今、この時代に考える「人道」
突然ですが、皆さんは「人道」という言葉の意味を説明できますか?
赤十字においては、「国際赤十字・赤新月運動の基本原則」(赤十字基本7原則。以下、赤十字7原則)の筆頭が「人道」であり、あらゆる状況下において、人間のいのちと健康、尊厳を守ることを第一に考え、苦痛の予防と軽減に努めることを指します。
これは、今から160年以上前に、赤十字の創設者であるスイス人のアンリ・デュナンがイタリア統一戦争の激戦地で負傷者の救護に自ら携わり、「傷ついて戦うことができなくなった兵士はもはや兵士ではなく、一人の人間であり、敵味方の区別なく救護しなければならない」と考えた原体験から生まれたものです。このような「人道」の原則は、今では赤十字だけでなく、国連機関などにも広く共有されるようになっています。「人道」の原則が赤十字のネットワークを超えて広く普及し、人々に浸透することで、より多くの苦しんでいる人々を救うことにつながっています。しかし「人道」の原則は、それ自体が理解されることだけでは不十分です。それが実際の活動で体現されなければなりません。そのことを身を持って知り、率先しているのが赤十字といえます。
「人道」をテーマとした展覧会が開催されます
このたび、赤十字国際委員会(ICRC)や在日スイス大使館が開催する作品展「今、この時代に考える『人道』」が恵比寿ガーデンプレイス、日仏会館、特設ウェブサイト、その他様々なオンライン企画等を通じて、10月2日より実施されることになりました。
※詳しくは下記特設ウェブサイトをご覧ください。
この企画は、スイス国内外のアーティストの写真や作品を通して、今日の人道原則や概念を問いかけることを狙いとしており、スイス外務省が赤十字国際委員会(ICRC)やエリゼ写真博物館(スイス・ローザンヌ)との共催により、全世界で展開している企画の日本版です。元々は、東京オリンピックとの相乗効果を念頭に、2020年6月の開催を目指していたのですが、その後延期となり、新型コロナウイルス感染症の感染状況がなかなか見通せない中ではありますが、できるだけ人流を抑制し、密集を避けられるように展示方法を工夫してきました。
今年だけでも、ミャンマー、イスラエルとパレスチナ、そして最近ではアフガニスタンなどの人道危機が日本でも多くのメディアを通じて取り上げられました。もちろん、こうした紛争や騒乱だけでなく世界各地で頻発する気象に起因する洪水、熱波、そして地震などの自然災害も「人道」の原則をもって対応する必要のある「人道危機」です。これら全ての現場において、人間のいのちと健康、尊厳を守ることを第一に考え、より困難な状況にある人々の苦痛の予防や軽減に努めることが求められています。
この機会に改めて、皆さんにとっての「人道」とは何か、考えてみませんか。
赤十字7原則はピラミッドで表現できることを知っていましたか?
1965年にオーストリア・ウィーンで開催された第20回赤十字国際会議で赤十字7原則が決議され、宣言されました。赤十字7原則は、赤十字の長い活動の中から生まれ、形づくられたものです。「人間の生命は尊重されなければならないし、苦しんでいる人は、敵味方の別なく救われなければならない」という「人道」こそが赤十字の基本で、他の原則は「人道」の原則を実現するために必要となるものです。
赤十字7原則については、「人道」「公平」「中立」「独立」「奉仕」「単一」「世界性」の順番で1つ1つ説明されることが多いのですが、スイスの法律専門家でもあり、かつて赤十字国際委員会(ICRC)の副総裁を務めたジャン・ピクテ(Jean Pictet)氏は、この赤十字7原則を目的や重要度からピラミッドで表現しました。
一番上にある「人道(Humanity)」と「公平性(Impartiality)」は実質的な原則であり、人道的活動の「目標」となるものです。 「中立(Neutrality)」と「独立(Independence)」は運用上の原則であり、人道支援者にとっての「ツール」となるものです。 最後に、「奉仕(Voluntary Service)」、「単一(Unity)」、「世界性(Universality)」は赤十字組織の土台を構築するもので、上4つの原則を支え、人道的活動を可能にしています。
このピラミッドは、7つの関係性をよく表しています。赤十字・赤新月社運動は、どのような時も赤十字7原則をもとにして考え、行動しています。