赤十字の中核事業-救急法の普及
誰もが救急法を学んで、命を救える!と呼びかけるWFAD2021の ポスター (c) IFRC
日本赤十字社(以下、日赤)は、国内での救急法普及を推進することと併行して、2004年より海外における救急法の支援も行っています。これまでにパキスタン、パラオ、カンボジア、ミャンマーなどの国々を支援してきました。今回は、現在の支援対象国である東ティモール赤十字社(以下、東ティモール赤)とラオス赤十字社(以下、ラオス赤)の救急法について、そしてコロナ禍での取り組みについてご紹介します。
アジア地域の救急法講習を後押し
東ティモールは、アジア最貧国の一つともいわれ、インフラ整備が不十分で雨季には洪水や地滑りが頻発しており、2021年4月の洪水被害では、53人の死者・行方不明者が出ました。また、道路交通量の急激な増加に伴い、交通事故も多発しています。しかしながら、医療機関が十分に整備されておらず、市民が自らの手で命を守る応急手当の普及が重要な課題となっています。そこで、日赤は2004年より東ティモール赤の支援を継続してきました。
支部職員のコミュニティ訪問。住民たちとの対話を通じてニーズを把握 (c) 東ティモール赤
東ティモール赤は人材育成に力を入れており、毎年、救急法の指導員養成講習を開催しています。また、支部職員がコミュニティを訪問して住民の話を聞くなど、地域に根差した活動にも取り組んでいます。昨年の世界救急法の日には、ラジオ番組への出演やSNSを活用した救急法普及に取り組み、その様子がテレビ番組でも取り上げられたことから、東ティモール国内における東ティモール赤の認知度も向上しています。
コロナ禍においては、救急法講習の中で感染症予防の知識を普及するなど、変化するニーズに応じた貢献を果たしています。昨年は新たに20人の指導員が誕生し、また地域住民や学生など5,836人が救急法のワークショップに参加して、知識を身に付けるという成果をあげました。
高校での救急法講習実施の様子 (c) ラオス赤十字社
コロナ禍でも普及を止めないために
2020年以降、新型コロナウイルス感染症の流行により、各国赤十字・赤新月社の救急法普及事業も大きな影響を受けています。2021年7月、計5日間にわたってオンラインで行われた「アジア大洋州地域救急法会議」では、世界的に新型コロナウイルス感染症が流行し、従来の対面型の講習実施が難しい環境下において、各国赤十字・赤新月社がどのように工夫をして救急法普及に取り組んでいるのか、具体的な活動例が共有されました。その中から2つの事例をご紹介します。
実技体験用に自宅でマネキンをDIY! (c) スウェーデン赤十字社
欧州から会議に参加したスウェーデン赤十字社では、現在すべての対面講習を中止し、オンラインのライブ型講習により指導員が画面越しに指導しています。受講者が自宅からでも手軽に、胸骨圧迫の実技を体験してもらえるように用意するのが、ペットボトルとタオル、Tシャツで作る“DIYマネキン”。正確な技術を学んでもらうために、後日、最寄りの支部へ訪問してもらい(密を避けるため1回1名ずつの予約制)、胸骨圧迫練習用の本物のマネキンや包帯を使用して実技指導を行っています。
シンガポール赤十字社では、同国内の大学と協働して救急法を学べるWebコンテンツやアプリの開発を行いました。クイズ等を用いた知識取得型のオンラインのみの講習と、オンラインで事前に知識を身に付けてから対面で実技指導を受けるハイブリッド講習の2種類が用意されており、受講者は自身の関心や都合に応じて選択することができます。
日赤も、オンライン講習の開催や、YouTubeを活用した指導員研修を行うなど、感染防止に努めながら救急法の普及を継続しています。たとえば、日赤東京都支部では、東京2020オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の職員やボランティアリーダー対象の救急法短期講習をオンラインで22回実施し、3,241人が受講しました。
日赤は今後も、各国赤十字・赤新月社と好事例を共有し学び合いながら、コロナ禍、そしてアフターコロナの世の中においても、安全対策を徹底し、より効果的な救急法普及に取り組んでいきます。そして一人でも多くの方に命を救うための知識と技術を身に付けていただけるよう、日本国内、そして海外赤十字社への支援を通じた国外における普及に努めていきます。