再会を願って~赤十字の離散家族支援~

 7月7日の七夕は、1年に1度、彦星と織姫が天の川を渡って再会できる日です。短冊に願い事を書いて笹に吊るした経験のある方も多いのではないでしょうか。今回は「再会」をテーマに、赤十字が取り組んでいる離散家族支援についてご紹介いたします。

離散家族支援とは

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 世界には、紛争や災害などにより家族が離ればなれになり、連絡が取れず、安否や所在がわからないことでつらく悲しい思いをする人々が数多くいます。赤十字は、離ればなれになった家族を支援するべく、国際人道法(ジュネーブ諸条約)に基づき、再会・絆を維持・回復すること(Restoring Family Links : RFL)に取り組んでいます。
 世界の赤十字は、離散家族支援のため、以下のような活動を行っています。

(写真)©ICRC/Mari Aftret Mortvedt

<安否調査>
 紛争や災害などの人道危機により、家族と離ればなれになってしまった人びとの再会・連絡を回復するための活動です。
 2019年には、赤十字国際委員会(ICRC)の支援により、981人(うち773人は未成年)が家族との再会を果たし、141万8395件の家族間通話を仲介しました。ICRCは、保護者がいない、または保護者と引き離された子ども2857人(うち1178 人は女児)を登録。その中には元子ども兵士143人(うち23人は女児)が含まれています。

<赤十字通信>
 紛争や災害により外部との通信手段が絶たれてしまった難民や収容者などが家族と連絡を取るための手段として「赤十字通信(Red Cross Message : RCM)」という往復書簡があります。赤十字通信は私的な通信に限られ、軍事・政治的内容を記入することはできません。ICRCは、各国赤十字社と連携して、被拘束者や難民から赤十字通信を受け取り、家族のもとに届ける仲介者の役割を果たします。
 2019年には、17万8691通(うち3万2908通は被拘束者から)の赤十字通信が寄せられ、14万1590通(うち1万6724通は被拘束者宛)を届けました。
 
<家族の絆を回復するためのネットワークづくり>
 近年、大規模自然災害や移民・難民問題なども深刻化しており、多くの行方不明者の発生と離散家族の必要性が改めて認識されています。これまで離散家族支援は紛争地においてICRCが行うものが中心でしたが、このような背景を踏まえて、2019年の国際赤十字・赤新月運動代表者会議において、将来的に懸念される気候変動の悪化とそれによる移民・難民の増加等の安否調査を取り巻く問題が改めて認識されたほか、デジタルツールを活用した新たな支援形態や個人情報の取り扱いのルール作りの必要性・重要性なども確認されました。

再会ストーリー ~ヨルダン:18年間の苦難を乗り越えての再会~

 イラクに住んでいたパレスチナ人ユセフ・ナザールさん一家は、イラク戦争の被害から逃れるため、離ればなれとなり逃げなくてはなりませんでした。ユセフさんはトルコに、妻のバスマさんはヨルダンに向かいました。
 バスマさんは、幼い3人の息子と共に2003年にイラクを離れ、ヨルダンの難民キャンプにたどり着きましたが、そこでの生活は身体的にも精神的にもとても大変なものでした。キャンプに4カ月滞在した後、バスマさんはヨルダンのイルビトに向かい、徐々に生活を立て直していきました。
 その時のことを思い返して、バスマさんは 「私は3人の子どもたちにとって母親と父親の両方の役割を果たさなければなりませんでした。多くの問題に同時に対処しなければならず、あまりにも困難な日々でした」と語っています。
 一方でユセフさんの避難民としての生活も困難なものでした。彼は2006年に空路でトルコに逃れましたが、入国するとすぐにトルコ当局によって審査のため2カ月間拘束されました。解放された後に陸路でようやくたどり着いたギリシャでも審査のためにさらに2カ月間ギリシャ当局によって拘束されました。
 悲惨な暴力や死、破壊といった自身の窮地を振り返って、ユセフさんは他国で生活をやり直すことを選び、ベルギーに向かうことを選んだと語ります。「ベルギーでの生活が良くなったのは、この国での居住権を与えられ、長年患っている病気に必要な治療を受けられるようになったからです」 と彼は感謝の思いを語りました。
 ユセフさんの人生に大きな変化がありました。彼はベルギー赤十字社と連絡を取り合い、ベルギー赤十字社がヨルダンのICRCと協力し、彼の家族を見つけることができたのです。初めての再会はSkype通話でしたが、ようやく家族とのつながりを取り戻すことができました。
 18年ぶりに夫、父親に再会した家族の幸せを想像してみてください。イラクの紛争によって父親と引き離された幼かった3人の息子のうちの2人が、今では父親となっている事実が再会までの時間の長さを物語っています。この事実を知れば、皆さんもこの家族に訪れた大きな喜びを想像することができると思います。ユセフさんは、「人生の中でとても困難で大変な時期を乗り越え、ようやく私のそばに家族を迎えることができました。私の人生は今、より良くなっています」 と語っています。

