水が混入するなど、人口190万人のガザ地区で、130万人以上が水・衛生上の問題に直面しています。
戦闘中には、空爆により自宅を破壊された人びとや、地区内の境界付近に住む人びとが地上侵攻を恐れ、およそ7万人が国連機関の学校や公立病院などに一時避難しました。停戦後数日で避難者数は数百人規模まで下がり、現在は多くの人々が自宅や親類の家に戻ったといわれています。しかし、この戦闘で計2,100戸以上の家屋が全壊または部分損壊し居住不可能となっており、合わせて10万人以上が住宅を必要とする状況に陥っています。この点、ガザ地区では今回の戦闘以前から、12万戸が不足しているという住宅事情がありました。この背景には、イスラエルが軍事利用を懸念して建築資材の搬入を制限していることがあり、資材不足を補うため、人びとは瓦礫からコンクリートを選別して再利用し、低品質の資材での建物再建を強いられています。
©パレスチナ赤新月社
医療サービスの状況についても、上述の電力不足のみならず、医薬品や医療資機材不足も懸念されており、各支援機関は最優先で医薬品のガザ地区への搬入に取り組んでいます。また、病院付近の道路や建物の破壊により、救急搬送の遅延や足止めが生じており、道路復旧の見通しも立たない状況があります。
さらに、ガザ地区内で唯一の新型コロナウイルスの検査施設が空爆の被害に遭い、一時的に全域で検査ができない状態に陥りました。その後、検査機能は復旧されたものの、緊急事態下の避難所などで感染対策が徹底されていない状況も続き、今後の感染拡大も強く懸念されています。
「こころのケア」活動や瓦礫の撤去作業の様子©パレスチナ赤新月社
このような状況の中、パレスチナ赤のボランティアたちは、街の再建に取り組むキャンペーンに参加し、倒壊した建物や道路の瓦礫、被害に遭った家屋の片付けを手伝っています。戦闘中から続く、家を失った世帯や困窮世帯に対する救援物資の配付も継続し、これまで2,800世帯(15,000人)以上に生活必需品や食糧を配付しています。また停戦後、200人のパレスチナ赤ボランティアが、主に子どもたちが負った精神的負担の軽減のために「こころのケア」活動を展開し、これまでに5千人の子どもたちを含む1万人以上を支援しました。子どもたちの中には、親戚や家族を失った子どもたちも含まれており、継続したケアが必要とされています。
引き続き厳しい状況が続く現地情勢の中で、パレスチナ赤のスタッフ・ボランティアたちをはじめ多くの人びとが前を向いて活動しています。私たち日本赤十字社はこれからも、現地赤十字・赤新月社のパートナーを通じて、人びとに寄り添った支援を続けていきます。
日本赤十字社では、パレスチナやシリア、レバノン、イラクなどの中東地域で紛争や災害を被る人びとを支援するため、「中東人道危機救援金」へのご寄付を募集しています。皆様の温かいご支援を是非よろしくお願い致します。 |