※詳しい記事はこちらから:(英語)

https://www.icrc.org/en/document/jordan-family-reunites-after-18-years

画像 18年間離ればなれになっていたユセフさん一家 ©ICRC

短冊に願いを込めて

 スイスのジュネーブに国際赤十字・赤新月社博物館(International Red Cross and Red Crescent Museum, Geneva)があるのはご存知でしょうか。この博物館の入口の隣には、2020年6月から2021年3月までオノ・ヨーコさんがデザインしたウィッシュ・ツリー(Wish Tree)が立っており、来館者が書いた願い事の短冊が多く飾ってありました。
 2020年から続く新型コロナウイルス感染症の拡大で新しい生活が強いられる中、多くの博物館、美術館も新しい挑戦に直面しました。この状況下で、国際赤十字・赤新月社博物館は、2020年は「来館者との交流」に焦点を当て、「博物館として、危機的状況にどのように共同で努力して貢献できるだろうか」「私たちは地域社会にどんな付加価値を与えることができるだろうか」 という根本的な問いに基づいて活動をしていました。

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 そのような中で、国際赤十字・赤新月社博物館の職員は、来館者との新しい交流の仕方を模索する市民フォーラムとしての地位を確立するために、来館者と美しく希望に満ちたものを作ることが重要だと考えました。そして、オノ・ヨーコさんが1996年に始めてから世界中で展示されているウィッシュ・ツリーが、この2020年の世界的危機への答えのように思われたそうです。
 ウィッシュ・ツリーとなったオリーブの木はまだ博物館に立っていますが、吊るされていた願いが書かれた短冊はすべてオノ・ヨーコさんに渡され、亡き夫ジョン・レノンさんの追慕のためにアイスランド、レイキャビクで2007年に制作された作品 「IMAGINE PEACE TOWER」 に捧げられました。現在までに世界の様々な場所で展示されたウィッシュ・ツリーに約100万人以上の願いが込められた短冊が吊るされたそうです。
 新型コロナウイルス感染症の影響で家族に会えない状況にある人が世界中に多くいます。短冊には、再会の願いを込めた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。


(写真)国際赤十字・赤新月社博物館のウィッシュ・ツリー
(©International Red Cross and Red Crescent Museum)

国際赤十字・赤新月社博物館について:
 本博物館は、人道行動は「現在、ここにいる私たちにどのような影響を与えるのか。」という主要な疑問を投げかけています。来館者とこの問題をよく考えるために、博物館は人道行動の問題、価値観、話題性について質問を投げかける芸術家や文化的パートナーを招いています。このように、オープンかつ活発で暖かい雰囲気の中で、記憶、創造、議論する場となっています。独自の芸術的コンテンツの制作や、スイスおよび世界中での野心的なパートナーシップの発展を通じて、博物館は国際赤十字・赤新月運動やジュネーブの影響力に貢献しています。

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